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神代杏奈の怪異調査FILE  作者: Allen
プロローグ
3/108

03:新しい部活












 新学期が始まって、まだ一週間は経っていない。

それは即ち、殆どの授業は初回であり、あんまりしっかりとした内容には入っていないという事だ。

どの授業も詳しく教科書の中身を解説してゆくような事はせず、やっているのはどっちかと言えばこの一年で何をやるかの大まかな説明と言った所だろう。

そして、この四時限目の授業、うちのクラスの担任である白峰しらみね恭子きょうこ先生の数学もそれに該当する。



「つー訳で、今年もテキトーにやってくからな。とりあえず、赤点だけは取るんじゃないぞ。私が面倒だ」



 何ていうかまあ、相変わらずどうして教師になったのか分からないような先生だ。

これでも一応生徒思いだし、相談すれば親身になって話を聞いてくれるんだけど、いかんせん普段の態度が悪すぎる。

もうちょっとしっかりして欲しい所ではあるんだけど……まあ、今更と言えば今更か。

私とヒメは去年もこの人のクラスの生徒だったけど、当時は随分と面食らったものだ。

今でこそ慣れたとは言え、若干不安になってしまう。

そういう意味では、あんまりいい先生とは言えないんだけど……力になってくれる事は確かだからなぁ。



「よし、授業終わり。と言う事で、私はメシに行くからな。お前達も適当に行けー」



 まあ、時間になったらさっさと授業終わらせてくれるこれは非常にありがたいんだけどね。

さっさと荷物を纏めて出て行ってしまった先生の背中をしばしぼんやりと見つめてから、私は嘆息交じりにカバンのファスナーを開いていた。

中から弁当箱を取り出して、それから出していたのに使わなかった教科書とノートを放り込んでから、私は立ち上がる。

大方、あいつ等ももう来てるでしょう。



「ヒメー、行くわよー」

「あ、はーい」



 ヒメを部活に誘おうとしている連中が互いに視線で牽制しあっている間に、私はさっさとヒメを呼び寄せる。

私の目の黒いうちは、そう易々とヒメに声をかけさせてやるもんですか、と。

さて、面倒な連中が動き出す前に、私はヒメを連れて廊下へと出る。

そしてそこには既に、窓の桟に背を預けながら私達を待っていた嶋谷とトモ、ついでに誠也の姿があった。

幸い廊下までは勧誘しようとしている連中は来ておらず、今の所は平穏に廊下を歩く事が出来そうだ。



「お待たせ、三人とも」

「ゴメンね、待たせちゃって」

「いや、こっちの授業が時間よりも早く終わっただけだ。誠也の方もな……だから、別に待ったって程でもない」

「そうだぞ。高等部の制服を着てるからやたらと目立って、逆に人が寄ってこなかったからちょっと寂しかったけどな」

「あー、そういう理由か」



 デザインは似てるものの、中学と高校では制服が違っている。

その為、こっちの校舎で高等部の制服を着てる奴がいると、非常に目立ってしまうのだ。

まあ、それのおかげで今こうして勧誘を受けずにいられるというのならば、トモの事も少しだけ認めてやれるというものである。

口に出したら調子に乗り始めるから何も言わないけど。



「さて……それで、どうするの?」

「ああ、付いて来てくれ。少なくとも、無駄に声をかけられる事は無い場所だ」

「うん、ありがとうね、賢司君」



 相変わらず、ヒメは話を聞かない内からすっかり信用し切ってしまっている。

まあ、私だって嶋谷の事は信頼してるし、悪いようにするとは思わないけど。

そもそもコイツ、女の子にはあんまり興味を持たない奴だからなぁ……多少は持ってもいいと思うんだけど。



「こっちだ、付いて来てくれ」



 じっと睨むような私の視線には気付かず、先導するように嶋谷は歩き出す。

方向としては階段……どうやら、下り階段へ向かっているらしい。

っていうか、結局何処に行くつもりなのかしらね、コイツ。



「ねえ嶋谷、結局どういう話だったのよ?」

「ん? どういうって?」

「いや、だから……ヒメに向かってくる勧誘を何とかする話。何か作戦があるんでしょ?」

「ああ。まあ作戦って言うか何て言うか、そのものズバリな心積もりなんだがな」



 嶋谷は一階まで降りると、そのまま下駄箱の方ではなく、非常口の方向へと歩き出す。

