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異世界任侠王『異世界転生した任侠男、俺はただ弱ぇ者を助けて筋を通していただけなのに、なぜか王女も女騎士もエルフも魔族娘も惚れてきて、最強ハーレム一家を率いたまま王にまでなってしまった件』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第45話 村正、貴族屋敷の闇を断つ

裏邸宅の地下は、静かすぎた。


 静かな場所ほど、何かを隠している。


 龍真は半地下の石段を降り切ったところで、そう確信した。

 地下市場ほどの広さはない。

 だが、狭いからこそ質が悪い。

 ここは売る前の選別場であり、貴族と商会と役人が“表へ出せない相談”を済ませるための腹の中だ。


 保管室。

 帳簿部屋。

 会談室へ続く通路。

 表向きは文化交流の屋敷、その地下にこれだけのものを整えている時点で、もう言い逃れなど利かない。


「……気配、増えた」


 ミアが小さく言った。

 耳がぴんと立ち、目が鋭くなっている。


「どこだ」

 龍真が聞く。


「奥。最初は三、四人だったのに、今はもっといる」

「二階の会談が始まったから、下も固め始めたのでしょう」

 エレオノーラが低く言う。

「こちらの侵入に気づかれていないとしても、今夜は元々、警備を厚くする予定だったはずです」


 リリィは帳簿部屋の扉に指をかけたまま、小声で言った。


「これ、静かに回収して静かに帰るの、たぶん無理です」

「最初からそんな気はしてねえ」

 龍真が返す。

「でしょうね!」


 半分悲鳴みたいな声だったが、そこへ笑う余裕はない。


 次の瞬間、地下通路の奥で靴音が揃った。


 規則的。

 速すぎず、遅すぎず。

 見張りや用心棒の足音ではない。訓練された人間の音だ。


 エレオノーラの顔つきが変わる。


「来ます」

「数は」

「前衛三、後ろに二……いえ、もっといる」


 通路の角を曲がって現れたのは、揃いのない甲冑を着た男たちだった。

 地下市場の私兵とは違う。

 装備に統一感は薄いが、動きに無駄がない。

 目立つ家紋はない。

 だが逆に、それが分かりやすい。


 公爵家側が、表へ出せない仕事専用に抱えている戦力だ。


 先頭の男が低く言う。


「やはり入っていたか」

「歓迎が遅いな」

 龍真が返す。

「ここをどこだと思っている」

「胸くそ悪ぃ家の腹ん中だろ」

「口の減らない流れ者だ」


 その後ろ、さらに通路の奥から、黒衣の男たちが二人出てくる。

 杖を持っている。

 魔導士だ。


 リリィが青ざめた。


「また魔導士……!」

「王都の本丸に近い場所です。地下市場より薄い戦力で守るはずがありません」

 エレオノーラが言う。


 しかも、それだけでは終わらなかった。


 右手の別通路、二階へ繋がる階段の陰から、一人の男がゆっくり姿を現す。


 長身。

 無駄のない黒装束。

 剣は細身だが、飾り気がないぶんだけ逆に嫌な実戦の匂いがした。

 護衛でも用心棒でもない。

 “龍真用”に用意された類だと、一目で分かる。


「お前が水戸龍真か」

 男が言う。

「だったら何だ」

「聞いていたより若い」

「年で人を見る口か」

「いいや」


 男は淡々としていた。


「聞いていたより、面倒そうだ」


 その言葉の端に、微かな殺気が混じる。

 雇われ剣士。

 しかも、ただの腕自慢じゃない。

 龍真と同じく“間合い”で人を殺す側の人間だった。


 エレオノーラが小さく舌打ちする。


「対龍真戦力、ですか」

「たぶんな」


 龍真は村正の柄に手を置いた。


「龍真」

 エレオノーラが低く呼ぶ。

「前、取れますか」

「取る」

