第十話 罠
引っ越ししたので、執筆環境整えるのに時間かかりまして。
投稿速度復活まではまだ幾日かかかるかと。、
「まずい! モントラだ!」
パーティーに非常事態を告げるナルセ。
同時に、ユェンユェン、ピーツ、モミタと、互いに背を預け円陣を組んだ。
モントラとは、モンスタートラップの略称で、召喚魔法を用いたダンジョン内の罠である。大勢のモンスターに突然取り囲まれてしまう厄介なこの罠は、クエスト攻略にあたって気をつけなければならない要素の一つだ。
にもかかわらず。
ナルセ達は今、盾と鎧を装備した骸骨剣士に囲まれていた。カラカラと顎を鳴らしながら、ゆっくりと迫ってくる。
「あ〜らら……よくもまあ、たくさん出て来たもんだな。世の中甘く無いな」
「集計が完了しました。モントラで召喚されたモンスターは全て骸骨剣士。その数、百匹です」
骸骨剣士と言えば防城系アンデッドの典型的なモンスターである。決して強いモンスターと言うわけではないが、ちょっと数が多すぎる。
だがユェンユェンの口調はあくまで冷静で、ピーツは淡々と状況を報告する。
焦った様子は微塵も無い。
「ふん、弱き者ほど群れたがる。笑止千万」
「いや……、あの〜、余裕かましてますけどねぇ? こうなったのはモミタさんのせいですよ! 僕の注意を無視して、ガンガン宝箱開けていくんだから!」
ナルセの叱咤が響くこの場所は、暗黒騎士が住まう暗黒城である。
† † †
ザインに怒鳴り散らされて、ナルセ達一行は竜刻館を追い出されるように動き出した。
『此処より、立ち入りを禁ず』
警告をうながす看板はギルドが立てた物だ。先日破棄認定されたばかりだけに警告看板も新しい。
「ここから、破棄案件……」
ナルセはゴクリと生唾を飲んだ。
ギルドが立てた看板には従うこと。これは冒険者だけの知識ではなく、この世界の住人全員の常識だ。『立ち入り禁止』の看板は、命の危険が伴うという意味だ。勇気を出して一歩踏み入れるナルセに対し、何食わぬ顔でズカズカと入っていく三人。
「ぼさっとすんな。置いてくぞ」
「ちょ! 待ってくださいよみんな!」
こうしてナルセは暗黒城に足を踏み入れ、初めてクローズクエスト攻略を開始するのだった。
クエストの目標は、A級冒険者を倒したと言われる暗黒騎士の討伐ではなく、あくまでダンジョン内の宝箱の回収だ。
「ぬははは! 見ろナルセ。宝箱が沢山あるぞ!」
中央広間を抜けて廊下に入ると、あからさまに宝箱が置いてあった。
モミタは躊躇なく宝箱を開けていく中には金貨や銀貨。
大金だ──。
「ちょ、モミタさん! そんなに焦って開けないでくださいよ!」
「ナルセ! まだその名で呼ぶか! 我が名はマチファルド・モミタ・ルダツァルア。『†魔血流堕†』と呼べ!」
「あー、はいはい。またその話ですか」
呆れながらナルセはモミタが開ける宝箱の中身を回収する。
「流石はザインだ。あいつこれを狙っていたんだな」
ユェンユェンがボソリと呟く。
「え? どういうことですか?」
「ナルセ。回収した宝箱の中身を、もう一度見直してみな」
「あー、はい。えーっと……」
と言ってナルセは回収した硬貨を数え始めた。
「二九、三十……。合計で三百万ゴールド……。結構いい稼ぎですね。あ!」
「気づいたようだな。そう、この城にはどうやらゴールドしか無いようだ。宝石や装飾などの類は、かさばり荷物になる。私達にとっちゃ、現金が一番手っ取り早い報酬になるからな」
「財宝が無くて、回収が楽……、だから僕にピッタリのクエストだって訳か。ザインさん凄いや」
「三百万ゴールドは、新米冒険者が稼ぐ一年間の平均報酬と、ほぼ同等です」
「ピーツさんの言う通りですね。今回はこれで十分かも」
ナルセは尚も宝箱を開けるモミタに声をかけた。
「ちょっと、モミタさん! 今日はもう帰りましょう。十分稼ぎましたよ」
「はぁ? 汝がポンコツである所以はそういう所だぞ。目の前の宝は全て手に入れる。それが冒険者というモノだ」
「いやいや、ココには暗黒騎士が棲んでいるんですよ? 遭遇したら勝ち目がないんだから。さっさと帰りましょう?」
