それでも進み続ける
――触れた瞬間…
リンの魔法を纏った手が記録媒体に触れた瞬間。
音が消えた。
色が消えた。
感覚が消えた。
代わりに。
“流れ込んできた”。
――死。
――死。
――死。
――死。
――死。
濃密な死という概念そのもの。
「――――ぁ」
声にならない。
数えきれない“死”が。
記憶が。
歴史が。
脳を、焼く。
「いやっ」
拒絶する。
無理だ。
こんなの。
「………ぁ」
体が、壊れる。
骨が砕ける。
肉が裂ける。
意識が潰れる。
さらに流れ込んでくる。
知らない誰かの記憶。
知らない景色。
知らない“最期”。
「――あ」
気づく。
今のは、自分の記憶じゃない。
でも――
「……なんで、見えてるの?」
息が荒れる。
剣で貫かれた感覚。
焼かれた感覚。
潰された感覚。
全部、“自分の経験のような感覚”。
「やめて」
次の瞬間。
首が飛ぶ。
「――――」
視界が回る。
死ぬ。
――が。
また目が覚める。
「……あ」
さっきと同じ場所。
同じ光。
同じ苦しみ。
でも違う。
「……私、どこまでが私なの!?」
記憶が混ざる。
自分が誰だったのか、曖昧になる。
「高校……?」
「ダンジョン……?」
「ククロス……?」
わからない。
わからないのに。
また、流れ込む。
「――――ぁぁああああああ!!!」
壊れる。
何度も。
何度も。
何度も。
そして。
どのくらいの回数死んだのだろう。
「……ああ」
リンは、理解した。
「すべて、“受け入れよう”」
痛みは消えない。
でも。
意味はある
死は、情報だ。
記録だ。
流れだ。
なら――
「死を受け入れれば私も楽に…」
受け入れる。
拒絶しない。
区別する。
自分と、他人を。
世界と、自分を。
境界を引く。
「……あぁ」
その瞬間。
“死”は、恐怖ではなくなった。
ただの記録だ。
目を開ける。
そこは、外だった。
「……ぁ」
初めて見る、空。
風が吹く。
匂いがある。
光が、自然にある。
目から涙が溢れた。
「……ぁ」
彼女は生きている。
それだけは、確かだった。