あそこは普段から開いていて、別の建物への連絡通路になっているのだ。


 うちの学校、私立白海大学付属中学高等学校は、大別して四つの建物からなっている。

まず、私とヒメが普段授業を受けている中学棟。そして、嶋谷達が授業を受けているのが高校棟だ。

そして体育の授業を行う為の大体育館があり、それにくっつくようにして温水プールの設備もある。

最後に、最も大きな建物である中央棟だ。

あそこには移動教室用の特別教室や、購買にカフェテリア、更には部活用の部室など、多くの部屋が配置されている。

どうやら、今回嶋谷が向かっているのは、その中央棟らしい。



「賢司君、カフェテリアでも行くの?」

「いやヒメ、この話の流れでそれは無いでしょ……まあでも、何となく分かってきたわ」



 ヒメの言葉に苦笑しながら、私は半ば嶋谷の考えを予測していた。

ここにいる面子は、今日は全員弁当を持っているから、態々購買に行く理由は無い。

そして食事を摂るにしても、混んでいるカフェテリアに行くのはちょっと面倒だ。

更に、このタイミングでは特別教室に用なんて無い。

つまり―――



「嶋谷……アンタ、何の部活やってるんだったっけ?」

「さて、そいつは着いてからのお楽しみだな」



 そんな言葉に私は嶋谷の狙いを確信して、小さく苦笑交じりの笑みを浮かべていた。











 * * * * *











「ここだ」

「えっと……『調査部』?」



 到着したのは、数々の部室が立ち並ぶ中央棟の一角。

その扉の前に立ち、嶋谷はどこか得意げな笑顔で私達の方へと視線を向けていた。

対し、私と誠也はその部屋の扉に張られた、安っぽいコピー用紙に書かれた名前に眉根を寄せる。

読み上げたヒメも疑問を抱いているようだし、トモは……まあ、何も考えて無いだろう。



「ここが、俺が今所属してる部活だ」

「いや、それは話の流れから分かるけど……何なのよ、この部活。調査部って、何を調査するつもりよ」

「まあ、何でもだな。詳しい話は中に入ってからにしよう。部長が痺れを切らしてそうだからな」

『そうだよ賢司くーん。放置プレイが趣味ならそれはそれで受けて立つけどー』



 扉の向こうから聞こえてきた声に、私は思わず沈黙する。

何だろう、凄く嫌な予感と言うか、関わらない方がいいような気がしてきた。

けど、ここまで来て戻るのもなんだし、それにヒメの方もなんだか興味を持っちゃったっぽいし。

そして私達をここに連れてきた張本人は、中から聞こえてきた声に対して深々と嘆息し、ちらりと一度こちらに視線を向けてからその扉を開けた。



「やあ、待ってたよー」



 見えてきたのは、あまり広いとはいえない室内。

中心に長机を二つ繋げたものが置かれたそこは、十人も人がいたら一杯になりそうなスペースしか余っていない。

まあ、それは壁に置かれた棚やらパソコンやらの所為だとは思うけど……これだけだと、部の方向性を見出す事は難しそうだ。

そして、私達のちょうど正面……一番奥の椅子に座っているのは、赤茶けた髪を持つ、外人っぽい顔のつくりをした女の人。



「テリア先輩、頼むから変な事を大声で言うのは止めてくれ」

「えー、だって私は秋穂さんのお弁当を心待ちにしているんだよ? それなのに放置プレイなんて、賢司君は結構Sっ気があるんだね?」

「えす?」

「いいのよー、ヒメは知らなくてー。穢れなくていいからねー」



 えーと、この人が部長だって言うのは話の流れから分かるけど……何だこの人。

真意が読み取れないって言うか、何考えてるのか分からないっていうか、嫌いじゃないけど苦手なタイプだ。

……要するに、いづなさんと同じタイプ。

私がどうしたものか悩んでいる内に、それなりに付き合いも長いのであろう嶋谷が、嘆息交じりに声を上げる。



「俺の弁当はあんたにあげる為の物じゃないんだが……とりあえず皆、適当に座ってくれ」

「う、うん」

「賢司、お前……こんな綺麗な先輩と二人きりで部活やってたのか!?」

「トモ、黙れ。おかず分けんぞ」

「はい、済みません」



 軽快にトモが土下座した所で、私達はとりあえず置いてあった椅子に座る。

ええと……テリア先輩? とかいう人も自分の目の前に弁当箱を置いてあって、私達が座った所で開け始めていた。

唐突だとは思うけど、おかげでこっちもお弁当を広げやすくなったわね。もしかして、気を遣って貰ってる?

