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第13話 お茶しました

「私は、人々が最低限必要な生活を送れる様にしたいと考えていました」


 今でこそ、よく聞く話だ。実際には俺もフリーター生活になった事で、ネットや動画を見ていくうちに当たり前の様な価値観(かちかん)に理由があったのだと知る事となった。


「アンリの世界での最低限って何なんだ?」

衣食住(いしょくじゅう)の安定です。しかし、調べて行くうちに現在の仕組み、経済状況では難しいのだと知ったのです……」


 上位数パーセントしかいない貴族の必要最小限を叶えようとすると難しいのだろう。


「生産力が追いつかないって事か」

「それもありますが、王国が生まれてから百年間で豊かになっているのは貴族だけなのです」

「それは仕方ないんじゃないのか?」

「いえ、豊かななっているだけであれば問題はないのですが、それが民衆の犠牲(ぎせい)の上で成り立っているというのは本当に良くなっているのかと疑問(ぎもん)になりました」

「税を取っているから……という事か」


 アンリが異質(いしつ)なのか、生まれた環境と違いすぎた事に憤りを感じたのかも知れない。


「いえ、基本的に税は民衆を守る為にあります。もちろん私も貢献(こうけん)した者が報酬(ほうしゅう)を得るという事には賛成しています」

「出来る者がするべき。持てる物の義務という奴か……」

「はい。生まれながらに能力の高い血筋はあります、それを活かす為の教育の環境も。ですが私は民衆の中にも存在するのだと気づき、それぞれが義務を果たせる国にする事が理想の統治(とうち)なのだと思ったのです」


 ライブの時の彼女の言葉はここから来ていたのか。


「私は、それを信じて動きました。民衆の中の実力のある者へそれぞれの能力を発揮できる環境を作る事が権力の有るアンリエッタがするべき事なのだと……」

「色々と考えているんだな。でも領地のトップだったんだろ、それくらいで処刑までされるとは思わないのだけど?」

「直接この事が原因で断頭台に送られた訳ではありません。施策も上手く行っていましたし、国の叡智(えいち)と讃えられた事もありました」


 アンリは名君として後世に名を残すレベルの改革をやってのけたのではないだろうか。しかし彼女の「上手くいっていた」というのが引っかかっていた。


「それなら何故?」

「教育が行われ、すこし知恵を付けた民衆をコントロール出来なかった、というのが私の過ちだったのです」

「教育を受けたのが悪かったのか?」

「正確にいえば、少し学んだ事で状況が分かった気になる人が増えたという形でしょうか……結局私もそれぞれの人の環境を理解出来ていなかったのです」


 話を聞いたものの、俺には彼女が言っている事の半分位しか理解出来ていないのだと思った。彼女はそのまま民衆をコントロール出来ずに王子にも相談していた。しかし、民衆の勢いは止まらず時期早々と知りながら王国議会(おうこくぎかい)へ出る事となり、平民への教育を施した事を(とが)められた事で重罪を課せられたのだという。


 多分彼女がコントロール出来なかったのは、民衆ではなく自分自身の正義感みたいなものなんじゃないかと思った。最初に言っていた俺なら理解してもらえるかも知れないというのはきっとそういう事なのだろう。


「確かに絶対王政でもなければ、アンリの処刑を止める事は出来ないな……」


 彼女の話が終わり俺がそうつぶやくと、彼女は少し考え込んだ様子で再びスマートフォンを触り始めた。


 今の世の中は彼女の時代からすれば、理想が叶えられている様に見えたのだろう。しかし、知って行くうちに、同じ様な問題も残っているのだと気づいてしまった。だけどそれは人の寿命が何倍にも増えない事には解決出来ない様に俺は思う。


 打ち解ける為に聞いた話だったのだが、それから少しだけ彼女との距離を感じる様になった。



♦︎



 それから数日が経ち、それぞれの心地よい距離感が分かるようになった事で、不思議な共生生活にも慣れてきた。俺はバイトをしながら週末は駅前でライブをする。苗字(みょうじ)のアララギでストリートミュージシャンとしてのSNSのアカウントも作った。


 一方アンリの方は少しの時間だけ亮の事務所で通販の手伝いをする事となった。彼も別に無理に雇っている訳ではなく、独立したばかりという事もあり、週数回入って欲しい時に来てもらえるのは助かるらしい。


「アンリ、今日も亮の所にいくのか?」

「今日はお休みですが、どうかしましたか?」

「あ、いや……」


 この日、バイト先がシステムメンテナンスで休みになっていた。その事はアンリにはサラッと話してはいたものの予定は特に入れていない。しかしアンリは自然に微笑(ほほえ)んで言った。


「良ければお茶でもしませんか?」

「い、いや。お茶ってスタバかドトール位しか行った事ないけど?」

「駅の近くで可愛(かわい)いお店を見つけたのです! 亮さんからお仕事代も頂いていますので……どうでしょう?」


 彼女が外に出る様になって、思っていた以上にこの世界に馴染んでいるのだと知った。少しずつ俺の知らない出来事をアンリが体験している事が、嬉しい様で何処か寂しくもある。


「それなら、行ってみようか」

「はい!」


 もしかしたら、彼女の過去を気にしているのは俺の方かも知れないと、無邪気(むじゃき)に笑う嬉しそうな表情をみて思った。

お読みいただきありがとうございます!

1話と12話にイラストをいれてみました(`_´)ゞ


もしよろしければ評価、ブックマークをして頂けると創作の励みになります!


感想などもございましたらお気軽に書いていただけると嬉しいです★


次回もまたお会い出来る事を楽しみにしています(*ꆤ.̫ꆤ*)

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