ナルセの意に介さず、モミタは点々と落ちている宝箱を根こそぎ開けていく。
「あー、もう聞いてないし」
……点々と。
宝箱は彼女を導くように等間隔に置かれていた。
「見よナルセ。この宝箱で最後のようだ」
パタリと足を止めて呟くモミタ。
それはこれまでの物と違い大きく、装飾が施された立派な宝箱が一つ鎮座していた。
モミタを追いかけて、気づけば一行は薄暗くも少し広めの部屋に入っていた。
「う〜ん。あからさまに怪しいですよ。この宝箱。それにこの部屋、気持ち悪いから早く帰りましょ」
「臆病者めが。宝を眼前にして何を躊躇する必要があろうか。いや無い」
「いや、有る! 有りますよ! さあ帰りましょ!」
「い……イヤだイヤだ! 開けたい、開けたい!」
モミタは愚図り出し、宝箱に手をかける。
「ちょ!」
ガチャリ。
忠告を振り切り、モミタは宝箱の蓋を開けた。
刹那──。
すぐさま辺りは漆黒の闇に包まれ、そこから骸骨剣士が姿を現したのだ。
「まずい! モントラだ!」
† † †
モンスタートラップはピンチで有りつつも、チャンスであると語る冒険者も居る。大量のモンスターを倒すことができれば、大量の経験値と大量のアイテムを入手できる。さらにレアアイテムのドロップも期待できるのだ。
「ナルセ。そこで見てな。ピーツ、防御を固めてくれ」
「承知しました、ユェンユェンさん」
するとユェンユェンは目を閉じて深く腰を落とした。
それを見てピーツはパーティーの最前へと移動し、大きな箒──いや、ランスを地面に突き刺す。
そして体を大の字に広げて言い放つ。
「当機が鉄壁の守り、崩してみよ。虚ろなる剣士ども!」
「ちょ! ランスを使わなきゃ! ピーツさん、危ない!」
ナルセが叫ぶも構わず襲い来る骸骨剣士。
ガキン‼︎
しかし叩きつけられる剣を難なく弾くピーツ。
彼女の前に見えない壁があるような──。
「ぇえ? マジで⁉︎」
するとユェンユェンの詠唱が聞こえてきた。
「風よ、我が一撃の元に荒れ狂え! 竜巻弾丸風魔法!」
右腕に血管が走る。
太さは倍に膨らみ、筋肉が割れた。
強く握りしめた拳に風が集まる。
すかさずピーツはユェンユェンの前を空ける。
「ハァ────────ッ!」
前に突き出した高速の正拳突き。
螺旋状に捻れた空気は竜巻となり、骸骨剣士の群れに放たれた。
ズオオオ!
激しい音を立て、骸骨剣士を蹴散らしていく。
「もういっちょ! ハァ────ッ!」
今度は左手で正拳を突き、竜巻は連続で放たれた。
バラバラに砕ける剣士の骨。
「す……凄い! けどこれ魔法か⁈」
ビシュン!
一騎当千の活躍に唖然とするナルセを、横切る黒い筋。
ピシッ! キン!
弾かれる金属音!
それはクルクルと空中を回り、ザシュっと地面に突き刺さる。
──ッ剣!
すぐさま、ナルセは飛んできた方向を振り返る。
──くッ油断した!
その先には骸骨剣士の残党の姿。
自らの剣をナルセ目掛けて投げつけたのだ。
「ふん。自らの武器を投擲とは愚の骨頂。我が聖鞭の前に、無力なり」
弾かれる金属音は、モミタの操る鞭が剣を空中で弾た音だった。
「……モミタさん」
「骸は骸らしく灰燼と化せ! ホーリーウィップ:ファイア!」
鞭は炎を纏い、モミタは激しく打ち付ける。
ジュピシッ! ボオオオ!
あたりを劈く空気の破裂音。そして同時に舞い上がる炎。
灼熱の衝撃は、一帯に広がる!
「熱!」
ナルセが熱を感じた頃、骸骨剣士は灰になった。
「い……一掃」
しかしナルセは違和感を抱く。
鞭はアンデッド系モンスターに対して有効だ。
だが、モミタは吸血鬼。吸血鬼はアンデッド──。
「モミタさんは吸血鬼なのに、鞭使いなんですか⁉︎ 鞭は吸血鬼を討伐するための鬼滅武器。それに聖火を纏うとか……」
「笑止。吸血鬼が鞭を使っては為らぬという道理があろうか。いや無い。我が操る鞭は聖火を纏う。アンデッドは聖火に対して脆弱也」
──こ、このパーティー。強い……けど、なんかおかしい。ランスを使わないランサー。筋肉で魔法を繰り出す魔法使い。聖鞭を操る吸血鬼!
あと、オートチェスにどハマりして、執筆速度がクソほど低下してます。




