第4話 07あなたは冒険者に向いていない
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運命の決断
リックは歯を食いしばりながらニックスの腕を掴み、全力で駆け出した。重たい足音を背後に聞きながら、二人はひたすら前へと走る。
しかし、途中でリックはふと足を止めた。
「……リク?」
ニックスは訝しげに振り返った。
リクはじっと前方を見据え、僅かに拳を震わせながら、低い声で呟く。
「このまま前に進み続ければ……俺たちは逃げられるかもしれない。」
それは、まるで自分自身に言い聞かせるような言葉だった。
そして、彼は深く息を吸い、まっすぐニックスを見つめる。
「ニックス、お前は……僕と一緒に戻りたくないか?」
その問いかけは、どこか切なげで、それでいて願いにも似た響きを持っていた。
「……今は死にたくないからな。」
ニックスは迷いなく答えた。
リクの表情が一瞬だけ歪む。だが、その次の瞬間、彼はゆっくりと首を横に振った。
「……ごめん。」
短い謝罪とともに、リクは振り返った。その目には迷いの色はなかった。
「俺は……彼らが死ぬのを黙って見ているわけにはいかない。だから、ヘンリーとチャーリーを助けに行く。」
「君は一緒に来なくていい。」
その言葉は、まるで最後の別れのようだった。
「……怖いだろ?」
ニックスは微かに笑いながら言った。しかし、その声は震えていた。
「俺も初めてこんな場面に遭遇しているんだ。……だけどさ。」
彼はぎゅっと拳を握りしめ、まるで自分を奮い立たせるように続けた。
「もしこの状況を乗り越えられないなら、俺は冒険者に向いていないってことだ。……冒険者ってのは、こういう危険と常に向き合う職業なんだからな。」
リクはじっとニックスの言葉を聞いていたが、やがて微かに目を細めた。
「……最後に謝るよ。」
ニックスはそっと頭を下げた。
「初めての任務で、こんな危険な目に遭うとは思わなかった。」
「いや、そんなことはない。」
リックは静かに言った。
「むしろ、俺の方こそ……こんな時に迷ったことを謝りたい。」
彼はふっと息を吐くと、再び真剣な目でニックスを見つめた。
「……ニックス、お前は援軍を探してくれ。」
「え?」
「今の君の力じゃ、この巨大ゴブリンには太刀打ちできない。」
リクの言葉は厳しくも、どこか優しさを帯びていた。
「俺は彼らを支援しに行く。」
「……!」
ニックスの胸が締め付けられるような感覚に襲われる。
だが、それでも彼は頷くしかなかった。
「……もし俺たちが敗北したら。」
リックは小さく笑い、剣を抜きながら静かに言った。
「チャーリー、ヘンリー……そして、俺の家族に伝えてくれ。」
「『遠くの任務を遂行中です』ってな。」
最後にそう言い残し、リクは剣を握りしめたまま踵を返し、ヘンリーのもとへと駆け出した。
ニックスは、ただその背中を見送ることしかできなかった。
「……どうして、こんなに無力なんだ?」
握りしめた拳が小刻みに震える。悔しさと、焦燥と、どうしようもない無力感が心を締めつけた。
「せっかく異世界に来たのに……」
それでも、彼は歯を食いしばった。
「いや、諦めちゃいけない。」
暗闇の中、彼は自らを鼓舞するように小さく呟いた。
「唯一の方法は……援軍を探すことだ!」
――視点がヘンリーへと戻る。
ヘンリーは巨大ゴブリンと必死に対峙していた。
「クソッ……この野郎……皮が硬すぎるし、攻撃力も桁違いだ……!」
焦りと疲労が混じる中、巨大ゴブリンは突如として腕を振りかぶった。
――次の瞬間。
「ぐっ……!」
凄まじい衝撃がヘンリーの身体を襲い、彼は弾き飛ばされた。視界が揺れ、地面が迫る。次に気がついた時、彼は地面に叩きつけられていた。
しかも、そのすぐそばには――
「……チャーリー!」
血を流しながら横たわるチャーリーの姿があった。
「ヘンリー……どうして逃げないんだ……?」
チャーリーは苦しそうに言葉を絞り出した。
ヘンリーは彼の顔をじっと見つめ、そして、静かに答えた。
「お前がここにいるからだ。」
その言葉には、一切の迷いがなかった。
「俺が逃げたら、お前は死ぬ。」
「……逃げなくても、俺は死ぬさ。」
チャーリーは微かに笑った。
「それでも……こいつを食い止めなきゃならない。隊長が来るまで……耐えなきゃならないんだ。」
「……お前はまだ耐えられるのか?」
ヘンリーは息を整えながら、慎重に問いかけた。
チャーリーは一瞬だけ目を閉じた。そして、再び開いた時、そこには炎のような強い意志が宿っていた。
「できる限り……頑張る!!」
その瞬間――
巨大ゴブリンが再び、彼らへと迫ってきた。




