【鎮魂祭と勇者】3
鎮魂祭はアレックスが帰還してから数日たった日に行われた。あんなに、おどけた態度をしているが、彼はかなり多忙なのだ。魔王を討伐したとはいえ、魔人がいなくなったわけではない。いまだに国境では小競り合いが続いていたし、過去に被害のあった町を慰問に向かうことだってある。そのため、鎮魂祭の時くらいしか首都には来ない。逆を言えば、アレックスが帰還したということは鎮魂祭があるということだ。
「見てくださいよ、セシルさん!」
そう言いながらセシルを連れまわすアレックスを、シルバは静かに見ていた。彼はセシルの手をつないでいる。
(……不快だな)
シルバはその感情を不思議に思った。セシルと関わって一ヶ月ほど。その間に、様々なことはあった。共に暮らし、セシルを精一杯、守ってきた。もし、アレックスがいなければ、手をつないでいたのは自分なのだ。そう思うと、余計に不快な気持ちになった。
(だが、勇者もあれで、気が利くのだな)
おそらくだが、アレックスもセシルが人混みを苦手にしていることを知っている。だから怯えないように手を握っているのだ。
「シルバ」
考え事をしながらついていくと、セシルがシルバを振り返る。そして空いている手を差し出してきた。
「まだ少し、人混み怖くてね。シルバが手をつないでくれると、心強いんだけど」
「……」
もしかしたら、シルバの不快な気持ちが通じたのかもしれない。シルバはセシルの片手をつかんだ。
「えー!オレだけでもセシルさんを守れますよ?」
「じゃあ、魔王に守ってもらえば、最強だよね?」
セシルは笑う。手の震えは治まっていた。




