ベランダの朝顔
「ベランダの植木鉢に、朝顔の花が咲いてるんだ」
麻人は、前を歩く悠に視線を向けながら恭一に語った。
「朝顔……麻人が育てて?」
「ううん。悠が種を貰ってきて。毎日、水をやってるよ」
「朝顔か、夏らしくていいな」
「僕さ、朝顔好きだな」
「俺もだ」
恭一と麻人は、並んで静かに歩いていた。
「あの。僕も好きです」
景山が急に振り返り、恭一と麻人を見ている。
「あ……そうなんだ」
恭一は、とりあえず反応したものの、その先は話が続かなかった。
「景山君、種ができたらあげるね」
悠に言われ、少ししょんぼりしていた景山が顔を上げた。
「恭君。悠ちゃん、すごいのよ。ほんとに歩きづらいわ」
恭一達の前を歩いていた奈穂が、足を止めた。彩音と奈穂はゆっくりと歩いているが、悠は颯爽と歩いている。
恭一は、昨年の花火大会の帰り道、奈穂をおぶって帰ったことを思い出した。下駄の鼻緒が擦れて、足の甲の薄皮がむけてしまったのだ。
「奈穂ちゃん、今年はおぶらないからな」
恭一は、笑いながら奈穂を見た。
「分かってるわよ。今日は、これを履いてるから大丈夫」
奈穂は、足元を指さした。奈穂は、レース素材の足袋を履いている。
「それ、すごく可愛いよね。レースで涼しそうだし。私も今度買おっと」
彩音が、奈穂の足元を眺めている。
「何足かあるから、彩音ちゃんに今度あげる」
「こんなのあるんだ。可愛い」
悠も、奈穂の足元を見ている。
「悠ちゃんに足袋はいらないわよ。歩き方、かっこいいわよ」
「ほんと、男前ね」
彩音に男前と言われ、悠は「えーっ」と言いつつも笑っている。
可愛い浴衣を着ているのに、きびきびと歩く悠はとても凛々しい。むしろ、麻人の方が物静かでおしとやかかもしれない。その対照的な様子に、恭一はくすりと笑ってしまった。
「ねぇ、花火が始まる前に何か食べない?」
悠と奈穂は、彩音の提案に「うん、うん」と頷いている。
花火が打ち上る会場まで、屋台が並んでいる。
「景山君も行きましょ」
彩音に手を引かれ、景山は赤い顔で下を向いている。
彩音と奈穂と悠は、わいわい言いながら屋台を巡り、その後ろに景山がちょこんと立っている。
「みんな楽しそうだね。悠、あんなに笑って」
「そうだな。姉さんも奈穂ちゃんも、はしゃいでるな。影山君も笑ってる」
「僕も、とても楽しいよ。恭一君は楽しい?」
「えっと……もちろん」
にっこりと笑う麻人に、恭一は少し戸惑った。
恭一は、今日を心待ちにしていた。家で麻人や景山の浴衣を選びながら、わくわくしていたのだ。
「恭一君、この浴衣、ありがとね」
「ああ」
恭一と麻人は、人々が行き交う道をただただ歩いていた。みなの笑う姿を見て、自然と口元がほころぶ恭一だった。




