64 EVENT《LS》2
試合開始まで残り30分。
沙耶ちゃんが槍の人達のお仕置きを終えて見学席に顔を出してくれた。
「ミラ、オープニングセレモニー見てくれた?結構、後ろの方だったでしょ」
「沙耶ちゃん見たよ。でも納得いかない。一番強いのに、それが分からないなんて!」
「マスターの言うとおりです」
「えへへ。そうかなあ」
むうう。
ミラは少し不機嫌だけど、沙耶ちゃんはご機嫌だった。
そして何故か、じいちゃんが怒りだす。
「沙耶よ、残り時間は少ない。分かっておるのか?遊んでないで、早く現ナマを参加者にばら撒いて使い潰せる肉壁を確保しにゆけ」
「いいえ、そんな卑怯な事は出来ません!」
キリリと断る沙耶ちゃん格好良い。
「卑怯では無い。60分用意されとるのにはそういう理由があるんだ。このままでは的になってしまう。勝ち残りたいなら、大人になって裏の意味を読み取るのだ」
「裏の意味は分かっています。ですが、それでも私は一点の曇りなく在りたい」
沙耶ちゃんの揺るがない表情に、じいちゃんは悔しそうな顔をした。怖いお顔の人が言葉を繋ぐ。
「沙耶が選ぼうとしているのは、困難で幼稚な道にも思えます。だから、鉄斎様の柔軟な思考も頭に入れておきなさい。ですが、止めません。思うままにやりなさい」
「はい、お父上!」
うん。やっぱり顔は怖いけど優しい。
「斬鉄さま、今の名言しびれますぅ。私も思うままに、はあはあ」
「くっ、ノノンさん腕を離し給え。貴女には言っていない。それに少しは慎みというものをだな」
沙耶ちゃんが呆れた顔をした。
もー残念だなあ。
あれ?ミラは気付いてしまった。沙耶ちゃんが何かバッジを付けている事に。朝は無かったよ。
沙耶ちゃんを敬愛する会の会長は、どんな小さな変化も見逃さないのだ。ふんす。
「沙耶ちゃん、そのバッジは?」
「良いでしょー。さっき貰ったんだ。非売品で、なんでも出場者全員にくれるみたい」
ええ?ミラも欲しい。
沙耶ちゃんとお揃がいい。
お揃がいいよーー。
「いいなぁ」
「ふふ。あっごめん!そろそろ行かないと」
沙耶ちゃんが待合室に足早に向かった。
「頑張って、沙耶ちゃんーー」
消えていく背中にエールを送る。
すっごい楽しみ。
でも、何かもやもやする。
『選手入場でーす』
ばらばらと闘技リングの上に選手が入ってきた。個性的な武器を持った人が多い。だけど、そんな武器より皆が付けているバッジの方が目に入る。いっぱいつけてる人もいる。
いいなぁ。
「ミラちゃん。どうしたんだい?元気が無いのう」
「ミラもあのバッジ欲しい」
甘えてみた。
「ふむ。直ぐに手配しよう」
「本当!?」
「もちろんじゃよ。」
「ありがとう、じいちゃん!」
うへへ。
お揃っお揃っ!
気持ちがうわわってなる。大興奮だー。
「斬鉄よ、予選落ちから10個ばかり金に物を言わせてかき集めい!いや…待てよ。そうじゃ!くくく、我に秘策有り。あー、スタッフさんや、学園長に大事な話がある。大至急ここへ呼んでくれぬか」
「はっ、分かりました。一文字様」
じいちゃんがお金を握らせて、スタッフさんを走らせる。何だか悪いお顔をしてるよ?
待つこと少し、学園長がやってきた。
「全くこの忙しい時に、俺を呼びつけるなど、鉄斎め」
おおっ、剣が新しくなってる。
「あっ学園ちょー」
「これはこれはミラ様!」
学園長の態度に、じいちゃんが驚いた顔をした。
「ミラ様じゃと?そう言ったのか」
「あぁん?何か文句があるのかね?」
学園長がバチバチと火花を出しながら、じいちゃんを睨んだけど、じいちゃんはびっくりするほど喜んだ。
「素晴らしい!ミラちゃんの凄さを認めるとは、さすがはソードリアン。見直したぞ。お前とは美味い酒が飲めそうだわい」
「あ、ああ?」
学園長は煙に包まれたような顔になった。大丈夫かな?
「ところで同志よ。良い提案がある。ミラちゃんがあのバッジを欲しがっておっての。急ではあるが、特別参加枠を一つ手配してくれぬか?」
「ふはは。鉄斎、耄碌したか?ミラ様がここにおられるのは沙耶さんの試合が見たいからだ。残念だったな」
そうだよー。ミラは今回参加しません。
沙耶ちゃんの勇姿が見たいので。
「固い、固いのう。予選だけでいいんだ。雑魚の足切りだけなら、何も問題あるまい」
「う、うーん」
でも、ミラは沙耶ちゃんがザコ敵を、ばんばんとなぎ飛ばすシーンも見てみたい。
だからやっぱり無いかな?じいちゃんと目が合う。
「フハハ。ミラちゃんや。もちろんバッジを手に入れるのは簡単よ。しかし共闘してこそ、初めてお揃いと言えるのでは無いかな?」
「うあっ、そうだった」
なんて魅力的な提案だろうか。
本当の意味でお揃いのバッジを手に入れて、本戦をしっかり観戦する。わくわくわく。こっちの方がいいっ。
しゅたっと手を上げる。
「ミラは、出ます」
「ミラ様!すぐに用意しますぞ」
ひょこっと出て、いつも通り間近で観戦しよう。
「フハハ。これで沙耶の予選通過が確定。ミラちゃんよろしく頼むぞ」
「くはは。これで俺への不当な陰口が減るというものよ。ミラ様、存分に暴れてくだされ」
「ええー。ミラは出るだけだよ?」
学園長はニッコリ笑った。あっ・・これは聞いて無い顔だ。
「さあさあ、ミラ様。愚かにも増長した生徒共に喝を入れてやってください。行きますぞ!」
「はーい」
学園長の後をひょこひょこ付いていく。
「仮想決闘場ファースト!ミラ様の予選への指導参戦。ポイント配分なし。以上を学園長権限で申請する。それでいいな?」
『私のミラの希望である事を考慮して、本提案を特別に受理します』
学園長が、ごそごそと机を漁り、何かを出してきた。こ、これは?
「ミラ様。指導参戦が受理されました。これは参加証ですぞ。存分に暴れてくだされ」
「ありがとう」
うわーい。
これで沙耶ちゃんとお揃いだぜっ!
ミラの胸に、キラリとバッジが光った。
【時間予告】
鉄斎の計略に学園長が悪乗りし
予選は波乱の予感。




