【鎮魂祭と勇者】4
やがて夜になり、祭は終了した。最後に空へと浮かべた灯篭に背を向けながら暗い夜道をセシルとシルバ、二人で歩いた。さすがにアレックスは王城でもパーティがあるらしく、一緒にはいない。二人は静かな路地を進んでいた。
「……少しは変化したか?」
「え?」
シルバはセシルの方を向かず、問いかける。
「変わろうと思ったのだろう?苦手な人混みへ入って、祭というものに参加して。少しは自分を変えようとした。我にはそう見えた」
「……シルバに見合う主人になりたくて」
セシルはポツリとこぼした。
「シルバはさ、人混みも怖くないし、家事だって完璧だし、知識も豊富で、優しいし……なんていうか、完璧に見えるんだよ。僕からしたら」
「それで、見合う主人、か」
「うん」
シルバは夜空を見上げた。
考えたこともなかった。勇者アレックスに剣を刺され、死亡した。意識が遠のく中で、いつの間にか腹部の痛さは消え、気が付けばセシルの研究室にいた。ただ、それだけのこと。本気を出せばセシルを殺し逃げ出すことなど造作もない。それこそ、魔王の能力で契約を解除してしまえばいい。それでも、自分は彼とともにいることを選んだ。シルバは静かに答えた。
「お前といると、気分がよい」
「気分?」
「そうだ。お前はいつも肯定的だ。我の存在も疎まず、恐れず、ただ受け入れた。使い魔だからと奴隷のように扱うわけでもなく、虎の威を借る狐のように威張ることもない。そんな柔和なお前といると、こちらは心地が良い」
「そうかな?」
「そうだ。見合う主人でないと思う必要はない。我の主人はお前でよいのだ。だから、あまり無理をするな。変わろうとする意志は認めるが、あまり急ぐな」
つないだ手が、ぎゅっと強くなる。セシルは小さく答えた。
「ありがとう」
その笑った顔に、シルバも笑う。いつしか、シルバも笑うことが増えた。
(これも、セシルの魅力だな)




