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「急に呼び出しちゃってごめんね?」
「あ、全然構いません、寧ろ望むところです」
「あははッ、何が望むところなの? じゃあ行こっか」
「はい」
奇跡が起きた、日向達が帰って来た夜に先輩からメッセージが届いていた。 一緒にお出掛けしようと。
夢かと思って昨日は眠れなかった、でも良いのかな? こんな事してたら先輩浮気とかにならないんだろうか?
「柳瀬君、どこか行きたいところとかある?」
「そうですねぇ…… じゃあ水族館とか」
「あーいいねぇ、なんかデートっぽい」
「え?」
デート…… 先輩の口から今デートと聞こえたような気がしたけど。
「じゃあ水族館に決定ね。 でも少し距離あるよね、大丈夫? 雪降ってるけど」
「大丈夫です、全く問題なしです」
水族館がある場所はこの前先輩と偶然会った街の方だし軽い軽い。
「先輩こそ大丈夫ですか?」
「何が?」
「結構遠いので時間が……」
「あ、なぁに? 遅くまで居たいって事かな? やーだぁ柳瀬君ったら」
「そ、そんなわけではッ」
「うふふ、うん。 わかってるよ、大丈夫だよ」
それにしてもどうして先輩は俺の事を呼んだんだろう? もしかして…… いやいや、変に期待するな。 またありえないほど落ち込む事になりそうだし。
「ん? どうしたの?」
「いえ…… 先輩前より綺麗になりました?」
「えー? 何それ? ふふッ、でもそういう事言われると嬉しいなぁ。 柳瀬君は美人の従姉妹達が居て目が肥えちゃってると思ったけどそんな事言ってくれるんだね」
「そんな。 先輩こそ綺麗ですよ」
「ありがと、あの子達もう帰っちゃったの?」
「はい、そうですね」
帰るどころか戻って来ましたけど…… 先輩に嘘を付いているので心がチクッと痛む。
「特にあのモデルみたいな子、彩奈ちゃんだっけ? あの子インパクトが凄かったなぁ」
「派手ですよね」
ここで俺はある事に気付いた、とんでもなくマズい事に。
うちの会社とあいつらの学校が物凄く近いって事だ…… 下手したらバレかねない、特に篠原くらい目立つ奴なら尚更だ。 もし俺の会社の目の前を通り過ぎてそこに運悪く俺と先輩が居たなら……
考えるだけでゾッとする。 やはり嘘はつけばつくほど泥沼に嵌っていくような気がする。 そうならない事を祈るしかない……
「あ、見えてきた! 水族館なんて久し振りだから楽しみ」
そうして水族館に着き先輩と見て回る。
「見て見て! ラッコだよ柳瀬君」
「ラッコ好きなんですか?」
「とっても可愛いし大好き」
そんなはしゃぐ先輩の方が可愛い。 いつも見慣れたポニーテールから髪を下ろした先輩は新鮮だ。
イルカのショーを見た後そろそろ出ようという時ツーショットで写真を撮れる場所があり係員に言って先輩と写真を撮る。
「あー楽しかった。 どこかご飯食べに行こうか」
「どこにします?」
「あそこのカフェにしない?」
水族館のすぐ隣にカフェがあったので俺と先輩はそこに寄った。
「ん? 私の顔に何か付いてる?」
「あ、いや……」
こうして先輩と夢のような時間を過ごしているとなぜ俺と一緒にこんな事しているのかとやっぱり思ってしまう。
「先輩……」
「何?」
「どうして今日は俺と会ったんですか?」
「うーん、柳瀬君クリスマスに私の事誘ってくれたでしょ?」
「はい……」
「でも私それ断っちゃって。 ずっと気になってたの、柳瀬君もそれからなんだか距離を感じたし」
「すみません。 先輩に好きな人居るんなら俺なんか迂闊にそういうの誘っちゃその人悪いかなって思って」
そう言うと先輩はなんの事? みたいな顔をした。
「私に好きな人?」
「え? だって会社で先輩には好きな人が居るって噂で……」
「あはははッ、ないない! それはただの噂だよ、私がクリスマスの日に柳瀬君の誘い断っちゃったのは柳瀬君の家に従姉妹が来たように私の家にも来てたの。 昔からね、いつも一緒に祝ってたから。 だから可愛い柳瀬君からのお誘いそれで断っちゃったからそのうち私から誘っちゃおうって思ってさ」
「そう…… だったんですか?」
なんだって? じゃあ俺の勘違い?
「なのに柳瀬君聞く耳持たずになっちゃって怒ってるのかなぁって思ってさ。 その事言おうとしようとしても即潰して言わせないんだもん」
「あ…… ははは。 すみません」
やった、やった! 望みはあるんだ、くそー、俺はなんて酷い勘違いをしてたんだ。
そして帰り……
「じゃあまたね柳瀬君。 良かったらまたこうしてどこかお出掛けしない?」
「はい、是非!」
俺は意気揚々として帰宅した。 すると日向の部屋のドアが開いた。
ん? 日向少し機嫌悪い? 篠原と喧嘩でもしたのか?
「おかえり」
「ただいま」
日向は俺に近寄りクンクンと匂いを嗅いでいた。 そして少し顔を歪めた。 え? 俺って臭かった? マズい、先輩にもそんな思いをさせたか?
「今日楽しかった?」
「え? あ、うん」
「そう、良かったね」
日向はプイッとそっぽを向き部屋に戻った。




