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「こらクソガキ! 私の化粧品で遊ぶな!」
「彩奈いけませんよ。 そんな汚い言葉を使っては悪影響です」
「そうは言ってもちゃんと躾しないとねぇ…… ってまたかい! あ〜」
俺の部屋越しからでも聞こえるぞ。 神崎と篠原の声。 お昼は美味しい美味しいって食べてくれたけど。
しばらくすると髪がぐしゃぐしゃになった篠原が秀を連れて俺の部屋へと来た。
遂に来たか、その内俺のところにも来そうだったし。
「ほうら、清にぃだよ。 秀ちゃん遊んでもらいな」
「大分てこずってるな」
「ほーんと。 元気良すぎよこの子」
篠原がパッと手を離すと秀は俺の部屋をあちこち探索しているようだった。 まぁ子供が見るものは何もないと思うけど。 ゲームでもやらせようと考えたけど4歳の子供が楽しめるゲームもなさそうだ。
「秀、どっか出掛けるか?」
「出掛けるー」
「え、大丈夫かなぁ? 秀ちゃん走り回りそうだから居なくなったらヤバくない?」
「じゃあ篠原も来てくれないか?」
「私? 私でいいの?」
「だってお前1番こういうの向いてそうだし秀が逃げても捕まえられそうだし」
「仕方ないわねぇ。 あれ、でも清っちの車にチャイルドシートってあるの?」
おお…… そうだった、そんなのが必要だったな。
「ない……」
「ダメじゃーん! でも車なくても散歩くらいなら出来るじゃん? それでも良くない?」
「篠原はそれでいいの?」
「いいよ、食後の運動にちょうどいいし」
秀は出掛けるのにノリノリでどっちでもいいようだ。 近所のスーパーにでも行くか、歩けない距離でもないし。
「お出掛けですか?」
「ああ、ちょっとそこらまで行って来るよ」
「あの…… 大丈夫ですか? もし見失ったりでもしたらそれこそ大変な事に」
「あたしも行こうかな……」
「莉亜と麻里の面倒まで見きれないからさ、2人は留守番してなよ」
「麻里はさておき私は面倒を見られる側ではありません!」
「さておき…… さておきって言った」
「あわわッ! ち、違いますよ違います麻里!」
「言った……」
「えーとえーと…… ってもう行っちゃうんですかー!?」
篠原は神崎と日向を無視して俺と秀の手を引いてさっさと進み始めた。
「2人置いてきてよかったのか?」
「だって莉亜は空回りしそうだし麻里は疲れたってなりそうだからさ」
「あー、わからないでもない」
「だからしっかりね? 清にぃ」
「またそれかよ」
「どっちでも同じでしょ? お兄さんなんだからさ、ね? 秀ちゃん」
「清にぃ?」
「真似すんなよなぁ」
しばらく秀と手を繋いで歩いているとだんだん疲れてきたようだ。 その様子を見て篠原は秀をおんぶした。
「わッ、やっぱガキンチョは軽いなぁ、莉亜とは大違いね」
「神崎が聞いたら怒るぞ?」
「あー、この子また私の髪弄り出した…… でもお風呂場で肩車の時重かったでしょ? やけに長かったもんね?」
ああ、蛍光灯取り替えた時か。
「莉亜だったんでしょ? 手掴んだのは」
「お前やっぱ嵌めやがったんだな」
「ええ〜? 私特別賞って言ったじゃん、コイントス当てた分を返しただけだよぉー? いたたた、こら! 髪の毛抜けちゃうから加減して」
「お前ってほんと抜け目ない奴だな、余計な提案ばっかして疲れるわ…… てか俺がおんぶ代わろうか?」
「やったぁ、清にぃはそれでも私に優しいなぁ、やっぱり私の事が好きなのかな?」
「冗談も休み休み言えよ」
秀を篠原から抱き上げるとおんぶは嫌になったのか俺の髪の毛を掴まれた。 もしかしてこいつ肩車されたいのか? いつぞやの神崎じゃあるまいし。
「おおー」
やっぱり肩車してやると喜んでいた。
「あははッ、こんなので喜んじゃって可愛いねぇ、清にぃもこんな時期があったのかなぁ?」
「俺は別にいいだろ」
スーパーに着くと秀はあっちこっち見て回り大変だった、おもちゃを買いたいとせがんでいてなかなか動かなくて仕方ないので買ってやった。
「清にぃというかパパみたいだね!」
「揶揄うなよ、まったく。 お前も何か食べたい物とかあるか?」
「じゃあそこのクレープ屋さん! 秀ちゃんも食べるよね?」
「食べるー!」
篠原は秀を連れて早足でクレープ屋の前に並んだ。 なんだかんだであいつら仲良いな。
「秀ちゃん、ちゃんと清にぃにありがとうって言おうね」
「お前もな」
「わかってるよ! ありがと」
その時篠原が唇を近付けてきたので思わず後ろに下がった。
「ああん! なんで下がるかなぁ?」
「お前のせいだろ!」
「あの時嬉しそうだったからまたしてあげようかなぁって思ったのに」
「別に嬉しいとか言ってないだろ…… あ」
その様子を秀がジーッと見ていた。
「パパとママもチューする、2人も誰かのパパとママ?」
「そうなったら面白いね!」
篠原は秀の頭を撫で撫でしてそう言った。 面白いって…… やっぱりこいつはよくわからん、何考えて何企んでんだか。
帰ると秀の母親らしき人物が待っていた。 俺達にお礼を言って秀は「またね」と言われた。
「うるさかったけど居なくなると結構寂しいねぇ」
「まぁそうですね。 というか秀君の母親は彩奈みたいでしたね、親の顔が見てみたいと言っていましたが」
「似たような属性……」
「あー! 清っち、2人とも私の悪口言うつもりだよー?」
すまん、俺もそう思った。




