予言、運命、それはきっと楽しい事
『オーバーマインド』
彼らの根源は1つの文明に住まう生命体で、人類とさして大きくは変わらない知的生命体だった。惑星から恒星系、系外惑星へと成長し文明を拡げた彼らは、ある時、種の進化を迎えた。肉体を離れ精神を高次元へ移行し、ある種の情報生命体へと成った彼らは、進化の過程で複数の特異な能力を得た。1つは転生、肉体が死に瀕した際に精神を高次元へ戻し、新たな肉体を持って戻る仕組み。これにより彼らは同一個体でありなが、物質的には別人でもある。尤も、精神が本質の彼らからしたら、さしたる問題でな無いのだろうが。1つは、俗に言う精神感応能力、サイコメトリーや読心、未来の予知である。その本質が肉体を離れた彼らにとって、それらは非常に大事な情報伝達手段であり、個体という事にあまり拘らない理由でもある。彼らもまた生命体である以上、単体、個体ではあるが、同時に深い繋がりのある存在でもある。個の境界は、社会や生命体と交流する上でお互いにやりやすくする為のタグでしかない。
「…情報生命体となったアンタらは、文明に干渉せず観測者となる事を決めた。物理的干渉能力は肉体だけと言うのも大きかったろうな。超能力のド定番、サイコキネシスとかは使えないもんな。肉体を越え、何百年、何千年の時を生きて、精神が仙人や植物の様な域に達して……故に彼らはこう呼ばれる。『超越的精神』と」
「やはり、よくご存知の様ですね」
「俺は結構オタク気質でね。図鑑見てるだけでも楽しいってタイプなんだよ」
資料集とかついつい買っちゃうタイプでもある。大抵の事は知るのは楽しいからな。
「ところで、名前は?そういえば忘れてたけど、自己紹介といかない?一方的に名前知られてるってのもね」
「そうでしたね。失念しておりました。…そうですね。では、私の事は、テオとお呼びください」
「テオ…ね。画商やってそうな名前だな」
「どちらかと言うと…哲学の方ですよ」
「あ、そっち。ならピッタリだ」
観測者、傍観者の生き方そのものだ。まぁ、こうして触れ合いがあるから、観想のみでは無いのだろうが。
「それで、占いの最中だったな。悪いな。続けてくれ。テオ」
「構いません。皆さんはもっと、かかりますからね。では、改めて」
そういうと周囲の景色が変わる。星々が煌めく宇宙へと移った様だ。
「おぉ、足元に銀河がある」
何銀河だろう?天の川か、アンドロメダか、マゼラン?はたまたおとめ座超銀河団のどれかか?なんて考えていたら彗星が横切る。大きな尾を引きながら飛ぶ姿に何故か共感を覚えた。
「彗星は貴方の運命の化身です。星々を渡る姿は貴方々に相応しいシンボルですね」
「傭兵としてか?それとも、『来訪者』らしいと言う意味かな?」
「さぁ、どうでしょうね」
流されたな。まぁ、良いか。大事なのはそこじゃ無いしな。
「西へ向かうと良いでしょう。どうやら、困っている人が居るようです。それも傭兵の仕事が必要な人が」
「西か、それで?他には?」
「導かれるまま進んだ先、幾つかの出逢いを以て、やがて彗星は1つの旧き運命と交わるでしょう。それはきっと衝撃なものになると思います。そして…」
「そして?」
「ここで終わっております。どうやら私が見えたのはここまでの様です」
「すげぇ不吉な事言うじゃん。俺死ぬの?」
「いえ、そうとは限りません。あくまでも見えたのはここまで、という事です」
「ふーん、ま、そりゃそうか。シュミレーションでも長期になるほど不確定になるもんな。似た様なもんか」
「えぇ。聞く前と後では、結果が同じでも過程が変わりますから。「ガンで死ぬ」と聞けば、普通はガンにならないよう備えるでしょうし、「暗殺される」と聞けば、誰だって警備は固めるでしょう」
「だろうな。それで死ぬ時期が変わっても死因が同じなら予言通りって事になるか」
「その通りです。見えないというだけで、その先に何があるか確定してる訳ではありません。どうなるかは、全て貴方次第です。随分投げやりですがね」
「その方が分かり易い。運命は自分で切り開くものだと、よく言うしな。ま、良いか。なる様になる」
とりあえず、目的地は決まった。なら、その後は何とでもなる。
「最後に、ラッキーアイテムとかある?」
「そうですね……赤いメガネが貴方に仕事をもたらすでしょう」
「赤いメガネね、覚えとく」
某映画かな?あのほぼプライベートフィルムの。
「他には?無いなら戻してくれ」
「では、そうしましょう。あ、そうそう、もし今晩の暇のアテが無いというなら、シューティングスターがオススメですよ」
「んぇ?」
