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「柳瀬さん今日の買い出し私も連れてって下さい」

「え? わかった」



神崎がついてくるって事はいろいろ俺には頼めないあれな物も買うんだろう、もうその辺は結構あるのでわかってる。



「そっか、神崎も来るから今日夕飯早めだったんだな」

「はい、こちらの都合で申し訳ありませんが……」

「別にいいよ、食べた後やる事もなかったしさ」



神崎と出掛け薬局に行き俺は特に買う物もないし車で待っていた。 



あれから先輩とは思いを打ち明けただけあって少し距離が近くなったと思う、だけど会社などではみんなの目もあるので極めて普通だ。



普通だからこそ実感が湧かない。 だけどお互いの気持ちはわかったんだ、先輩は篠原が言うには俺の事を考えてくれてそうなったわけなんだけど……



考え事をしているといきなり車のドアが開いたのでビクッとなる。



「あ、ごめんなさい…… ビックリさせました?」

「いや、俺がボーッとしてたからさ。 入れよ?」

「はい」



そして一旦荷物をシートに置くと傾いて買った物がボロボロと下に落ちる。 何やってんだこいつは。



「あわわッ、すみません!」

「いいよいいよ、ん?」



とついつい手を伸ばしてしまうとうっかりナ…… プキン…………



「わ、私が拾いますから!」

「は、はい……」



拾い終わり神崎が車に乗り車のエンジンをかけた。



「柳瀬さん」

「ん?」

「あれから柳瀬さん今のように考え事をしている時がありますよね?」

「あ、まぁ」

「やっぱり乙川さんとの事なのですか?」

「そうだなぁ。 でもそれだけじゃないよ、日向の事や篠原の事……」



あ!! ヤバッ、ついうっかり篠原の事まで出してしまった、自然な感じの雰囲気だったから。



「彩奈? 麻里の事ならわかりますがなぜ彩奈を?」



神崎は少し考えてハッとした表情になる。 バレた……



「ええええッ!? ま、まさか柳瀬さんって彩奈の事が?」

「う、うん。 うん?」

「彩奈は確かに美人で学校でも1番モテています! ですが麻里の事はどうするのです? それに乙川さんの事も!」



あれ? こいつ俺が篠原の事を言ったので何か勘違いしてないか? でも当たらずとも遠からずなんだが。



「違うって! そういう事じゃないよ」

「で、ではどういう事なのですか?」



参ったなぁ、迂闊だった。 その時2人組の女の子がこちらを見ていたのに気付く。 制服着てる、もしかして神崎の同級生か?



「おい神崎、そこの2人知り合いか?」

「え? あ!!」



神崎が窓を開けるとその2人はやはり神崎の友達のようだ。



「莉亜、買い物? そちらさんは?」

「うッ…… こちらの方は」



神崎がどうしよう? という表情で俺に解答を求める。 無茶言うなよ、ていうか俺も神崎に友達の事を気付かないフリしてさっさとこの場を車を出して立ち去ればよかった。



日向のお兄さんという設定は使えない、なんで神崎と? となるからだ。 かくなる上は……



「こんばんは、俺は神崎の住んでるアパートの大家の息子だよ、たまに時間が合う時こうして買い物付き合ってるんだ」

「そ、そうなんです!」

「へぇー、そっかぁ。 凄く仲良しに見えたから莉亜の彼氏さんかと思っちゃったよ」

「そうそう、せっかく美人なのに男っ気なしのガリ勉の莉亜が急に感じ変わったから遂に男が出来たのかと思ったのに」

「もう! 勝手に決め付けないで下さいよ。 それと…… この事はご内密にしていただけないでしょうか?」

「なんで?」

「この方には歴とした彼女がおりますし噂が立つとどこから情報が漏れて困るのは私ではなくて……」

「ああ、そういう事ね。 安心して? せっかく莉亜と仲良くなれたんだもん、そんな裏切るような事しないから」

「ありがとうございます!」



そして少し他愛のない話をして2人は薬局の中へ入っていった。



「はぁーーッ! なんとか乗り切りました」

「お前もよく言うな」

「何言ってるんです、なんて事でしょう。 嘘をついてしまいました、考えてみればあなたと出会ってからこんな事ばかりです」

「そうだな、お互い苦労するよな」

「うふふ、そうですね」

「その割に楽しそうだな?」

「…… はい、それも柳瀬さんのお陰です、勉強以外にあんなお友達まで出来て。 ありがとうございます」

「礼を言われる事じゃないさ」



そして神崎は思い出したような顔をする。



「ところで彩奈の事話してましたよね?」



ぐ…… その話題に戻ってしまったか。



「し、篠原は……」

「柳瀬さん…… でも人を好きになるって事は年齢とか事情などという縛りは些細な事になってしまうのですね。 ダメとわかっているのにその人の事を好きって思うと歯止めが効かなくなるんですね…… ッ!!!」



しみじみと神崎はそう言ったと思ったら…… え? なんか言った本人がしまったという顔してるんだけど? それに……



「お前それって……」

「え? ああ! ああ…… わ、私いきなり何をッ」

「神崎好きな人が出来たのか?」

「えっと…… そのッ! は、はい……」

「そっか、良かったな」

「へ?」



俺の言った事にキョトンとした顔をする神崎だがこいつも好きな人が出来たか。



「だって神崎にも好きな人が出来たんだろ? だったらちゃんと上手く行けばいいな、俺みたいな最悪な物件みたいなのじゃなければいいけど」

「え? え!? そ、そんな…… 柳瀬さんは最悪なんかじゃありません」

「先輩や日向とか俺の事なんか好きって言ってくれるけど俺はこの有様だろ? 情けないよな。 でも神崎はちゃんとした人を好きになって欲しいなって思うよ、同じ飯を食ってる仲だしさ」

「あ、あぅぅ…… それでも柳瀬さんは素敵な方だと思います、じゃなければ乙川さんや麻里が好きになるわけありません。 最初はわからなかったけど柳瀬さんは優しくて思っていたより誠実で何より私苦しい時に柳瀬さんに助けて貰いました」

「神崎に褒められるとなんかむず痒いな、でもありがとう」

「は、はひ!」

「うん?」

「いえ、なんでもありません。 うう〜ッ」



カミングアウトしたせいか神崎は真っ赤だったがその後少し落ち込んでいた。 冷静になっちゃったのだろう。



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