第五章『音を楽しむ』
「バーベキュー行くんだって」
過去に戻って真っ先に聞いたのは、迷のそんな台詞だった。
「田宮君の提案で、皆でバーベキュー」
「そっか、田宮なら安心だな」
田宮は、クラスのまとめ役のような人物だ。個性的な人物が多かったあのクラスでいじめや衝突などがなかったのは田宮のおかげと言える。
「それじゃ、頑張って行ってこいよ」
「そうじゃなくてぇ……今日の礼二君は暗い方の礼二君なのかなあ」
迷が困ったように声を小さくする。
「礼二君もいてくれたら心強いなって」
「友樹の奴がおるじゃろ」
「また四人で集まろうよ。私、四人で集まるの好きだな」
そう言われると、弱かった。
「……参加するつっといて」
迷の声のボリュームが、急に大きくなった。
「ありがとう。また酔っ払ったら守ってね!」
懲りてないのか。僕は頭を抱えたくなった。
迷は以前、酒に酔ってホテル街に連れ込まれかけたという過去がある。
「お前もう今後酒一滴も飲むなよ。私弱いんですって言い訳してさ。吐きますっつえば流石に免除されるだろ」
「けど私、お酒飲むの好き……」
「家で一人で飲め。そんじゃあな」
そう言って、携帯電話を切った。
この、やり直しがなかった前には存在しなかったクラスメートとの交流。僕は、良い方向に行きつつある。
けれども、由美子の存在は、僕の人生から消えつつある。
それが、僕の心を迷わせた。
とりあえず、デスクトップパソコンの前に座り、ゲームを起動する。そして、古いキャラを一体消して、新しいキャラを作る。将来プリーストとなるそのキャラは、由美子のキャラクターとの相性が抜群で、僕達はとたんに意気投合した。
由美子と出会ったのはいつ頃だったか。
思い出せない。
それまでに、このキャラクターのレベルを上げておく必要があるのだ。
僕は歴史を修正した。そして、再度修正しようとしている。
他キャラクターのレベルを上げる時間を削って、このキャラクターだけのレベルを上げていれば、いずれ由美子に近づくのだ。
僕は胸が焦がれるような思いで、ゲームの世界にログインした。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
バーベキューは順調だった。食材や調理用具などを提供してくれる場があり、それを利用したらしい。
竜児の奴も懲りずに来ていた。懲りずに酔っている。こういうどうしようもない人種もいるのだなと思った。そして、不思議なもので、そういう連中はそういう連中で集まってグループとなっている。田宮も、顔をしかめていた。
そして、何故か僕の隣で肉をつまんでいる迷も酔っていた。
「お前はアホか」
「おーまーえーはーあーほーかー」
「ごめん、元ネタがわからない」
「知らないの?」
「知らない」
「私も知らなーい。お母さんに聞いただけー」
そう言って、迷はけたたましく笑った。
「誰だ、この馬鹿に飲ませた馬鹿……」
「俺」
悪びれずに友樹が言った。彼女自身も、ビールを飲んでいる。
「美味え、やっぱ肉にはビールが一番だな。礼二も飲むか?」
「やめとくよ。未成年だ」
本当は二十歳なのだが、過去の大学生活ではその件で竜児に散々からかわれた。その経緯もあって、僕は年齢詐称をしているのだった。
「かったいなあ、礼二は。忍は飲むだろ?」
「私、ビールの苦いの苦手なの」
「ちぇ、いいさいいさ。迷、二人で飲もうぜー」
「そうだねー、友樹ちゃん。あんな二人はアウトオブ眼中だよ」
「……ネタはわかるが若干古いな」
友樹は酔いが覚めたような表情でそう言った。
「なんか、変にテンション高いとは思わない?」
忍が、僕に耳打ちする。
「友樹はいつもあんなもんだろ」
