【魔人研究室】2
少し、時は遡る。
「ここにはいませんね」
クライヴは静かに言った。魔術棟の魔人研究室には誰一人いなかった。おそらく別の場所で実験を行っているに違いない。
「ここじゃないとなると、どこでしょう?」
「そうだなあ。ボクなら、人が来ない場所を選ぶけど……」
ギルバートの言葉がリフレインされる。
『うん。魔術棟の中でやるのは危ないから、町から離れた研究所跡地に行けばいいよ』
シルバは声を上げた。
「研究所跡地は?」
「おお!なるほど!」
こんな時なのにギルバートはどこか飄々としている。そのおかげで、皆、落ち着いて判断ができていた。シルバは口を開く。
「ギルバート、お前は我の背に乗れ」
「え?いいの?実は乗ってみたいと思ってたんだよね」
「それからクライヴは右手、勇者は左手を掴め」
「はい、こうですか?」
「これでいいのか?」
それだけ言うと、シルバは大量の魔力を槍のように形成し、壁へとぶつけた。魔術に対する結界が、破壊され、魔術棟の壁が壊された。
「シルバ君が来てから、魔術棟の風通しがよくなるね」
「いいから、つかまっていろ!」
シルバは翼を広げ、宙に浮く。そのまま、全力で飛び立った。
「おいギルバート!研究所跡地はどこだ?」
「ここから西、あっち!」
速度は落とさない。むしろ少しずつ早くなっているようだった。ギルバートは背中にくっつき、クライヴは笑顔を崩さず、アレックスは顔を青くしていた。
数分後、四人は無事に研究所跡地にたどり着いた。
「し、死ぬかと思った……」
アレックスの言葉に、クライヴは静かに笑った。
「いやあ、大砲で前線まで飛ばされたときを思い出しました」
「あんた……よく生きてるな……」
一息つくと、シルバは研究室跡地を見る。ガラス張りの建物。やはりそこにも結界が張ってあった。シルバは無言で魔力を放ち、当然のように破壊した。
「いやあ、アレックス君。よく、こんな魔王と勝てたね?」
「ホント、オレが一番びっくりしてる」
「何を話している?行くぞ」
シルバは歩みを進める。
(待っていろ、セシル!)
主人で、思い人の名前を想いながら。




