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「すっかり遅くなっちまったなぁ」
「私はちゃんと柳瀬さんの言う通りにしました、だけど柳瀬さんが押し切られてズルズルと長引いたんです」
「はいはい、そうでした! なんか疲れたなぁ」
「何か飲み物でも入れます?」
アパートに帰って来たのは10時過ぎになっていた。 神崎もこの後用があると言ったんだけどな…… まぁもともと用なんてないけど。
「ああ、なんか適当なの頼む」
キッチンの方へ行き神崎が紅茶を俺に持ってきた。
「用もないのに足早に帰らせてしまってすみません。 なんだか騙したみたいで私気が引けます」
「いいんだってそんなの気にしなくても」
「あたなって人は…… それより! 私が泣いた事は」
「あーはいはい、見なかった事にするよ」
「思い出しただけでも顔から火が出そうです…… そ、その柳瀬さんに頭を撫でてもらうなど」
「見なかった事にするって言ってんだから忘れろよ、俺も恥ずかしくなるだろ?」
何か知らないが感傷的になって泣いちゃったんだろう。 無理には聞かないけどいつか話してくれるんだろうか?
「はい、明日には麻里や彩奈も帰って来ますし」
「良かったな、これで寂しくなくなって」
「寂しい?」
神崎はキョトンとした顔をした。 え? こいつあいつらが行った後寂しそうな顔してたけど……
「寂しくなかったのか?」
「あ…… はい。 最初は寂しかったですけど。 あなたの…… あ! ああ、ああなたの無理な提案のお陰でそんな暇なかったです!」
「え? あ、そう……」
まぁそれならそれで良いか。
「まぁお疲れ、俺に付き合ってくれてありがとな」
「はい…… お役に立てたなら何よりです。 柳瀬さんのご家族に夕飯まで頂いちゃいましたが」
「風呂でも入って来れば? 神崎も疲れたろ?」
「あ! お風呂掃除してませんでした!」
「なんだ、じゃあ俺やって来るよ」
「いえ、でも」
「いいから、今日は俺がやるよ。 もともと風呂掃除は俺がやってたんだし神崎は気が張り過ぎだ」
そうしてその日は風呂に入ってゆっくり寝た。
「柳瀬さーん! 朝ですよ? ご飯出来てるので起きて下さい」
「ん? 神崎? ああ、朝か」
ドア越しから神崎の声が聞こえて目を覚ました。 今何時かと思って時計を見ると8時過ぎだった。 今日は神崎にしてはゆっくりだなと思って体を起こした。
部屋から出るといそいそと神崎は動き回っていた。
「何してんだ?」
「今日はあの子達帰って来るので朝のうちにいろいろ済ませちゃおうかと思いまして」
「別に何もする事ないだろ? いつも通りに戻るだけなんだから」
「柳瀬さんは呑気なんですから! あ、洗濯物どうぞ。 置いたらキッチンへ来て下さいね」
忙しい奴だなぁ。 朝食を2人で食べ部屋でゲームでもしてゆっくりしていた。
そんな時ドアをノックされ神崎が顔を出した。
「柳瀬さん、クッキー作ったんですけど食べます?」
「俺に?」
「はい、良かったら食べるかなと……」
意外だ、それになんだか神崎の表情がいつも俺に向ける刺すような視線じゃないしなんというか穏やかな……
「どうしました?」
「いや…… じゃあ頂こうかな」
「紅茶も淹れたので一緒に食べましょう」
「ああ」
俺の部屋なんだけどここ? まぁ神崎がいいならいいのか、そう思いながら2人でクッキーを食べる。
すると玄関のドアが開く音が聞こえ、それと同時に神崎の部屋もドアも開く音が聞こえたので俺も顔を出して覗いてみると日向達が帰って来たようだ。 早かったな、お昼前に来るとは。
「いやぁー、麻里に急かされて大変だったよ、もうちょいゆっくりしようと思ったのに」
「早く帰るって言ったじゃん」
「2人ともお帰りなさい。 変わりないですか?」
「あると思う? ん? おやおや〜?」
「清人は? って莉亜……」
「え?! は、早かったですね2人とも! 私はちょっと柳瀬さんに用があって」
「2人ともおかえり」
「清っちなんか久し振り! 2日しか経ってないけど。 莉亜と仲良くしてた? なんて訊くのも野暮かな」
「ああ、問題ないよ」
「むう…… 清人寂しい思いさせちゃったね」
「なんでそう決めつけてんだ…… でもまぁ結構早かったな」
「急いで来た」
「嬉しいです麻里!」
「莉亜のためじゃないし」
「あーん、酷いです麻里」
2人とも元気そうだな。 戻って来た事だし俺は部屋に戻ろうとしていると日向にガシッと腕を掴まれた。 振り向くと怖い顔をして俺を睨んでいた。
なんだろう…… 何か怒らせる事でもしたかな?
「これお土産……」
「え? 俺に?」
日向はコクコクと頷いた。 見れば500円貯金箱…… なんでこれをお土産にした? 日向らしい謎なチョイスだけど。
「清人よく散財するからお金貯めて」
「私達が使わせてるのにって言ったんだけどねぇ」
「あたしも500円あったらそれに入れるから」
「ええ…… 日向のお金もらうわけには」
「立派です麻里、私も協力しますね!」
「うーん、じゃあ俺も入れとくけど何かあったらその時はみんなで使おうぜ?」
俺も実は実家の部屋にあるんだけどこういうのっていつしか忘れ去れて使わなくなるんだよなぁ。
「でもいつか忘れて使わなくなりそうだけどねこれ」
俺の考えを篠原が言った。
「では目立つように柳瀬さんの部屋の外にでも置いておきましょう、それなら全員見るはずです」
「おー、確かに!」
そうして神崎と篠原が部屋に戻るが日向はそこに立っていた。
「ん? 戻んねぇの?」
「清人ただいま」
「?? お……かえり?」
「うん」
そう言うと日向は微笑を浮かべて部屋に戻って行った。




