第一章
第一大陸 アルカルデ
大地は、豊かな緑に覆われていた。
動物が適度な間隔で放牧され、山から溢れる水は生活を支えている。
アルカルデはその山脈と、キリカの恩恵を受けた鉱山からの資源により、
最も発達した都市部をかまえた大陸だった。
少し行けば、ビルの立ち並ぶ人が多くあつまる都市が
海を挟んだ向こうに見えた。
カジノの管理人、シュナイツは突っ立っている優男を見下ろし、葉巻をくわえた。
男は何人ものシュナイツの部下に囲まれ、冷静を保った無表情で眼鏡のふちを押し上げる。
シュナイツは、装飾の派手なスーツからマッチを取り出し、火をつける。
シュナイツの顔には下品な笑みが浮かべられていた。
「それで、アンタ一人で何とかしようってのか」
「…あまり暴力に頼らない方がいい、不健康だ」
部下が各々、ナイフや拳銃をチラつかせているのを見渡し、男は静かに言う。
シュナイツは燻らせた葉巻の煙を男へ吐きつけ、
軽く手を挙げた。
「やれ」
一斉に男へ部下が飛び掛った。
男は未だポケットに手を突っ込んだまま、不敵に笑ってみせた。
部屋を出たシュナイツは、自室に戻るため、エレベーターのボタンを押す。
趣味の悪い、黄金のエレベーターが階数を重ねてゆくのを見ていたシュナイツは、
ふとエレベーター越しに背後を見やる。
そんなばかな。
そう思いつつ、シュナイツは後ろを振り返った。
「そうだ、その葉巻もよくない」
「お前はさっきの…?」
ひゅっと鼻先を男の足が掠った。
細長い足が目の前を通り過ぎた瞬間、くわえていた葉巻がぼとりと半分床へ落ちた。
突然の事態に小さく悲鳴を上げたシュナイツは、わなわなと震えあがり、尻餅をついた。
背後で誰も乗っていないエレベーターがチン、と開き、男はシュナイツの腹を蹴ってそこへ押し込んだ。
「不健康極まりない…」
扉が自動で閉まるより早く、シュナイツは閉まるボタンを連打し、
一階を目指した。
もう一度扉が開いた時、シュナイツを待ち構えていたのは警察だった。
アルクは、一週間以上調査から帰還しない従者を心配していた。
温室の花に一通り水を与えたアルクは、従者がいつも入ってくる窓を見上げる。
透明な温室のガラスからはきれいな星空が一望できた。
アルクは持っていたジョウロを机に置き、
少しだけ外で待ってみようかとカーディガンを羽織った。
冷たい夜の風が吹く温室の外は、アルカルデの都市トーガが遠く見える。
「遅いな、何かあったんじゃ…」
そんな落ち着かないアルクの耳に、突如凄まじい音がつんざいた。
ガラスが割れた音に気づいたアルクは、真っ青になり、すぐさま温室へと戻った。
音源へ駆けつけたアルクは、穴の開いた温室の側に馬が倒れていることに気づいた。
どうやらガラスを粉々に砕いたのは、この馬に違いない。
アルクは怪我をしている馬をそっと撫でると、人のうめき声に気づいてハッと顔を上げた。
馬から少し離れたところに、女性が横たわっている。
「だ、大丈夫ですか?!聞こえますか?」
女性はうめき声を上げるばかりで、何も言わない。
とにかく床に寝かせておくのも難なので、アルクは女性を背負い、来客用のソファーに寝かせた。
「早く帰ってきて、レクシウス…!」




