【心の変化】5
古代魔術はセシルでも読解が難しいらしい。シルバも一緒になって読解しているが、さすがロストテクノロジーと呼ばれているだけあって難しい。二人は研究室へ出勤しては古代魔術を試しつくした。時にはセシルが、別の時はシルバが。古代魔術を交互に試し、糸口をつかもうとしていた。
「あー!疲れた……」
「うむ、風呂の準備をしよう」
そう言いながら、シルバは浴槽にお湯を貯める。魔術を使うため、一瞬で風呂は沸く。シルバはセシルに風呂へ入るように勧めるが、セシルは布団から動きそうになかった。
「どうした?寝たのか?」
「いや、魔術を使いすぎて動けなくて……こうなると寝るしかないんだよね」
「うむ、魔力欠乏症だな」
「魔力欠乏症?」
知らない単語に、セシルは上半身を上げる。シルバはセシルの隣に座った。
「名前のとおり、魔力が少なくなって身体機能がおちる症状だ。セシルは魔力が少ないから、起きやすいのだろう」
「なんか解決策はないの?やっぱ寝るとか?」
シルバはその問いに少し考えた後、セシルを見る。
「セシル、舌を出せ」
「舌?」
それを聞いて、セシルは素直に舌を出す。「べー」というセシルに、シルバは顔を寄せた。
「……んっ!?」
それは急だった。シルバはセシルの舌を自身の舌で絡めとると、さらに舌を押し込んだ。
「……ん、ふっ……」
口から洩れる吐息を無視して、シルバはセシルへの行為をやめない。
それから数分経っただろうか。いや、経っていなくとも、セシルには数分に感じた。
「な!なにするの、シルバ!」
顔を真っ赤にしながらセシルは自分の口元をぬぐった。自分がどれだけシルバとのキスで唾液を垂らしていたのか。その行為で知ってしまう。対するシルバは特に何も問題ないように言った。
「どうだ?治ったであろう?」
「え?」
そう言われ、セシルは体の調子を感じ取る。明らかに軽い。先ほどの重さはどこかへ去っていったようだ。
「な、なんで?」
「魔力欠乏症というのは体内にある魔力が少なくなることでおきる。つまり、魔力を補充すればいい。魔力を他人に引き渡すには粘膜の接触が必要だ」
「それで、キス?」
「うむ」
そこまで言うと、シルバは喉を鳴らしながら笑う。それにセシルは耳まで赤くしながら怒鳴った。
「ほ、他に方法あったでしょ!」
「あるにはあるが……」
含むシルバに、セシルは身構える。シルバはにやりと笑いながら言う。
「その時は、一線を超える必要があるな」
「……き、キスでお願いします」
声がすぼんでいくのが面白くて、シルバはまた笑った。




