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「そろそろ帰らなきゃ。 なんか長々お喋りしてた私が言うのもなんだけど」
「いえ、来てくれて嬉しかったです」
「そりゃあ柳瀬君だもんね。 風邪がしっかり治るまで安静にしてないとダメだよ?」
「はい、辛いカレーも食べていい汗かいたので早く治ったりするかもしれないですね」
「ああー! 柳瀬君ったら今の嫌味だぞ!」
などと先輩と話していると窓から物音が聞こえた。 これは敷地の砂利を踏んだ音だ。 もしや神崎達が帰ってきたのかもしれない。 そんでもって先輩の車があるもんだから入ってこないのか?
こんな寒い中外は可哀想だ、あいつらも気を遣ってくれた事だし今日は下手に先輩を引き留めないでおこう。 と、そんな時……
「ん? これは……」
「え?」
「ヘアゴム…… 柳瀬君こんなのする? そんなに髪長くないから使わないはずだよね?」
うわぁーーーッ! その通り、それは日向がさっき出かける前に髪を纏めてたやつだ。 どうしよう!?
「柳瀬君もしかして一緒に住んでる女の子この部屋に入れてる? 結構仲良い?」
先輩が何故か異様に問い詰めてくる。 顔を逸らして何か言い訳をと考えていると先輩に顔を掴まれ正面に戻された……
先輩の瞳が真っ直ぐに俺を見ている。 もう嘘はつけない、つきたくないと思ってしまった。 失望されるかもしれないし気不味くなるかもしれない。 だけど大好きな先輩に嘘はつきたくない。
「彩奈達……」
「ん?」
「住んでるんです、実は一緒に」
「あの子達3人と?」
「はい」
俺は恐る恐る先輩に今までの経緯を話した。 そしてその話を黙って聞いてくれた。 聞いてくれたのはいいけどどう思っただろう?
「うん、話はわかった。 それであの子達と一緒になったわけね」
「そうです…… あ!!」
「え? そんな熱でどこ行くの柳瀬君!」
すっかり忘れてた、外にあいつらが居るかもしれないって事を。
フラフラしながら玄関を出て塀から顔をだして横を見ると神崎達がコソコソと塀の上から部屋の方を覗いていた。
「清人だ」
「あ、清っち。 なんでここに?」
「柳瀬さんなんでこんなところに?」
「あ…… いや、お前達もう戻ってきてるんじゃないかと思って」
「寒いんだけど…… 清人。 もう入って大丈夫?」
「待ってください、まだ車がありますよ。 ダメに決まってるじゃないですか?」
「うげぇー、外は寒いよ清っち! こうなったら麻里の身体であったまろうかなぁ」
「冷たい手で触らないで」
「2人とも騒がないで下さい。 あ……」
神崎が俺の後ろに視線を向けた。 まさかと思って振り向くと先輩が立っていた。
「せ、先輩……」
「ダメよ柳瀬君、女の子をこんな寒空の下に置いておくなんて」
「あれ? 弥生さんじゃん」
「こんばんは彩奈ちゃん。 相変わらず可愛いね」
「柳瀬さん、いいんですか? だって…… え? どういう事でしょう?」
「柳瀬君から話は聞いたよ。 だから中に入ろう?」
「清人…… いいの?」
「ああ、うん。 先輩もそう言ってるし入ろう」
中へ戻り4人は俺の部屋に入った。 狭い……
「柳瀬さん、これお釣りです」
「それにしてもわざわざ3人追い出してから行くなんてね。 柳瀬君」
「や、それは……」
先輩がジト〜ッと俺を睨む。 それは確かに後ろめたい。
「ま、待って下さい。 それは私達が居ない方がいいかと思い行動したわけで柳瀬さんは何も……」
「あ、ちょっと待ってね? あなた達も私に適当な事言ってたよね? 従姉妹じゃないんでしょう?」
「あうぅ…… その通りです。 私は神崎と申します」
「うん、柳瀬君から大体聞いたよ。 莉亜ちゃんに麻里ちゃん、それに彩奈ちゃん」
嘘をついていたお陰で3人も先輩に睨まれる。
「先輩、それはこいつらが俺に気を遣ってやった事であって」
「うふふッ」
先輩は俺が喋り出すとクスクスと笑い出す。 あれ? 何か変な事でも言ったか?
「あ、笑っちゃってごめんね。 あなた達ってとっても仲良しなんだなって思って」
「え?」
俺と神崎達は顔を見合わせた。 すると3人はニッコリ笑う。
「そうですそうです! 清っちと私達仲良しなんです、いろいろあったけどね」
「うん、清人大好き」
おい日向、みんなの目の前でなんてことを……
「最初は最悪でしたけどね」
「最悪は余計だろ」
「ねぇ、柳瀬君がここに来た時の事教えて? 彩奈ちゃん達から聞きたいな」
「ああ! 先輩それはやめておいた方がいいです、それこそ大変な事になります! …… 俺が」
「私に嘘ついてた罰です! ね? いいでしょ?」
それから小1時間ほど先輩は俺の部屋で神崎達とお喋りしていた。 聞かれたくない事もあれやこれやも……
「んー! なんかいろいろスッキリした。 良かったね柳瀬君、こんないい子達と一緒に住めて」
「いい子達って……」
「そうだよ清っち。 私らで良かったね?」
「清人は贅沢」
「ほんとですよ。 ですが乙川さんも素敵な方ですね、柳瀬さんがいつもお世話になっています。 柳瀬さんがご迷惑をお掛けする事があるかもしれませんがこれからもよろしくお願いします」
「ふふッ。 はい、わかりました」
先輩がそう言うとポカッと頭を叩かれた。 後ろを見ると少しむくれた顔の日向だった。
「あたしがよろしくする」
「日向……」
「麻里ちゃんが柳瀬君の事好きなのは本当なんだね。 でも柳瀬君……」
「わ、わかってます! ちゃんと節度を持って…… あ、いや、付き合ってるとかじゃないんですけど」
「ぶーー!」
その後、先輩は風邪が治ったら遊びに来るねと言って帰っていった。