色々と読めないこの先輩に対して考えを巡らせようとした所で、同じく弁当を広げた嶋谷が声を上げた。



「さて、ここが俺の所属してる部活、『怪異調査部』な訳だが」

「怪異? さっき、表には『調査部』としか書いてなかったじゃない」

「学校への届出は『調査部』になってるんだよ。ワタシ達の中では、そうなってるけどねー。ワタシのナカじゃないよ?」

「無意味に変なニュアンスを追加しようとするな」



 私の疑問に対し、テリア先輩が補足する。後半の言葉は気にしない事として。

怪異調査部ねぇ……まあ、部の人たちがその部を何と呼ぼうとその人達の勝手だとは思うけど。

しかし、ますます何をやってる部活なのか分からなくなってきたわね。



「賢兄、それってどんな部活なんだ?」

「そうだな。簡単に言うと探偵クラブみたいなもんだ。主に生徒から依頼を受けて、それに関して調査をする。

一応学校の方には歴史研究みたいな風に届け出てはいるが、大体こっちがメインだな」

「ま、依頼が無い時は新聞部の手伝いをしてる感じかな。ワタシ達は調査専門だよ」



 そう言って、テリア先輩は胸を張る。

ただでさえ大きい胸が強調されて、私は思わずヒメのそれと見比べてしまっていた。

……先輩の方が大きいわね。胸が圧迫されるからか、ブレザーの前を閉めてないみたいだし。



「で、ワタシはこの怪異調査部部長、テリア・スリュース。謎の美少女留学生だよ」

「自分で言うか」



 私が思った事を嶋谷が口にしていた。

うん、まあ、自分で言うのはどうかとも思うが、テリア先輩なのが美少女なのは確かだ。

嶋谷の奴、一年の頃はこの人とずっと部活をやってた訳ね。



「おのれ賢司! この先輩とずっと二人きりだったというのかッ! 羨ましいぞ貴様!」

「やかましい! 去年はもっと先輩が居たに決まってるだろ!?」

「あ、そうなんだ」

「そうそう、残念ながらエロエロな展開にはならなかったんだよねー」



 その言葉に、全員の視線が先輩の方へと向けられる。

しばしの沈黙。そして―――



「てへっ」

「『てへっ』、じゃねえよ!? 一々無意味に話題をエロ方面に持って行こうとするなって言ってるだろ!?」

「けんじぃぃぃぃいいいい!」

「お前も黙ってろ!」

「あーもー話進まないわね……何もしてないんでしょ。ほら、いいからそこはスルースルー」

「む……ボケ殺しとは、やるね。火曜日だったらジュンと来てたかもしれないよ」



 何だその曜日感覚。まあ、ツッコミを入れたら調子に乗りそうだから、とりあえずスルーを続ける事にするけれど。

何か微妙に先輩から目をつけられたような気はするけど、そこは気のせいだったという事にしておこう。

何て言うか、色々面倒臭いわね、この人。って言うか胡散臭い。

一方、無駄に叫んで息を荒げていた嶋谷は、ぜーはーと息を整えてから席に座り直し、一度咳払いをする。



「ええとまあ、とにかくここが俺の部活なんだが……さっきも言った通り、他の部員だった先輩が卒業しちゃったんだよ」

「あれ……賢司君、部員って確か……」

「そう、最低でも五人。顧問は一応居るんだが、人がいなくなると廃部になっちゃうからな、何とか人を集めたかったんだ」

「ふぅん。それで私達って訳か」



 向こうは廃部を避ける為に人員が欲しくて、こっちは勧誘を避ける為にどこかの部活に所属したい。

どっちにもメリットがあって、ある意味嶋谷らしい話の仕方だとは思う。



「こっちも、廃部を避ける事が目的だからな。名前を貸してくれるだけでもいいんだ。部の活動はこっちでやるから、別に顔を出して欲しいとか、活動に協力して欲しいとは言わないさ」

