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麻人の記憶

 ベッドの上の麻人が、恭一と悠に向かい

「京之助様。雄吉」

 と確かに言った。恭一も悠も、こんな状況でふざけているのかと思い固まっていた。


「ちょっと、2人とも何? きょとんとした顔をして」

 麻人が少し呆れた顔で言った。


「いや、こんな状況でそんな冗談……」

 恭一が困ったような顔をしている。

「冗談じゃないよ。実は、僕、思い出したんだ」


 恭一と悠は、はっとした表情で麻人の顔を見た。

「もしかして、前世の記憶が?」

 恭一が恐る恐る聞いた。


「うん。自転車で転んだ時、頭を打って一瞬クラっとしたんだ。その後、急に頭に色んな記憶が流れ込んできたんだ」

 麻人は、前世での自分を思い出し困惑した。けれど、恭一や悠が前世の名前を呼び合っていたことを振り返り、前世で一緒に過ごしていたのだと気付いた。


「僕、思い出した時は驚いたけど、すごく嬉しいんだ。また2人に会えた」

「お兄ちゃん!」

 悠は麻人に抱き着き、涙を流し喜んでいる様子だ。


「俺も嬉しいよ。麻人と悠に会えて」

 恭一は、頭を掻きながらモジモジした。


「恭一君は前世の雰囲気があるけど、悠はすごく可愛くなったね」

「え~? それ、恭一様にも言われた」

3人で笑っていると、彩音が病室に入ってきた。


「どうしたの? とても楽しそうね」

「彩音さん。お兄ちゃんが前世を思い出したんです」

「そうなの? スゴイじゃない。麻人君は、前世では恭一の奥さんだったのよね?」


 彩音の言葉を聞き、恭一と麻人はお互い視線を合わせた。そして、同時に爆笑した。恭一も麻人も、少し照れてしまったのもあるが、やはり可笑しくて笑ってしまった。


「2人とも、笑いすぎよ。複雑な状況だけどね」

 彩音も少し笑っている。


「それはそうと、麻人君。滝の希水(きすい)君って覚えてる?」

 彩音が問うと、

「希水……ああ、覚えてるよ。どうして知ってるの?」

「実はね、希水君が麻人君にまた会いたいって言っていたの」


「お兄ちゃん、今日はみんなと一緒に祠に行ってたの」

「そうなんだね。僕も希水に会いたいな」

 麻人は、少し目線を下にしてニッコリ微笑んだ。


「麻人は、前世で希水君が見えていたのか?」

「うん。僕は前世で少し霊感があったようなんだ。あの滝で、希水とはよく話したよ」

 恭一は、前世の妻に霊感があったことを知らなかった。


「恭一君と悠は、希水が見えたの?」

「ビハクに触れていると、見えたんだ」


「うちの家はね、代々女性に限って霊感を持った人が生まれるようなの」

「知らなかった。姉さん以外にもいるの?」

 恭一が彩音に聞くと、

「私以外だと、実は昇子おばさんも少し霊感があるのよ。隠してるけどね」


 恭一は、昇子に霊感があることは全く気付かなかった。若い頃は、神社で巫女をしていたのは聞いていた。そういえば、趣味で占いのようなことをしていると言っていたような……


「ねぇ、麻人君! 今度、みんなで希水君に会いに行きましょうよ」

「うん。行きたい」

 麻人が目を輝かせている。


 彩音の提案で、来週の日曜に滝の希水に会いに行く約束をした。

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