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第7話11王様と村長

「ごめん、みんな。僕は……まだ十分に強くなれなかった。」


「ごめん、僕を信じてくれた人たち。」


「ごめん、父さん……僕は、僕のやるべきことを果たせなかった。」


だが、それでも。


「少なくとも今、僕は、やるべき最後のことを頑張っているんだ。」


カニディは、心の中で静かに呟いた。


そして――村長の背後に、新たな一団の影が現れる。


だが、今までとは違う。


彼らは炎の精霊を追いかけてきた冒険者たち、そして――日落村の村人たちだった。


村長の目が一瞬大きく開かれ、そして焦燥に駆られるように叫んだ。


「前に出るな! 前に出るんじゃない!!」


そう叫ぶや否や、彼は両手を地面へと押し付けた。


刹那、氷の青い光が大地を駆け巡る。


――霜の魔法防御。


氷の力が奔流となって膨れ上がり、日落村全体を覆うように巨大な円形のバリアを展開する。


澄み切った青い壁が、静かに村を守る砦と化す。


その中で、カニディは振り返り、微笑んだ。


目の前に立つのは、かつての「火焰将軍」。


「お疲れ様、将軍。」


その声は穏やかで、どこか懐かしささえ感じさせた。


「あとは、頼むよ。きっと……僕より、ずっと強くなるだろう。」


そして、ふっと笑いながら、彼は言葉を続けた。


「そういえば、もう“将軍”とは呼ばない方がいいな。」


カニディは深く息を吸い込み、目の前の炎をまとった戦士に向かって、最後の言葉を紡いだ。


「頼む、サス。」


炎の精霊たちの新たな王は、一瞬だけ目を伏せると、深々と頭を下げた。


「任せてください、大人……いや、カニディ。」


カニディは静かに微笑んだ。


――そして、目の前の運命へと歩を進める。


爆発の気配が、彼の周囲に満ち始める。


大地が震え、火焰が膨張する。


「さあ、来い。」


彼は天を仰ぎ、最後の宣告を下す。


「僕の最後の一撃――


――自爆だ。」


***


轟音とともに、烈火が村長の魔法バリアを覆い尽くした。


燃え上がる炎の奔流が、圧倒的な熱量とともに襲いかかる。


村長は、歯を食いしばりながらバリアの維持に全力を注いだ。


(くそ……! もう防ぎきれない!)


バリアがきしみ、ひび割れが走る。


じわじわと押し寄せる崩壊の予感――


村長の脳裏に浮かんだのは、ただ一つの思い。


(これで本当に、この村を守ることはできないのか?)


(やっぱり……歳を取ったせいか……)


(これ以上続けたら、死ぬだろう。)


――だが。


死んでも構わない。


だが、それでも――


(ここにいる全ての人を……生かさなければならない!)


その時。


村人たちが、次々と立ち上がった。


村長は驚き、思わず後ろを振り返る。


そこには、日落村の人々がいた。


彼らは震える手を伸ばし、それでも迷いのない眼差しで村長を見つめていた。


そして、一人が静かに言った。


「村長……あなたは本当に、素晴らしい村長です。」


「ずっと、私たちを無償で守ってくれました。」


「今度は――私たちが、村長を助けます。」


その言葉に呼応するように、村人たちが一斉に手を掲げた。


すると――


光の筋が生まれ、ひとつ、またひとつと村長へと繋がっていく。


それは、温かく、そして力強い魔力の流れ。


日落村全体の想いが、村長の体へと流れ込んでいく。


(これは……村の力……!)


村長は目を閉じ、深く息を吸った。


そして、目を見開く。


青い輝きが、村長の手に集約されていく。


氷の力が、今、この瞬間に凝縮される。


これは――日落村の希望そのもの。


村長は、天を仰ぎ、叫んだ。


「そうだ……! 俺はこの村の村長だ!」


「来い――全てを、受けて立つ!!!」


右手に、全ての魔力を集める。


村人たちの想い、村を守る使命、そして彼自身の信念。


それらがひとつに結集し、村長の手のひらへと凝縮されていく。


それは、極寒の力。


それは、炎を断ち切る意志。


それは、村を護る者の誇り。


村長の手のひらには、氷の光が渦を巻くように集まった。


そして、彼は――それを放った。


「絶対に――成功させる!!!」


一瞬の沈黙。


そして――


光と炎が交錯し、世界が閃光に包まれた。



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