第12話 秘密の過去を聞いちゃいました
『アンリはなぜこの世界に来たのだろうか?』
バイト先で荷物の種分けをしながらそんな事を考えていた。彼女の流していた、昨日の涙が思っていた以上に気になっているのかも知れない。
この日俺はアンリのスマートフォンを買って帰る事にしていた。その事を昼休みに亮に相談すると、「独立させたいなら絶対必要だ」といい、こだわりさえ無ければ思っていた以上に安く済むのだと教えてくれたからだ。
「とりあえず、連絡を取るのに必要そうなアプリだけでも入れておこうかな……」
昨日の夜、聞いてはいけない事を聞いてしまった様な気がしていた俺はなんとなく家に帰る足が重い。しかし、家に帰るとアンリはいつも通りの笑顔を見せた。
「おかえりなさいませ!」
「丁寧なんだけど、それはちょっと違うかも?」
「そうなのですか?」
「メイドとかの挨拶な気がする」
責めるつもりは無かったのだけど、彼女は思っていた以上に申し訳なさそうな顔になった。
「あの……昨日はすみませんでした」
「もしかして、先に寝ていた事?」
「はい。湯浴みもせずにベッドまで使ってしまいまして……」
「いや、元々は使ってもらうつもりだったし。公爵令嬢を床で寝かすのも気になるしね」
どちらかと言えば、普段アンリが使っている布団で寝る方が緊張した。数日しか使っていないはずの布団は甘く高貴な香りがほのかに感じられ、意味もなく彼女の事を意識してしまう。かと言って好きとかそういう恋愛感情というわけではなく、ちょっとした罪悪感みたいなものなのだろう。
「それはそうとして、これ!」
俺は紙袋の中から、帰り道で買ったスマートフォンを取り出すとアンリに渡す。
「これは……よろしいのですか?」
「この世界で生きていくには必需品だろうって亮も言ってたからね」
「ありがとうございます、出来るだけ早く使える様にしますね!」
「焦る必要はないけど、慣れた方が便利だと思う」
彼女にこの世界を知る術を与えられたのは良かったと思う。頭が良い彼女ならすぐに使いこなし、彼女が今後必要な情報や、俺の知らない情報なんかも教えてくれるかも知れない。
俺はすぐに、チャットや電話の使い方とネットでの検索や動画アプリの見方を教えるとあっさりと彼女は理解する。この世界への興味が止まらないのか、夢中になって使い始めた。
「あのさ……」
「はい、どうかされましたか?」
「やっぱり、元の世界へ帰りたかったりする?」
アンリはスマートフォンを伏せると同時にゆっくりと顔を伏せた。
「そうですね。私の事を信じてくれていた民衆の事も気になりますし、あれからどうなってしまっているのかはなるべく考えない様にしています」
「そっか……それと、フェルって誰?」
昨日寝言を言っていたの見てから気になっていた事を聞いてしまった。もしかしたら触れられたく無かった事なのかも知れないのだけど、聞かずにはいられなかった。
「その名前をどこで聞かれたのですか?」
「いや、昨日寝ている時に……」
「そう、ですか」
やはり聞くべきでは無かった事なのだろう。俺はすかさず「言いたく無ければ別に……」そこまで言うと彼女はこちらを向いて手をかざした。
「いいのです。フェルはフェリックス・アストリア……私の婚約者であった王子です」
「あの、アンリが断頭台に送られた?」
「はい。ですが、幼馴染という事もあり別に仲が悪かった訳ではありません」
「アンリは王子が好きだったって事なのか?」
最初に感じていた王子にやむおえない事情があったと思った事は、案外合っているのかも知れない。 王子も幼馴染としてだけでなく、アンリの事を大切に思っていたのだと思う。
「政略結婚なのでそれはよくわかりませんが、兄の様に慕っていた方ですので、婚約する事に抵抗はありませんでした」
「そうなんだ……権力を維持する為には必要な事なんだろうな」
「そういった側面もありますが、どちらかというと国を護るためにあります」
「結婚して護る?」
「はい、私は公爵家の長女で妹はいますが家督を継がなければいけない状況でした」
「なるほど。だけどそれなら別にアンリが公爵を継げばいいだけなんじゃ?」
「私の世代、次の世代だけであればほとんど問題はありません。ですが王国筆頭の貴族の中に別の家系が入って来る事になるのです」
「国を乗っ取られたりしないようにという事なのか……意外と考えられているんだな」
「そう言った背景はありますが、フェル……いや、王子の事を尊敬も慕いもしていました」
きっとお互い認め合っていた仲なのだろう。それを覆す必要がある様な事。アンリにとって公爵家として民衆への責任はそれほど大きなものだったのかも知れない。
それでも彼女は、まだ王子の事が好きなのだろう。
「こんな事聞いていいのか分からないのだけど、アンリがそれほどのリスクを犯してしようとしていた事は何だったんだ?」
「そうですね。心になら理解して頂けるのかも知れません」
「俺、なら……?」
彼女はスマートフォンを机に置くと、机を挟み正面に座り真剣な眼差しを向け口を開いた。
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