「ダメだよ、賢司君」



 ぴっと、たしなめるようにヒメは指を立てて声を上げる。

そんな彼女の仕草に、嶋谷はバツが悪そうに苦笑を零し、頭を掻きながら肩を竦めた。



「っ……ああ、悪い。ちょっと勝手すぎたな。この話は聞かなかった事に―――」

「そうじゃなくて! 所属するんだったら、私はちゃんと活動するよ。助けてもらうだけじゃ悪いもん」

「え……いや、こっちは名前を貸してもらえるだけでもありがたいんだが」

「賢兄賢兄、ヒメ姉は無駄に真面目なんだから、メリットだけ受け取ってボーっとしてるのは無理だと思うけど」



 今まで黙々とお弁当を摘んでた誠也が、嶋谷へと向かってそう口にする。

その言葉は確かに事実……それはまあいいんだけど、随分とマイペースね、誠也。

まあ、それも今に始まった事じゃないけど……今はそれより、聞きたい事がある。



「ヒメ、ちょっと落ち着きなさいって。まだ聞いてない事があるんだから」

「え? でも賢司君の頼みなんだし、私はちゃんと聞くよ?」

「あんたは自分の主張が少なすぎるの! で、嶋谷……さっき言ってたけど、結局『怪異』って何なのよ?」

「それについてはワタシの方から説明しよう!」



 先ほどから疑問に思っていたことについて口にした所、何故か控えていたテリア先輩が声を上げた。

いつの間にか彼女の手には分厚いファイルのようなものが握られている。

どうも、近くにあった本棚から取り出してきた物みたいだけど……いつの間にそんな事やってたのやら。

ともあれ、私のそんな疑問を他所に、先輩は上機嫌な様子でファイルを開き、それと共に説明を始めた。



「ワタシ達が『怪異』って言ってるのは、所謂都市伝説って奴だね」

「都市伝説?」

「身近な所でいえば学校の七不思議。要するに、そういう益体も無い噂が本当なのかどうか調べてくるのがメインって事だよ。

残念ながらエッチな都市伝説は一人じゃ調べられないのが多いんだけど」

「そういう依頼は来てないから調べなくていいです。まあとにかく、そういう事だ……ヒメ、ホラーは苦手だろ?」

「あ、あう……」



 嶋谷の説明に対して、私は思わず嘆息交じりに肩を竦める。

ヒメは、確かにホラーが苦手なのだ。小学校の頃、合宿の夜に怪談話になった時とか、布団を被って外に出てこなくなったし。

都市伝説ってのは何もホラーばっかりって訳じゃないけど、有名なのは半ば怪談のようなものになっている。

ヒメにしてみれば、苦手なものに変わりは無いだろう。

ただ、この場合―――



「でも、それだと……賢司君は、一人で調査したりするんだよね?」

「え? あー……まあ確かに、先輩は情報収集担当だからな。体当たり調査は俺の仕事みたいなもんだ」



 元々好奇心の強い嶋谷だし、そういう都市伝説の真っ只中に身を置く事もそれほど怖く無いんだろう。

ただ、ホラーを怖がって、逸話だと言うのに信じてしまいがちなヒメにとってみれば、それは自殺行為のように感じられてしまうようなものだ。

そして仲間が危険に晒されていると判断した時のヒメの行動は、とっくに分かりきっている。



「そんな危ない事、賢司君だけにさせられないよ! 私が賢司君を護るから!」

「いや、まあ……腕っ節で言えばヒメの方が強いのは確かだけどさ……本当にいいのか?」

「う、うん。怖いけど、私頑張るよ」

「……はぁ。こうなると、もう聞かないからねぇ」



 ヒメは仲間を、友達を護ろうとする意識が強い。

その為に剣の腕を磨いていると言っても過言ではないほどだ。