「なら私は左を切ります。リリィは帳簿部屋へ。ミア、ノアは保管室の確認を優先」

「でも!」

 ミアが言いかける。

「今、龍真さん一人で――」

「一人じゃねえ」


 龍真が短く返した。


「お前らがやることやってくれりゃ、それで十分だ」

「……っ」

「行け」


 その一言で、全員の身体が動いた。


 エレオノーラは左手通路の私兵二人へ斬りかかる。

 リリィは半泣きの顔のまま帳簿部屋へ滑り込み、扉を内側から押さえた。

 ノアとミアは反対側の保管室へ走る。


 中央。

 残る敵は全部、龍真が受ける。


「やれ」


 剣士の低い声と同時に、前衛三人が一斉に来た。


 盾役はいない。

 代わりに、槍、長剣、短剣の三枚。

 後ろから魔導士。

 潰す前提の布陣だ。


 だが、龍真は前へ出た。


 村正が抜かれる。

 地下市場でも冴えたその刃は、狭い通路でさらに鋭い。


 最初の槍が突き出される。

 龍真は半歩左へずれ、穂先を流し、そのまま前腕を斬る。深くはない。だが握力は飛ぶ。槍が床へ落ちる。


 二人目の長剣。

 これは速い。

 地方の賊でも王都地下の私兵でもない。訓練された騎士崩れの動きだ。

 だが、それでも遅い。


 村正の刃を正面から合わせず、相手の刃筋を“滑らせる”。その瞬間、懐へ入る。柄頭がみぞおちに入り、男の身体がくの字に曲がる。


 三人目、短剣使いは龍真の死角を狙っていた。

 だが、背後から入るなら最初に息が動く。

 龍真は振り向かず、肘を打ち込んだ。鼻骨が潰れる感触。短剣が鈍い音を立てて落ちる。


 そこへ、魔法が来た。


「拘束!」


 石床に光の輪。

 足元から鎖のような魔力が這う。

 地下市場でも見た拘束系だ。

 だが今回は連携が速い。剣士たちの間合いへ縫い付けてから仕留めるつもりだ。


 龍真は止まらない。

 むしろ、その“止めようとする起点”へ踏み込む。


 村正の鞘が石床を叩く。

 術式の刻まれた縁が砕ける。

 光の輪が一瞬ぶれる。


「何!?」

 魔導士が声を上げた瞬間には、もう遅い。


 龍真は前衛を飛び越すようにして距離を詰めた。

 魔法は後衛が一番脆い。

 撃たせる前に折る。


 一人目の杖を村正の峰で叩き折る。

 二人目は横へ逃げようとしたが、踏み込みで追いつく。柄で喉を打ち、壁へ叩きつけた。


 その一連を見ても、黒衣の剣士だけは動かなかった。


 いや、見ていた。

 龍真の癖。

 踏み込み。

 刃の返し。

 その全部を測っている。


「なるほど」

 男が低く言う。

「面倒だ」


 次の瞬間、その男が初めて動いた。


 速い。


 長い剣ではない。

 刺突主体の細身剣。

 王都の決闘者めいた型だが、実戦で研ぎ澄まされている。狭い場所で急所だけを取りに来る。


 龍真は一撃目を紙一重でかわす。

 石壁に剣先が触れ、火花が散る。

 そこへ返しの二撃目。速い。

 村正で弾く。

 だが相手はそれも読んでいたように、軌道を半分で変え、龍真の肩口を浅く裂いた。


「……っ」


 血が滲む。


 ミアが奥から息を呑む。


「龍真さん!」

「見るな、行け!」


 龍真が怒鳴る。

 それでミアは歯を食いしばり、ノアと共に保管室へ駆け込んだ。


 剣士は薄く笑うでもなく言う。


「地下市場の雑兵とは違う」

「見りゃ分かる」

「公爵家は、君のような男に対して楽観しない」

「そりゃどうも」

「光栄に思うといい」

「断る」


 剣がぶつかる。


 細身剣と村正。

 真っ向からではない。

 擦れ違うように、刺し込むように、削るように。

 剣士は急所だけを狙う。龍真はその間合いを崩す。

 静かだが、苛烈だった。


 一方その頃、左手通路ではエレオノーラが二人目の私兵を倒していた。


「道を空けなさい!」


