従妹
恭一の祖父は隣の自宅に戻り、母親は合い挽きミンチを買ってくると言い出掛けていった。ロールキャベツは恭一の好物なので山盛り作るつもりだろう。麻人や悠にも振る舞うつもりかもしれない。母、加奈は料理が好きで特に和食は絶品だと恭一は思っている。
麻人が見守る中、恭一と悠が庭で素振りを楽しんでいる時だった。
「恭くーん! 猫飼いだしたの?」
突然、部屋に勢いよく女の子が入ってきた。
「奈穂ちゃんか。来てたんだ」
麻人と悠が「誰?」というような顔をしているので、恭一は彼女を紹介した。
「従妹の奈穂ちゃんだ」
時田奈穂は、恭一の父親の姉、昇子の1人娘で中学3年である。おそらく、昇子も来ているのだろう。恭一は、昇子のことが少し苦手である。派手な身なりで、よく喋り、恭一にとっては疲れる相手だ。
恭一は、奈穂に麻人と悠を紹介した。恭一と悠が、竹刀を持って並んでいる所に奈穂が近付き、恭一の腕を組んできた。
「恭くん。なんで一緒に練習してるの?」
と下から恭一を見上げた。奈穂は、昔から恭一に懐いている。
「私も恭くんと練習したい」
と奈穂は少し怒っているような顔で恭一を見ている。
「危ないからやめておけ」
と恭一はケガをさせてはいけないと思い気を遣ったつもりだが、奈穂は拗ねてしまった。
「ゴメンね。悠は時代劇が好きでね。恭一君が相手してくれてるんだ」
「そう」
奈穂は縁側に腰かけている麻人の横に座った。
「恭一君は、奈穂ちゃんにケガをさせたくないんだよ。うちの悠は、あの通り男勝りだからね」
と麻人は笑顔で奈穂に話している。
「恭一様。奈穂さんは怒っていませんか? 何か勘違いをしているのでしょうか? 女の人は難しいですな」
「気にするな。悠、お前も女の子だぞ」
「そうでした」
と悠は少し笑い、恭一と一緒に素振りをしながらコソコソ話した。
そこへ、花柄のワンピースを着た昇子がやってきた。
「奈穂、帰るわよ」
麻人の横で、ビハクを撫でている奈穂が振り返り母親を見た。
「昇子おばさん、こんにちは」
恭一は素振りをやめ挨拶をすると
「恭くん。相変わらず剣道の練習、頑張ってるわね。高校は慣れた?」
「はい」
恭一は昇子に一言だけ返事をした。
「こんにちは」
麻人が昇子に、にこやかに挨拶をした。
「お友達? 恭くんと違って笑顔でいいわね」
恭一は、昇子に愛想よくしているつもりだが、全く伝わっていないようだ。
恭一の母親が、昇子に夕食を誘っていたが、旦那さんが待っているからと言い奈穂と一緒に帰ってしまった。
帰り際、奈穂は「また来る」と言い、恭一と悠を睨んでいるように見えた。そして、麻人にはニッコリ微笑み去って行った。
「恭一君。奈穂ちゃん、ちょっと怒ってたよね。悠に取られたと思ったのかな?」
「そうなのか?」
恭一は、奈穂のことは妹のように思い可愛がっているつもりだ。けれど、少し我儘なところがあり困ってしまうことがある。
「恭一様。今後は気を付けます」
「気にするな」
恭一は、悠の気が回るところは変わっていないなと思った。