最強になった日
リンが最も強くなった日。
それは、皮肉にも“終わり”を告げられた日だった。
「リン」
ククロスの声は、いつもより静かだった。
「大事な話がある」
「……うん」
なんとなく、分かっていた。
この十四年。
ずっと目を背けてきた“終わり”が来たのだと。
連れてこられたのは、見覚えのない場所だった。
広い岩場。
そして中央に光。
いや、違う。
“光りすぎている何か”。
それはダンジョン内の神気をそれが自ら発しているとも錯覚できるほどの神々しさだった。
「……これが」
リンは、息を呑む。
見た瞬間、全てが理解できてしまった。
本能が、告げている。
これこそがーー
「ダンジョンコアじゃ」
どくん、と心臓が高鳴る。
懐かしいような。
恐ろしいような。
そんな感覚。
「お主がここから出る方法は一つ」
ククロスが続ける。
「これを、どうにかすることじゃ」
「……どうにか、って」
「破壊するか」
あるいは
「――扱うか」
リンは、黙る。
視線を、コアから逸らせなかった。
「壊せば、外には出られる」
ククロスの声は静かだった。
「じゃが――」
「全部、消える」
リンの声が、震えていた。
分かってしまう。
あの光に触れた瞬間から、全部。
ここにあるものが何なのか。
どれだけの“存在”が積み重なっているのか。
「……リチャードも?」
「……消える」
「ドラゴも?」
「……ああ」
「……ククロスも?」
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ、ククロスは答えなかった。
「……そうじゃな」
その一言で、リンの中の何かが弾け飛んだ。
「……やだ」
ぽつりと涙が落ちる。
「やだよ……」
リンの視界が歪む。
「やっと……やっとここまで来たのに」
「やっと強くなれたのに」
「やっと、みんなと仲良く話せるようになったのに……!」
声が、崩れる。
「なんで今なの……!」
ククロスは、何も言わない。
ただ、静かに聞いている。
「外に出たい……」
それは、本音だった。
「でも……」
拳が震える。
「ここも、なくしたくない……」
長い沈黙。
やがて。
「……リン」
ククロスが、ゆっくりと口を開く。
「お主が選べ」
「え……」
「儂は、どちらでもよい」
「よくないでしょ!」
思わず叫ぶ。
「消えるんだよ!?」
「知っておる」
即答だった。
「じゃがな」
ククロスは、少しだけ笑った。
「弟子の未来と引き換えに生き残るほど、儂は落ちぶれてはおらん」
リンの息が止まる。
「……っ」
「お主が外に出たいなら、それでよい」
「ここを守りたいなら、それでもよい」
「どちらを選んでも――」
一歩近づく。
「儂は、お主を誇る」
リンの涙が、溢れた。
「……ずるい」
「なんでそんなこと言うの」
逃げられない。
選ばなければならない。
だから――
「……壊さない」
絞り出すように言う。
「絶対に壊さない」
顔を上げる。
「全部、持っていく」
ククロスの目が見開かれる。
「ここも」
「みんなも」
「全部、外に連れてく!」
一瞬の静寂。
そして。
「……ほう」
ククロスは、ゆっくりと笑った。
「それはまた、とんでもないことを言うのう」
リンは覚悟を決めた。
ならば…
「これを取り込む…」
ククロスの目が、見開かれる。
「リン――」
その瞬間。
リンは魔法陣を展開していた。
無詠唱。
超高密度。
複雑すぎて、常人には理解不能な構造。
「……リン」
「新しい魔法。あとでククロスに自慢しようと思ってたんだ…」
そう言ってリンは涙目で微笑む。
ククロスは、リンがこの時のために用意したものだとなんとなく察する。
「名前はククロスにしようかな…」
ククロスが鼻をすすりながら俯く。
魔法陣が、輝く。
そしてーー