「けど、なんか酒の勢いに頼ってるって言うか……」
友樹が迷に口移しでビールを飲ませ始めた。
「ちょっとー私のファーストキスー」
「はっはっは、残念だったな。お前のファーストキスの相手は俺だー」
「ちょっとー、あんたガチでレズなんじゃないの……」
そう言って、迷は苦笑しながら唇を濡れティッシュで拭っている。
「……確かに、変にテンション高いな」
「でしょ?」
忍は、溜息混じりに言う。
親に虐待されて育った彼女。他人の心の機微には敏いのかもしれない。
それを言えば僕も複雑な家庭環境で育っているのだが、根が雑なのだろう。他人の心境には鈍感だ。
忍が、僕の手を握った。まるで、そうすることが自然であるかのように。
「心配よねえ……」
「あの……忍さん?」
「何?」
「手、手」
「減るもんじゃないし良いでしょ? ついでに頭を撫でてくれても良いのよ?」
こいつはこいつで正気ではなかった。
(俺の周辺はこんなんばっかか。こいつらのために俺と由美子の出会いは妨げられると言うのか)
僕は頭を抱えたいような気持ちになった。
肉は美味かった。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
夏の最中だった。夏休みで講義はなく、僕は部屋で寝転がっていた。部屋のあちこちで気ままに過ごしていたペトロニウスが少し恋しい。彼は、良い里親に貰われたのだろうか? 鳴き癖が酷くて捨てられていなければ良いが。
そして、由美子のことだ。由美子とは、もう終わった。その事実は、変えようがない。それでも、もう一度由美子と出会う方向へ僕は進もうとしている。
僕の青春は、由美子と共にあった。共に色んな祭りを周り、共に色んな思いを分かち合った。
(帰りたいのか? あの日々に……)
今でも、僕の生活は順調だ。前期の単位は一部は落としたが過半数は取れたらしい。かつての僕から考えれば飛躍的な進歩だ。
僕も、過去の僕も、変わりつつある。
このまま、あの三馬鹿と青春を謳歌するのも悪くないのではないか。そう思う。
(それでも……)
それでも、由美子は特別なのだ。それは、衝動に似ている。理屈ではないのだ。
青春時代の眩い思い出。それが、僕を迷わせる。
そして、僕はデスクトップパソコンの前に座る。
「由美子と会った時に適正なレベルまで後何十万匹敵を倒せば良いんだっけ……」
僕のやっている職、プリーストは、基本的にヒーラーであり補助系の職だ。しかし、少数ながら敵を浄化する光系の魔術も覚えている。僕がもっぱら使っているのはそれだった。
クリック、キーボードをタッチ、クリック、タッチ、クリック、タッチ。過去の焼き直し。
せっかく立て直した生活を僕はゴミ箱に捨てていこうとしている。
その時のことだった。電話が鳴った。
「おうー。元気かー」
通話キーを押して携帯電話を耳に当てると、友樹だった。
「作業やってるよ。そっちは?」
「絶好調。今飲んでる。酔い過ぎて帰れそうにない」
「……忍とか迷を頼れよ」
「あいつらが私を運んで歩けるかよ。ギターケース付きだぞ」
「俺が襲うかもとは考えないのか?」
「あんたはそう言うのはないよ。安心してる」
「ほー」
信頼されているというのは、悪い気分ではない。
友樹は今飲んでいる飲み屋とその住所を口にした。
メモ帳に字を走らせ、それを書き留めると、ふとペンで丸を書き始める。
「何処だ、そこ」
「ケータイで検索してこいよ」
「面倒臭いなー」
「俺の貞操の危機だぞー大変だぞー」
「お前みたいな男女襲う奴がいるか」
「うっわ、傷ついた。胸に染みた」
「これに懲りて一人称俺はやめるんだな。私とかあたしとか可愛らしい呼び方をするがいいや」
