Beginning
ーーーー……これは、2年ほど前の話。
魔源域の最果ての地。
“絶世森海”と呼ばれる、海の中に木々が存在する森林地帯。
「うわぁぁああぁ!!」
突然“破壊神”に襲撃され、たくさんの人々が殺されていく。
中には妖精も居たが、その襲撃で巻き添えをくらう。
木の精、水の精、空の精、魚の精、鳥の精…。そういった妖精族がいたおかげで成り立っていた森も、妖精たちが巻き添えを喰らって死んでいったために、少しずつ景観を失っていった。
だが、そんなときに、1人の若い女がそこに立っていた。
特徴としては、カチューシャでオールバックにしている金髪に、肩ヒモが無く胸元で締め付けるタイプの薄紫色ワンピース、四分音符の形したイヤリング、黒いニーソックスを穿いていて、少しかかと低めのブーツを履いている。
その女は、思いがけない行動に出る。
「5つの精鋭ここにあれ 集いし魂 ぶつかる戦意 弾丸となりて 蘇生し憤怒 集中放火の燎 我らのチカラで 守り抜け♪」
と、いきなり歌い始める。
すると…
巻き添え喰らって死んだハズの妖精たちが蘇り、その女の手の上で集い、超巨大な弾丸となり、破壊神を巻き込んで大ダメージを与えた。
「っく…!!?」
さすがの破壊神も、これには驚き、絶世森海に近づく事は二度と無かった。
…
……ーーーー
この過去を思い出しながら、その女は言う。
「羅生…アンタが作った“能力”は、それを付与した人間によって発動され、呪文詠唱も何も使わずに発動できる。けど、それは属性や強度が限られていて、人によって限界値が違うんだ…
…でも、アタシのは違う。
歌のチカラを利用して、歌った通りにワザを繰り出したりできる…! だからアタシぁ、自分の能力をこう呼んでる。
“覇魔歌唱” と…」
『覇魔歌唱』
無限のチカラを秘めた能力で、声に出して歌に乗せるだけで、そのチカラを発揮できる、能力とは別次元の何か。
「…覇魔歌唱…」
それを聞いたことがある天世。
だが、話す余地なく歌い始める。
「6もの民 能力使い 歌に溺れて 消え失せ ひれ伏せ 神速の拳の前に」
こう歌った時、気づいたら終矢、バルミ、天世の3人は、いつの間にか攻撃を喰らい、地面に向かってひれ伏し、立てなくなっていた。
そして、4人目に泉美が狙われた時、異変が起きた。
キィィィィン……ッッッ
受けきっている泉美。そして、彼女の前で動きが止まる女。
「…な、何…!? このチカラ…ッ」
このとき泉美は、覇力と禍々しき呪いの眼を混ぜ込んで、神速で動くその女を捕らえた。
「…私には、神速も見える…。どうやら倉井くんとバルミ、そして母さんには見えなかったみたいだけど…速い動きを見るのは得意よ」
と、受けきりながら語った。
止められた女は、いったん攻撃を止め、話し始める。
「アタシの攻撃を受けきられたのは初めてよ…」
そして女は、自己紹介をする。
「アタシは『羽多浜 智歌』、この名前…聞いた事あるんじゃない?」
その名前は、泉美は聞き覚えがあった。
「羽多浜…って、まさか…
表世界の“トップアイドル兼歌手”の…!!?」
そう。神聖なる歌姫だったのだ。
「…えぇぇぇえええぇッッ!!?」
とても驚く彩夏。そして、
「そ、そんな…ッ! …この色紙にサイン下さい!!」
なんと、彩夏は羽多浜の大ファンだったのだ!
「ん゛ぇえ゛っ!!?」
いきなり来た彩夏の希望に驚くが、その時はアイドル魂が発動し、サインする。
「…はいっ! これでいい?」
と、ややツンデレ気味に、そっぽ向いて頬を赤らめながらサインした色紙を返す。
「サインするのかよっ!!」
と、思わずツッコミを入れる泉美。
ハッ、と気づき、智歌は正気に戻る。
「調子狂うなぁ…。…でも、アンタらの敗北に変わりは無いのよ♪」
歌唱を始め、戦闘態勢になる。
「私たちで止めるわ! 高良さん、行くよ!」
彩夏も、能力解放して戦闘態勢に。
「はい! 彩夏さん!」
泉美も、戦闘態勢に。
しかしこの時、異変に気付いた彩夏は、すかさずツッコむ。
「…ん? 今、“彩夏さん”って…」
そう。呼び方が自然と変わっていた。
「…んぅ!? あ、えっと…」
それに気付いて慌てる泉美。
「…この呼び方の方が…呼びやすくて…」
「…いいわ。その呼び方でお願いね? 泉美ちゃん!」
と、合わせて彩夏も呼び方を変えた。
「…さて。私も動くとするか…」
その様子を見ていた羅生も、戦闘態勢になる。
…歌姫と、能力者の戦いが…今、始まる!!




