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11-3 圏外の王様

「あれは訓練された外国人のテロリスト集団だった。 そして、首謀者は俺の元同級生……滝乃川岬という、イカれた女だ!」


 古河達哉はスマホのカメラレンズを睨みつけ、憎悪を込めてその名を叫んだ。

 これで全てがひっくり返るはずだった。

 ネット民は新たな燃料に飛びつき、特定班が動き出し、滝乃川岬という女は社会的に抹殺される。そして俺は被害者という絶対正義のポジションを得て、王座に返り咲く。


 確信があった。

 だからこそ、画面が突然に暗転した瞬間、彼は何が起きたのか理解できなかった。


 ――プツンッ。


「あぁん?」


 配信画面が消え、無機質なホーム画面に戻る。

 配信アプリが落ちたのか?それとも、視聴者が多すぎてサーバーがダウンしたのか?

 古河は舌打ちをして、画面を乱暴にタップした。


「おい、ふざけんなよ! ここからが一番の見せ場だろうが!」


 だが、何度アプリを再び起動しようとしても『接続エラー』の文字が表示されるだけだった。

 苛立ちのあまり、彼はスマホを壁に叩きつけそうになるが必死で堪えた。画面上部のステータスバーに目を凝らす。


「……!」


 そこに見えているはずのものが消えていた。

 5Gと4Gの表示。Wi-Fiの扇マーク。それら全てが消失し、代わりに『圏外』の文字が無慈悲に点っている。


「嘘だろ……? 故障か? チッ、こんな時に!」


 古河は部屋に備え付けられていた内線電話の受話器を取った。

 党本部の職員を呼び出し、怒鳴り散らす。


「おい! Wi-Fiが繋がらねえぞ! どうなってんだ! 今すぐ復旧させろ! 俺は今、世界中が注目する超重要な配信をしてるんだぞ!」


 数分後。

 迷惑そうな顔を隠そうともしない女性職員が、早足で部屋に入ってきた。

 彼女は、自分のスマートフォンを操作しながら冷ややかな声で告げた。


「通信障害の報告など入っておりませんが。ご覧の通り、私のスマホは問題なくネットに繋がっていますよ」


 彼女が突きつけた画面ではニュースサイトが表示され、逐次スムーズに情報が更新されていた。


 考えてみれば、ビル全体あるいは更に広域で、古河のスマホと同レベルの通信障害が起きていれば、リモート会議もメールもSNSも利用できず、もっと大騒ぎになっているはずだ。

 だが、慌てふためく人の声や大きな物音は、僅かに開いているドアの向こう側からは全く聞こえてこない。


 古河は、職員のスマホと自分の手にあるスマホを見比べた。

 職員のは繋がっている。俺のは圏外。


「まさか、俺だけ……俺の端末だけが、狙い撃ちにされているのか……?」


 ピンポイントの電波妨害(ジャミング)

 もし、そんな芸当ができるとしたら、国家レベルの組織だけなのではないか。

 背筋に氷柱を突き刺されたような悪寒が走った。

 新宿のビルを襲った黒いヘリコプター。マシンガンや閃光手榴弾(スタングレネード)で武装した部隊。そいつらが今、この民自党本部(シェルター)の中でさえ、見えない手で自分の首を絞めにかかっているのだとしたら。


「どけっ! 俺が直接、通信障害かどうか確かめる!」


 古河は女性職員を突き飛ばし、部屋の外へ飛び出そうとした。

 だが、ドアノブに手をかけた瞬間、扉が向こう側から静かに開かれた。


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