「やだよ。俺は俺です」
「さいで」
結局、友樹とギターケースを担いで運ぶことになった。
さほど重くはないが、長時間ともなるとギターケースがじわじわと腕の筋力を疲労させていく。
「お前の家、何処?」
「わー、家まで来る気なんすかぁ。こりゃ貞操の危機だぁ」
「いや、真面目に。どう運べば良いかわからん」
「嵯峨嵐山」
不意に出た言葉に、僕は驚いた。
また、その地名か。
どうやら僕は、よほどあの土地に因縁があるらしい。
「良い場所だよー。祭りがあると人がいっぱい。普段も観光客が多いし」
「知ってるよ。何度も行った」
「川の畔が涼しくて」
「知ってる。何度も行った」
友樹は僕の話なんか聞いていないようで、勝手に喋っているだけだった。
路面電車を待つ。JRと違った洒落っ気のないローカルなベンチが、独特の味を出している。
「……ごめん、少し素面になった」
項垂れた友樹が、呟くように言った。
「なんで潰れるほど飲んだんだ?」
「いや、そのさ。恥ずかしながら」
「うん」
「スランプなんだ」
「馬鹿だな」
「馬鹿だろ」
「うん、馬鹿だ。潰れるほど酒に逃げる奴は皆馬鹿だ」
「耳が痛いよ……」
そう言って、友樹は大きく伸びをする。
「メロディが、急に耳から消えちゃった。今までは、作曲なんてお手の物だったのに。今は、それも出来ない。私、死ぬのかな」
「繋がりがわからん」
友樹はマイペースに話すから、時々話の脈絡が見えなくなる。
「私は作曲できるから私なんだ。飛べない鳥は死ぬだけさ」
なるほど、彼女はある未来では、三十路を過ぎても路上ミュージシャンをやっていた。
彼女にとって、歌うことは生きることなのだろう。
「ノーミュージックノーライフか……しかしな」
僕は真顔で指摘する。
「ペンギンもダチョウも生きてるぞ」
友樹は苦笑して、頭を抱えた。
「空気読めてないなあ、礼ちゃんは」
なんだか知らないが友樹の中で僕の格が上がったらしい。
礼二、から礼ちゃん、になっている。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
忍と迷がチャイムを押して部屋に上がり込んできた。勝手知ったる人の家といった感じだ。
そして、硬直する。
部屋に干された男女の衣類。二つある布団。それらを、交互に見ている。
「……いつの間にそんな関係に?」
布団でうつらうつらとしていた僕は、忍のその言葉に背中に氷柱を入れられたような気分になった。
「違う、誤解だ」
「誤解って何よダーリン」
そう言って、隣の布団の友樹が僕にしなだれかかる。
「昨日は礼ちゃんが激しくて寝れなかった」
「……出直してきます」
忍が、冷たい声で言って、部屋を出て行った。
迷も、ぎこちない動作でその後に続く。
「あらー、信用ねーんだ礼ちゃん」
「信用を損なわせたのはお前だ! こんな光景見たらそら信用も消えるわ! エベレストからマリアナ海溝にまで落ちるわ!」
「天上から海の底か。良いね、歌に出来そうだ」
友樹ときたらそればっかりだ。
僕は慌ててサンダルを履いて、二人の後を追った。
二人の背中は、すぐに見つかった。
二人の前に、躍り出る。
「誤解なんだ」
「正直、軽蔑した」
忍が、冷たい声で言う。
「友達二人が結ばれてめでたいんだけれど、私達、愛の巣にお邪魔するには準備が足りなかったと言うか……布団ぐらいは片付けて欲しかったな。生々しすぎて」
と言うのが、迷。
「いや違うんだ。あいつはスランプに陥っているとかでさ。放置しとくと酒を呑むんだよ。それを静止する為に俺が一緒に寝泊まりしてるわけ」
「誘惑とかされるんでしょ」
忍は、相変わらず冷たい声だ。
