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「大変です! 大変なんです!」
「なんだよ帰って来て早々慌ただしいな」
こいつら3人冬休みが終わり学校に行き始めて少しした時の事だった。
「あー清っち麻里が大変な事になっちゃってさ」
「どうしたんだよ?」
「今日の体育のバスケでさ、麻里転んじゃって鼻血ドバーなの。 凄い血だったから折れたかと思ったよ、でも病院行ったら折れてはないみたいだからそこはひとまず安心かな」
マジか…… あいつボーッとしてるからなぁ。 ついこの間も風邪引いてたし。 でも心配なので日向の部屋に行って様子を見る事にした。 日向はあれから特になんにもないし俺がどうこう思ったって仕方ないから考えるのはやめた。
「日向入っていいか?」
「いいよ」
日向の部屋に入り日向を見るとズーンとしたオーラを纏っていた。 鼻にはパッドが掛けられており制服にはまだ生々しい血が…… 着替えろよ。
「大丈夫…… じゃないよな?」
「こんなんなっちゃった……」
なんと声を掛けていいものか。 よりにもよって顔だもんなぁ、日向も一応そこら辺は気にするだろうか?
「痛いか?」
「痛い、喋るのも痛い」
「だよな、ごめんな無理させて」
行こうとしたら日向に手を掴まれた。
「まだ…… 行かないで」
「え?」
そう言われてもな…… 仕方ない。
「日向、服を脱げ」
「ええ!? な、何を…… い、いいい今まから? ここで?」
「そうだ」
「わ、わかった……」
あれ? 端折り過ぎた…… こいつも「わかった」じゃねーよ! 日向はボタンを外し制服を脱ぎ始めた。
「言う順番間違えた! その制服血が付いてるから洗おうって事だ」
日向は自分の服に目をやって「ああ」と納得して脱ぎ始めた、俺が居るのにまだ脱ぐか!? 俺は急いで部屋を出た。
「着替えたらドアでも叩いてくれ」
「はーい」
「はぁ…… 」
「どうでした? やっぱり麻里落ち込んでますよね?」
「なんだ神崎居たのか」
「居たのかとは失礼です! 麻里の部屋の前で立って何してるんです?」
「あいつの制服血が付いてるだろ? 洗ってあげないと」
「私もそう思ってたところです、麻里の制服は私が洗っておきますので」
神崎は日向の部屋に入ると制服を預かったようでそのまま風呂場の方へ向かった。
「清人まだ居る?」
「居るよ」
「じゃあ入って来て」
そう言われて入ると日向はいつものパーカーワンピに着替えていた。
「なんかまだして欲しい事あるか?」
「特にない」
「ご飯は?」
「あんまり食べたくないけど柔らかい物なら……」
「じゃあ神崎と篠原に言っとくよ」
「ありがと」
「まぁ言わなくてもその辺はあいつらも心得てると思うけどな」
なんかもう用事はなさそうだった。 だけどまだ居て欲しそうな日向の顔を見て日向の隣に腰を落とした。
「居てくれるんだ……」
「そんな顔してたから」
「鼻潰れたかと思った、でもブサイクになったかも」
「大丈夫だ、ちゃんとあるから」
「はあ、こんなんじゃあたし可愛くないよね」
「そんなことないけど」
おっと…… 日向が顔を近付けたので危なく鼻に触るとこだった。
「あと痛い……」
「うん。 見てて痛そうだ」
日向は何も言わずに俺の肩に頭を置いた。 あれ? なんだろうこのシチュエーションって…… 俺はまさかなと思って瞑想する事にした。
「やっぱり清人って優しい。 清人が居るとなんか落ち着く」
「そっか」
「清人はあたしと居て落ち着く?」
「そっか」
「………… 同じ気持ちだったら嬉しいな」
「そっか」
「清人には好きな人が居るってわかってるけど…… 」
「そっか」
「清人が優しくて頼りにできて…… ううん、違う」
「そっか」
「あたし…… 清人が好き」
「そっ………… は!?」
俺のスルーにまったく怯む事なく日向はそう言ってのけた。 危なく全部「そっか」で済ますところだった。 いや、その方が良かったか!?
「日向よく考えろよ、だって俺だぜ?」
「うん、ずっと清人の事見てた」
「な、なんでいきなり……」
「いきなりじゃないもん。 前からあたしなりに清人に言おうとしたもん、あたしなりにアピールもしてたもん、でも言えなくて…… 清人好きな人居るって言うしあたしの事子供子供って言うから。ずっとモヤモヤしてて、そう思ってると何にも手につかなくて。 だから伝えた、やっと言えた」
恥ずかしそうに俯く日向とこういう事になってあんぐりする俺。 シーンとしている中ドアが開いた。
「麻里ーご飯出来たよ! あんたでも食べやすいようにミネストローネにしたからさ! ってありゃ?」
「あ…… だってさ日向」
「うん」




