第4話06私たちは勝ったでしょうか?
生と死の狭間で
「ドンッ!」
ヘンリーの剣が唸りを上げ、巨大ゴブリンの背中に刻まれた十字の傷口へと深く突き刺さった。刃が肉を裂き、骨を砕く音が響き渡る。
「グオオォォォォ――!!!」
耳をつんざくような断末魔の咆哮を上げながら、巨体がぐらりと揺れ、ついに地面へと崩れ落ちた。大地が震え、周囲に砂埃が舞い上がる。
「やった……倒したぞ! 成功した!」
ニックスは息を切らしながらも歓喜の声を上げた。
しかし、その刹那――
「でも、念のため……もう一発加えておこう。」
チャーリーは油断なく呪文を紡ぐ。
「隕石!!」
彼の詠唱に応じるように、暗雲が空を覆い、灼熱の岩塊が轟音とともに降下を始めた。燃え盛る流星のような隕石が、ゴブリンの亡骸へと一直線に落ちていく――まさに止めの一撃となるはずだった。
「待って、今すぐ隊長を転送するつもりなのか?」
リックが声を上げた、その瞬間だった。
「――!!!」
突如として空を裂くように巨大な影が降り、振り下ろされた鉄槌がチャーリーの身体を無慈悲に吹き飛ばした。
「ぐはっ……!」
鈍い衝撃音とともに、チャーリーの身体が空を舞い、地面に叩きつけられる。
「なっ……まだ、もう一体いるのか……!?」
ニックスの脳裏を不安が支配する。全身の毛が逆立ち、手足の感覚が一瞬にして麻痺したかのように動かない。思考がぐるぐると回り始める。
(私は……誰? 何をしているんだ……?)
混乱する意識の中、耳元で仲間たちの叫び声が遠く響く。
「ニックス! ニックス!!」
その声に引き戻されるように、彼はハッと我に返った。
(そうだ……俺たちは今、巨大ゴブリンと戦っているんだ!)
冷や汗が頬を伝う。呼吸が浅くなる。心臓が異常なほどに速く打ち鳴らされている。
(……俺は……死ぬのか?)
「ニックス、何を考えているんだ!!」
鋭い叱責が、頭の奥にこだまする。
――リックだ。
リックが素早く駆け寄り、ニックスの腕を掴んだ。その直後、彼らがいた場所を巨大な鉄槌が無慈悲に叩き潰した。
「っ……!」
地面が粉々に砕け、凄まじい衝撃波が周囲を吹き飛ばす。ほんの少しでも遅れていたら、二人とも跡形もなく押し潰されていたことだろう。
「チャーリーは重傷だ! リック、ニックスを連れて早く逃げろ!」
ヘンリーの声が響く。
彼の身体はすでに限界だった。息は荒く、肩が大きく上下している。それでもなお、彼は剣を構え、巨大ゴブリンの猛攻を受け止め続けていた。
「ダメだ、そうしたらお前が死んでしまう!!」
ニックスは叫ぶ。恐怖と焦燥が入り混じり、全身が震えていた。
「このまま躊躇していたら……みんな死んでしまう!!」
リックの声が震えながらも、必死に彼を引きずる。
「早く逃げろ!!!」
咆哮のような叫びとともに、リックはニックスの腕を強く引いた。
そして、二人は駆け出す――。
暗闇の中を、死に物狂いで走る。
だが、その途中でリックはふと足を止めた。
「……リック?」
彼は前方を見据えたまま、静かに言った。
「前に進み続ければ……必ず逃げられる。」
「ニックス、お前は生きろ……!」