世界がブラックアウトする。
―
「…行きも帰りも不意打ちかよぉ」
目が覚めると椅子の上で、無事身体に戻って来れたらしい。特に何か具合が悪くなるとかは無いが、不意打ちでブラックアウトするの地味に怖いんだよなー。突然停電になった時みたいな怖さがある。
「…何分くらい経った?」
「3分程だ。扉の前で言っていたのはこれの事か?」
「まぁね」
体感はその5倍くらい経ってる気もするが夢の中も一晩で丸1日経つ時もあるからそんなもんだろうな。夢の場合は記憶の追体験だから実際の理屈は違うんだろうけど。
「とりあえず、聞きたい事は聞けた。今度は2人の番だ」
「良いのか?」
「彼が良いと言うならね。内容メモしたいし、表で待ってるよ」
そう言いながら椅子から立つ。聞かれたくない事もあるだろう。尤も精神感応で喋る以上そんな心配は無用だが。
「お茶でも飲んでるから何かあったら呼んで」
―
予知内容をメモをし、軽く考えを纏めながら待つ事数分。
「終わったぞ」
どうやら占いが終わったようだ。
「どうだった?」
と聞くと、ガブリエルに渋い顔を返される。腑に落ちない事でも予言されたか?彼らは文字通り未来を見て何か言う事もあるから、良く当たるんだよなー。ま、俺自身めちゃくちゃ不穏な事言われたから眉顰めたくなる気持ちは分かる。俺の場合は事情は少し変わるのだろうがね。
「興味深かった」
コッチは随分楽しそうだコト。良い事だな。知的好奇心を刺激された様だ。心做しか表情も明るい……気の所為かもしれない…な。
「それは良かったな。…お代は?」
「結構ですよ。『来訪者』様を観る貴重な経験をさせていただきましたから、そのお勉強、という事で」
「ふっ…分かった、ならそういう事で。もし道に迷ったら…また来ても?」
「えぇ、何時でもお待ちしております」
という事らしいので、占いの館を後にする。
「随分仲良くなったんだな」
「まぁね。本心ってヤツが知られてるんでね。隠す必要も無い。それに…俺みたいなのは導いてくれる大人が必要なのサー」
「全く。フン、しょうがないヤツだな?ミクマは」
「そ、だからもっと優しくしてくれても良いのよ?」
「考えておく」
あら手厳しい。まぁ、良いか。変に優しくても勘違いしたり甘えちゃうからな。適度な緊張感のある関係も、それもまた大人の関係って奴だね。
「仲良いね」
「羨ましかろ?」
「いや全然?」
あ、そっすか…こっちも相当手厳しいッスねぇ…。
「うん、まぁ、どうでもいい事は置いといて、この後どうする?デネブに帰るなら送るよ」
「ミクマはどうするんだ?」
「買い物。娯楽品とか学習用のアレコレを仕入れに。福利厚生の一環だよ。ほら、参考書とか専門書とか。大事でしょ」
「成程?確かに大事だな。それは」
「一緒に行く?なら、折角だし欲しいのあれば経費で買うよ。教材ならね。ほら、船員の学習への補助ってヤツ。無いなら無いで別に良いけど」
「成程な。なら私は着いていこうか。実際、欲しい教材もあるし、分かるのか?ミクマは」
「分からん。だから店員とかに聞いて適当に買うつもりだったけど」
「なら尚更、着いて行った方が良さそうだな。…ところで経費って?時々言ってるが、節税でもするのか?」
「ん?あー、そうだなぁ、人数や規模的にせいぜいグループなんでねぇ、ぶっちゃけ別に経費だのなんだのってあんま関係無いんすけど、要は「傭兵ミクマとそのクルー」の財布から出しますよって宣言だよ。人材育成とか福利厚生は必要な事だからね、一応、組織ってか皆のお金で買いますよって。ただそれだけ」
言わずとも分かってる事でも、言っとくってのは大事だからな。念の為の確認がてら言ってるだけだ。浪費対策も兼ねてるし。
「それで、カミーユ。どう?来る?」
「帰る。一人で帰れる」
「そっか、なら気を付けてね」
軽く頷くのを見て、こっちも頷き返す。
「あ、そうだ、じゃあ少し頼みたいんだが、デネブに帰ったら、コレ、少し調べといてくれるか?これパスキーね。機密区画も入れるヤツ。無くさないでね」
そう言いながら、紙のメモとカードキーを渡す。
「分かった」
「うん、じゃ、また後で」
トラムの駅の方へ駆けて行く背中を見送ってから歩き出す。
「さーてと、ショップどこかなー」
「お買い物デートと言う奴かなコレは」
「にしては、買うもんが教材ってのもなー。悪くないけど」
「違いない」
買い物はすこぶる捗った。いやー流石は貿易都市だねー
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祝20話。わーい