だからこそ、こうなってしまってはもう梃子でも動かない。

ま、私としても、嶋谷の居る部活ならヒメを任せてもいいかとは思ってる所だけど。

そしてそれに関しては、どうやらトモも同意見のようだった。



「流石だヒメ、その意気や良し! という訳で、俺も協力させて貰うぜ、賢司」

「ま、他に当てが無いのも事実だしね……どうせ放課後は暇だし、別にいいわよ」

「こっちはバスケ部あるから、名前だけって事で。練習が無い時なら協力するよ」

「……ったく、お人好しだな、お前らは」

「うんうん、美しい友情だねぇ。お姉さん羨ましくなっちゃうよ」



 まあ、先輩の胡散臭さはともかくとして……ヒメがここまで乗り気だって言うなら、私も協力しない理由も無いしね。

それに、趣味の範囲を超えそうにない所だし、時間潰しにはちょうどいい。

ここまで来たんだし、楽しめる所は楽しませて貰おうかな。


 嶋谷は私達の返答に苦笑すると、持っていた箸をパチンと置く。

そして一度、確かな感謝を込めて頭を下げていた。



「ありがとう、これからよろしくな」



 一々律儀な奴だなぁ、なんて苦笑しながら、私達は嶋谷の言葉に笑顔で頷いていた。











 * * * * *











 杏奈たちの居る学校、中央棟の屋上。

落下防止のために張り巡らされた柵の上に、一人の人影が佇んでいた。

紅の袴に、着物をアレンジして作り上げたかのような白い衣。

彼女はバランスよくその場に立ち、遠くを眺めるように手で日陰を作りながら、もう片方の手で携帯電話を耳に押し当てていた。



「……もしもーし、聞こえとるー?」



 屋上には誰も居らず、その声を聞くものは居ない。

それを幸いと、彼女は異様な出で立ちのまま、繋がった電話の先の相手と会話を続けていた。



「うん、大体予想通りやね。そっちの言った通り……ちょっと、異様な状況や」



 彼女の視線は鋭く細められ、眼下に広がる町の何処かを睨みつけている。

それに明確な標的と呼べるようなものはなく、ただ意識を細く鋭く、刃のように研ぎ澄ませているに過ぎなかった。

けれどそれは、周囲の空気を寸断するほどに強烈な圧迫感となり、大気を震わせる。



「せやね……標的になっとるんは一人……いや、二人や。何やら厄介な状況やけど、どないするん?」



 声に混じる若干の硬さが、周囲の圧迫感を更に強める。

精神の弱いものがその場に居れば、呼吸できぬほどに強い圧力を感じていただろう。

それほどまでに、彼女は異常・・だった。



「……うん、せやね。下手に手ぇ出す訳にも行かん。あの子達が自分で解決するんが一番や。うちらが手ぇ出すと、周囲への被害が大きくなってまう。

特に、あっちには伝えたらあかんよ。耳に入ったら、何が何でも突撃して来そうやし」



 若干の苦笑。

それと共に、周囲を覆っていた強い圧力は消滅する。

その表情の中に含まれるのは―――どこか、慈愛のような感情であった。



「ま、流石にヤバなったら手ぇ貸すさかい、心配はせんでええよ。ほんなら、また。サボったらあかんよ」



 そこまで告げ、彼女は通話を終了する。

携帯電話はそのまま胸元へと仕舞いこみ、小さく嘆息。

そして―――



「さて、鬼が出るか蛇が出るか……気ぃつけなあかんよ、皆」



 ―――女性、霞之宮いづなの姿は、次の瞬間には風に吹き散らされたかのごとく消え去っていた。





















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