【セシルの仕事】5
「……迷った」
シルバは白い廊下で、つぶやいた。
「こんなに変化のない建物、迷うにきまっている……人間の思考は理解に苦しむ」
そう言いながら、彼の頭には一人の名前が浮かんでいた。
「……ギルバート、この魔術棟の管理者、いわば魔王。我が対峙するのに相応しい」
しかし、迷ったのである。一応、クライヴからもらった魔石に地図は表示されているが、そもそも、どの部屋にギルバートがいるのかが分からなかった。
「ああ!面倒だ!こうなれば!」
そういうと、シルバは走りだした。彼は魔術棟の出入口から外に出ると、おもむろに翼を広げ飛び始める。
「どうせ、偉い人間というのは出入口から遠い場所にいると、相場が決まっている!つまり、この魔術棟においては、最上階!」
シルバは魔術棟を見下ろせる位置で止まる。そして、おもむろに魔力を貯め始める。
「入口がないのなら作ればよいのだ!」
たまった魔力は赤黒い色を発しながら、魔術棟の屋根を破壊した。周囲からは驚きの声が上がっていたが、シルバはきにすることなく、魔術棟の最上階へと入る。
「さて、人間界の魔王よ!我と対峙せよ!」
「痛いなあ、ボクの部屋がぐちゃぐちゃだ」
こうして、魔界の魔王は、魔術棟の管理人と出会うのだった。