「されないよ。あいつと俺の間にどんな関係が入るっていうんだ」
おかしいな、と僕は思う。僕と忍は付き合っていない。なのにこれでは浮気の言い訳だ。
忍はしばし考え込んだが、そのうち緩く微笑んだ。
「じゃあ、今日はそう言うことにさせてもらいましょうかー」
「ことにさせてもらうってなんだよ……」
「礼二君。噂って怖いよ。君も、精々気をつけることだね」
そう言って、忍は歩いていった。
僕と迷は、顔を見合わせた。迷は少し困ったような表情で、僕もきっと似たような表情だっただろう。
三人して、友樹の部屋に入る。
彼女は早速、ビールの缶を開けていた。
「お、よう」
忍は土足のまま家に入り込み、彼女を羽交い締めにした。
「あんたはアホか! あんたがそうだから礼二君に迷惑かけてるんでしょうが!」
「逃げさせろよー。飛べない鳥は死ぬ運命なんだよー」
「ペンギンも鶏も立派に生きてます! 馬鹿じゃないの!」
「鶏は出荷されるじゃんかー」
「じゃあダチョウで良いわよ」
「けど見てよこのビールの山」
そう言って、友樹は小型冷蔵庫を開ける。中はビールでぎっしりだった。売れば何万円にもなるだろう。
「おーまーえーはーあーほーかー……」
迷の疲れたような声が、部屋に響いた。
「ほら、俺がいないと駄目だろ?」
僕はどさくさに紛れて事態の正当化を図る。
「礼二君も礼二君よ! 礼二君がいながらなんでこんなことになってるの!」
「俺が来た時にはもうこうなってたんだよ……」
溜息混じりにそう言うしかない。
僕は作る人間ではない。創作は齧ったことがある程度だ。だから、産みの苦しみはわからない。忍のほうが、より友樹に近い位置にいるだろう。忍を呼んだのは、そんな理由だった。
「忍にもスランプってあるだろう? それを、教えてやってくれないかな」
「数日寝たらなんかアイディアが思いつくからそれで解決する」
あてにならなかった。流石は将来の漫画家。頭の出来が違うのだ。
「私は死ぬしかなーーーーい」
友樹は叫んだ。そして、ビールの中身を一気飲みした。
「まあ、ゲームでもしようか」
そう言って、迷がバックからゲーム機を取り出す。
「私キャプテンファルコン!」
真っ先に乗ってくる友樹なのだった。
しかし、これは解決策を図る必要がありそうだ。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
スマッシュブラザーズで散々遊び、どうぶつの森で迷の村を散々に破壊した後、二人は帰っていった。
「お前の部屋、キーボードある?」
「一応あるけど」
押入れから友樹が電子キーボードを取り出す。
僕はそれで音階を弾き始めた。
「おー、弾けるんだ」
「友樹は弾けないのか?」
「音を確認するのに弄る程度だよ」
「勿体無いなー、こんな立派なのに」
そして、僕は腕まくりした。父は音楽のエリート。基本的な教育は受けているのだ。ただ、期待に答えられなかっただけで。
「たまには違った雰囲気の曲も聞いてみたらどうかなと思うんだ。まずは、これ」
僕が弾き始めたのは、どこか和やかな雰囲気が流れるクラシック曲だ。
「なんか落ち着くね、この曲。肌の上を通っていく感じっていうか」
「海の上のピアニストって映画の、船内の演奏会で用いられた曲だよ」
「へえ……」
そして、僕は曲を途中で弾き終える。
「続きは?」
「ない。ここからピアニストが暴走してアレンジし始めちゃうんだ。」
「アレンジかぁ。才能だよなあ……」
友樹は、そう言って頬杖をつく。
「次は、俺の好きな曲」
そう言って、俺はその曲のイントロを弾き始めた。
「バンプオブチキンの天体観測」
友樹の一言に、僕は演奏を止める。
