01-20 鳶は舞う
『止まない雨は〜♪ きっと無い〜♪
一概には〜♪ 言えないけど〜♪』
「フォーラ……それ、子守唄のつもりか?」
スピーカーから響く、可愛らしい歌声に反し情緒もへったくれも無い歌詞に、俺は苦言を呈す。
自室のベッドで横になった途端にコレだった。
『今晩は必要かな、って思って』
「……気持ちだけ受け取っておくよ」
明るく『どういたしまして!』と応えたのを聞きながら、両手を枕と頭の隙間に滑り込ませる。
『ねぇ、ミナト』
「なんだよ」
『スケアクロウ隊、どうするの?』
その口調には、懸念する様子が窺えた。
「続けるよ。俺が一番機になって」
間を置かず、そう返す。
『無理しなくていいんだよ? 別部隊への再編成を視野に入れても——』
「フォーラ。俺は背負ったものを下ろすつもりは無いよ」
カラス共を、星に変える。その誓いは、まだ成し遂げられていない。
『それは、仇討ちをするために……?』
不安そうな声を出す彼女に、俺は思わず噴き出していた。
『な、何が可笑しいのよぅ!』
「いや。お前もまだ人の心を完璧に読み取れるわけじゃないんだな、って」
『どうせ不出来ですよーだっ!』といじけるのを、宥めるように続ける。
「馬鹿にしたんじゃ無いんだ。嬉しいんだよ。そういう所が、人間臭くてさ」
『そ、そういうものなの?』
小首でも傾げてそうな口振りだった。
「逸れたけど、仇討ちのつもりは無い。隊長は覚悟の上で戦ったんだ。そしてあの最期に、悔いは無いと思ってる」
(まあ、教え子にやられたのは気に食わねぇがな)
くつくつと笑ったあの時の彼は、どこか誇らしげでもあった。手口や戦局はどうあれ、クランプ隊長は上回られたのだ。ヴァルチャー隊の頃、彼が負かし続けてきた、あのリックに——
俺には、まだその気持ちの全てを理解できるわけじゃない。
それでも隊長は、確かに満足して空に還ったのだと、そう信じている。
きっと敵への復讐は望まないはず。軍人として。何より、教官として。
『違うのなら、なおの事カラスを追う理由は無いと思うんだけど……』
「ん、どうして?」
『だって、ミナトの背負った願いは、リックの代わりに彼の事を語り継ぐ事でしょ? そのリックが、形は歪でも、生きていたんだし……』
彼女は言葉を詰まらせた。だが言いたい事の察しはつく。信念と行動が、反している、と。
「分かってるよフォーラ。でもカラスは——いや、リックは、俺が墜とす。必ず……」
彼女の返事は、無かった。俺の言った事が、理解出来なかったのかもしれない。
俺自身、なぜそう決めたのか、頭では分かっていない。
けど俺の心が、そう求めた。ただそれに従った。
暗い天井を見ていた眼を閉じる。目蓋の裏に焼き付いた様々な光景。しかしもう哀しみは無い。
そこに上書きするように、夢想する。白い機影を駆るかつての友。黒い機体を舞い踊らせる俺。二人と二機が、その軌跡で幾つもの曲線を描く大空——いつか訪れる、決戦のイメージを。
ミナト・ハルモニア。因縁の敵——その内に宿る旧友。親同然に慕った者の喪失。葛藤と寂寥に苛まれながらも、己が為すべき事を見定める。この時の彼は、まだ十九歳だった。
— 双曲のクロースター 第二幕 【完】 —
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【第二幕 あとがき】
こんにちは、作者の下田 空斗です。
第二幕まで読み進めて頂き、
ありがとうございます!
戦場であるがゆえの必然。
しかし、頭では分かっていても、
ツラいものはツラい。
ミナトに感情移入して読んで下さってる方は、
是非彼と共に乗り越えていただければ……!
次回、最終章!
彼らに待ち受ける結末はいかに!
最後までお見逃しなく!
彼らの応援ついでに、
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私のモチベーションにも繋がります!
何卒よろしくお願い致します!!
では、第三幕でお会いしましょう。
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