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戀憐廻祈  作者: 空月
『彼』と罪と
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過ちの終焉

行くあてのない異世界人とその庇護者。それだけで終われなかった『私』と『彼』の、『彼』が見た終わりのひととき。



 ――燃える。燃えていく。全てが。


 俺の過ちも罪も、彼女の涙もかなしみも。





 くたりと力なく投げ出された彼女の体を抱えなおす。その体にまだ温もりがあるのかどうかも、もうこの熱さの中ではわからない。


 いつか、こんな日が来るのだろうと思っていた。


 俺の罪を、俺の過ちを、誰かが止める日が。

 ……願わくば、それに、彼女を巻き込みたくはなかったのだけれど。


 屋敷を包む炎は勢いを増して、退路はどこにもない。どこにも戻る気はなかったから、それももう、どうでもよかった。


 ――『ごめんなさい』と、彼女は唇で囁いた。

 最後まで、あの声が俺を呼ぶことはなく。

 最後まで、彼女は後悔したままで。


 そうして終わるのか。

 俺と彼女の出会いも、過ごした日々も、向けた想いも、向けられた感情も。

 全てこの炎が飲み込んで、後には何も残らずに。



 ――愛、だったのか。

 それとも、恋だったのか。


 名前などつけられないままだった。どこかでずれた歯車は、最後まで噛み合わないまま。

 彼女は嘆きさえせず、全てを諦めたように緩慢に、俺に囲われて。

 俺は、彼女を、閉じ込めて、悲しませて。そういうふうにしか、いられないまま。


 何かが違えば、共に生きる未来があったのかもしれなかった。

 そんなことは、幾度も考えた。

 けれど俺達は、もう、どうしようもないところまできてしまっていたから。

 こうなる以外の道など、とっくになかったのかもしれなかった。


 この地を治めるものとして、もっと考えるべきことはあるはずだと、冷静に判断する自分がいる。

 けれど、俺はこの炎に包まれた屋敷の中に飛び込んでしまった。彼女を――彼女との最期を、選んでしまった。


 為政者失格だな、と思うけれど、そんなのはもう今更で。


 狂っていたのか。狂っているのか。そんなのだって、どうでもよくて。


 ただ、彼女の魂が、安らかであれと願うばかりだ。



 異世界人たる彼女が、この世界の理にとらわれるかはわからない。

 この世界の輪廻に組み込まれるのか、それとも彼女の世界に還るのか。――どちらであっても、どちらでなくても、構わない。


 俺は、彼女を、しあわせにできなかったから。

 かなしませて、ばかりだった。還すことも、解放することもできなかった。

 傍にいて欲しかった。傍にいたかった。それだけでよかったら、どんなにか。


 わかっていても、それでも、手放したくはなかった。

 ――それこそが、俺の、罪だった。



即興小説トレーニングにて「お題:燃える過ち 制限時間:15分」で挑戦したもの。若干修正済み。

即興小説した原文は『物語の切れ端。』にあります。


お題があまりにどんぴしゃで勢いで書いてみたものの、『彼』視点をこれっぽっちも考えたことがなかったため、正式に番外編と呼んでいいものか迷う代物になりました。しかしせっかくなのでこちらに収録。


存外に冷静に、冷静なまま、考えて、選んでしまえた人だったり。

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