恭一の思い出
恭一は、ベッドに横たわり山林で祠を発見したことを思い出していた。随分と古そうな物だった。麻人はボンヤリと眺めていたが、悠は手を合わせ見つめていた。悠は何かを知っているのかもしれない。思えば、前世では自分の方が先に死んでしまった。悠は、その後どのように生きたのだろうかと恭一は考えた。
恭一もまた、前世の自分が生きた300年ほど前を回顧した。
武士の長男として生まれた京之助は、父親のような立派な武士になるために日々精進していた。京之助は武士に誇りを持ち、武道に学問に努力を惜しまなかった。また、2歳下の弟、3歳下の妹を大事にしていた。そんな中、京之助が17歳の時に父親が他界した。京之助は当主となり、家を守ることになった。
そして、20歳になると、許嫁であったアサと結婚した。アサは神社の娘で当時16歳だった。今まで、自分を厳しく律し生真面目に生きてきた京之助にとって、穏やかなアサの笑顔に心が安らいだ。
結婚して数か月がたった頃、親類の屋敷が全焼したと聞き、すぐに様子を見に行った。焼け落ちた屋敷を見て、おそらく生存者はいないであろうと諦めていた時だった。1人の子供がうずくまっているのを発見した。その子供が雄吉であったのだ。雄吉は、両親と兄を失い憔悴していた。そんな雄吉を、京之助は引き取ることにした。
雄吉は呑み込みが早く、武道も学問も驚くほどの上達だった。京之助は、自分の跡取りとして申し分ないと思ったくらいだった。その後、アサが男児と女児を出産し、雄吉はその子達を大切にしてくれた。
子供達はまだまだ小さいので、京之助が出掛ける時はいつも雄吉を側においていた。思えば、雄吉との思い出の方が多いかもしれない。
雄吉とは共に剣術の稽古をよくしたものだった。素振り千回に雄吉はよく耐えていた。一緒に狩猟にも行った。また、共に書を学んだり和歌を詠んだりもしたものだ。囲碁や将棋も楽しんだ。そういえば、当時も雄吉はよく食べ幸せそうに白飯を食べていた。前世も今世も変わらないなと思い、恭一は小さく笑った。
前世で共に過ごしたのは10年程だったが、楽しい時間だった。病で先に死んでしまったが、死に際に「家を頼む」と雄吉に言い残したと思う。雄吉がいてくれたお陰で安心できた。責任感の強い雄吉に押し付けてしまい、苦労させたかもしれない。
恭一は、知らぬ間に寝入ってしまった。
恭一は夢を見た。前世の妻、アサが石造りの祠に向かい手を合わせている。祠の横には石碑がある。アサの目には涙が浮かび悲しそうな顔をしている。そして、彼女の後ろには白い猫が座っている。ビハクだろうか……




