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015_別れ(きれいな思い出)平民と貴族、記憶喪失→記憶回復、1004字


 魔導列車の汽笛が、夕暮れの宿場町に寂しく響き渡っていた。


 私は、薬草の入った薬箱を背負ったまま、雑踏の中で立ち尽くしていた。

 人混みの向こう、豪華な一等客車の窓辺に、その人の姿を見つけたからだ。


 フレッド。

 かつて私の村に記憶を失くして現れ、一年間一緒に畑を耕し、貧しくも温かい日々を過ごした私の恋人。

 だけど、彼の正体は記憶を奪われていた隣国の若き伯爵だった。

 一ヶ月前、捜索隊が村に現れ、記憶を取り戻したフレッドは、華やかな都へと帰っていった。「必ず迎えにいく」と私に約束を残して。



 今日、彼が公務でこの町を通ると聞き、どうしても一目会いたくて駅まできた。


 窓の向こうの彼は、村にいた頃の質素な服ではなく、金糸の刺繍が施された見事な騎士服を纏っていた。その佇まいは気高く、美しかった。


 その時、フレッドの視線がふと窓の外へ向き、群衆の中にいる私を捉えた。


「あ……」


 胸の鼓動が速くなる。

 だけど彼の顔は、一瞬の戸惑いと、それから──きまずい罪悪感を見せる。


 フレッドはすぐに視線を逸らし、隣に座る美しい貴族の令嬢へと微笑みかけた。二人の薬指には、お揃いの魔石の指輪が光っている。


 その瞬間、すべてを理解した。

 彼は記憶を取り戻し、貴族としての義務と未来を選んだ。

 私との約束は、彼にとって一時の迷いでしかなかったと。



 動き出した列車の風が、私の髪を激しく揺らす。

 遠ざかっていく列車を追いかけるつもりなんて、最初からなかった。彼を責めたいわけでもない。ただ、けりをつけたかっただけだ。


 もし私が、彼を追いかけて都にいったらどうなっていただろう。

 身分違いの恋だと罵られ、嫌いわれて終わったかもしれない。

 

 だから、これでいい。

 きっとここにあるのは、ただ美しい過去だけ。


 私たちが愛し合った時間は本物だった。でも、それはあの小さな村の、あの狭い空の下だからこそ輝けた幻で、都に持ち込めば、たちまち色褪せて壊れてしまうだろう。


「……バイバイ、フレッド」


 私は小さく呟き、列車の見えなくなった線路に背を向けた。

 涙は出なかった。胸にあるのは、少しの痛みと、それ以上に、あの優しかったフレッドの記憶を綺麗なまま箱に仕舞えたことへの、静かな安堵だった。


 私は薬箱を背負い直し、自分の生きるべき平民の街へと歩き出した。


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