 彼女の剣は、龍真のような暴力的な圧ではない。

 正統の線で、正面から相手の型を崩していく。

 騎士として積み上げた技量が、今夜は“公爵家へ剣を向ける”ために使われていた。


 通路を切り開いた彼女は、リリィのいる帳簿部屋へ声を飛ばす。


「リリィ!」

「あります! ありますけど多い!」

「要る物だけを!」

「全部要るように見えるんです!」

「分かるものを優先しなさい!」

「それが一番難しいんですけど!」


 だがその叫びの裏で、リリィの手はちゃんと動いていた。

 印章つきの束。

 個人名のない仮記録。

 上納金の符号表。

 普通の人間が見ればただの紙だ。

 だが彼女には、そのどれが“あとで刺せる紙”かが分かる。


 そして保管室では――


「こっち!」

 ノアが低く叫ぶ。


 扉の向こうには、やはり人がいた。

 地下市場のような檻ではない。

 代わりに、仮留め用の個室。

 獣人の娘が一人、若い人間の女が二人、さらに別室に、年若い貴族令嬢らしき少女が一人。


「貴族……?」

 ミアが目を見開く。


 その少女は手足を縛られてはいない。

 だが部屋の内鍵と外鍵で閉じ込められていた。

 顔色は悪いが、服の質はいい。


「あなたたち……誰?」

「助ける側! たぶん!」

「たぶん、って何よ」

「今はそこ気にしないで!」


 地下市場の王女救出時と似たやり取りになりかけたが、今はそれどころではない。


「ノア姉ちゃん、この子たち出す!」

「ええ。でも順番に。まだ通路が安定してない」


 そこへ、奥の通路からさらに重い足音が響いた。


「増援!」

 エレオノーラが叫ぶ。

「龍真!」


 黒衣の剣士との斬り結びの最中、龍真の背中が熱を持った。


 閻魔。


 刺青が、王都の貴族屋敷の地下でなお、はっきりと脈を打つ。


 赤黒い威圧が滲む。


 空気が、変わる。


 通路の奥から来た増援の私兵が、一瞬だけ足を止めた。

 黒衣の剣士ですら、目を細める。


「……それか」

「何だ」

「噂の、正体不明の威圧」

「名前なんざ要らねえよ」


 龍真はその一瞬に踏み込んだ。


 黒衣の剣士は反応する。

 だが、威圧の中では踏み込みの精度がわずかに落ちる。

 それで十分だった。


 村正が斜め下から切り上がる。

 剣士は受ける。

 だが受け切れない。

 腕が流され、体勢が崩れる。

 そこへ、龍真の額がそのまま顔面へ叩き込まれた。


 鈍い音。

 剣士がよろめく。


 続けざまに村正の柄頭が脇腹へ入る。

 息が漏れた。

 龍真はさらに一歩、中へ。


「ぐ……っ!」

「王都の剣士ってのは、綺麗すぎる」


 低く言い捨てる。


「死ぬ気で土の上転がってねえ太刀筋だ」

「……ッ!」


 最後の一撃は、首ではなかった。


 肩口から胸元へ浅く一線。

 深くはない。

 だが戦うには十分すぎる痛みだ。


 剣士が膝をつく。


 同時に、奥から来た増援の私兵に向けて龍真が振り返る。

 閻魔の威圧。

 村正。

 通路に転がる味方。

 帳簿を抱えた女。

 解放されつつある保管室。


 その光景だけで、増援の足が鈍った。


「来るなら来い」

 龍真が言う。

「まとめて斬る」


 それはただの脅しではなかった。

 今の龍真には、本当にそれができる圧があった。


 王都西区画の裏邸宅。

 貴族屋敷の地下。

 そこに用意された私兵、用心棒、魔導士、対龍真の剣士。


 その全部を前にして、龍真は村正を振るい、なお前へ出る。


 村正、貴族屋敷の闇を断つ。


 それは地下市場より静かで、だがもっと深い意味を持つ一戦の始まりだった。

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