「知ってる曲の数じゃ勝てないなあ……」
なら仕方がない。彼女の知らないジャンルに頼るか。
「……何、この曲?」
友樹の声を気にせずに、僕は弾き、歌い始めた。
友樹は、ただそれに聞き入っていた。
「良い曲だね」
これは、まだこの時期には発売されていないリトルバスターズの曲だった。
「歌詞が好きなんだ。一人では辛いから手を握って、二人では寂しいから輪になる。良いフレーズだよね」
「歌詞かあ……歌詞から攻めるかあ」
友樹は、考え込んでいる。
「じゃ、最後はネタ曲。行きます」
それを歌うには少しの恥じらいがあった。けれども、やらねばならぬのだ。
それは、ロックマンのワイリーステージをアレンジし、歌詞をつけた曲。これから先、ニコニコ動画で流行る曲。思い出は億千万。
それを、僕は歌い始める。
友樹は途端に笑い始めた。
「礼ちゃん無茶しすぎ、声裏返ってる。裏返ってるって。ひーっ」
大爆笑だ。
こちらは恥を捨てて真顔で歌っているが、それがまた友樹にはウケるらしい。
そして、僕は歌い終えた。
「ゴッドファーザーのテーマなんかも弾いてみたいなあ」
「礼ちゃん映画好きなんだ?」
「これから古い映画を廉価でコンビニに置くのが一時期流行るんだよ。その頃に結構見た。んで、どうだった?」
友樹は、少年のような笑みを浮かべた。
「面白かった」
「音楽だけは、学ぶじゃないんだよね。音を楽しむって書く。だから、楽しむのが一番だと俺は思うんだ」
友樹は、しばし考え込んだ。
「礼ちゃん、ピアノ弾ける経験者だもんなあ。反論、できねーよなあ」
「それにね、これからニコニコ動画ってところに歌ってみたブームがやってくる」
「歌ってみた?」
友樹は、虚を突かれたような表情になる。
「誰かが出した曲を、それぞれ歌うんだ。上手い人には固定のファンがつく。それで、プロになる人もいる」
「夢みたいな話だな……」
「だろ。一年か、二年か。細かい時期は忘れたけれど、本当に来るよ」
「私、プロになれるかなあ……」
僕は、返事に淀んだ。友樹は確かに歌は上手い。けれども、飛び抜けて声量があるというわけでもなく、飛び抜けて上手いというわけでもなく、飛び抜けて声質が良いというわけでもないのだ。
「正直者は嫌いじゃないぜ」
そう言って、友樹は僕の背を叩いた。
「刺激受けたな。なんか色々な曲を作れそうだ」
そう言って、友樹はギターを手元に引き寄せる。
「歌っといてなんだけど、防音対策大丈夫?」
「そういう人向けのアパートなんだよ。大丈夫大丈夫」
そう言って、友樹は歌い始める。その曲の心地よさを感じながら、僕は目眩がするのを感じていた。地面が揺れる。また、あの感覚だ。未来に戻る感覚。
そして僕は、元の世界に戻ってきていた。
ペトロニウスは、相変わらずいない。
一緒に生活していた賑やかな相棒も、もういない。
僕は寂しくなって、スマートフォンのライングループに視線を落としてみた。また、歴史が書き換えられている。
迷、忍、僕、友樹のライングループだったはずなのに、友樹の名前が抜けてPicoと言う名前の人物が仲間入りしている。
皆大学生でなくなってから長い時間が流れている。今更連絡を取るのもなんだか気後れがする。あの二人での生活が、さっきまであったはずなのに、酷く懐かしい。
未来に戻る度に僕は温もりを失う。遠い時間の隔絶が、両者の間に距離を作る。
僕はなんとなく気になって、ニコニコ動画でPicoという名前を検索してみた。
それは、動画を上げれば万再生連発の歌い手の名前だった。動画を開いて出てきた声はもちろん、聞き覚えのある……。
「やるじゃん」
僕は思わず、そう呟いていた。
忍回、友樹回ときて、迷回になる予定です。




