54 レムの秘密2
私は、一足先にファンシーなクランルームへと戻った。それにしてもこの部屋は落ち着く。可愛い物がいっぱいの女の子らしい部屋だからかな。
あっ、ミラ達が帰ってきた。
お疲れー。と言おうとして、
吃驚して腰を抜かした。
「ひぅ!!」
「沙耶ちゃん、どうしたの?」
なんでミラは落ち着いてるの?
レムさんが帰って来ていないんだけど??というか、レムさんと思われる生首だけ持ってるのに、平然ときょとんとしてる。
ああー、そうか。
もしかしてシステムバグ?
「いやー。吃驚しちゃった。ここは、まだ仮想決闘場の中なのかな?」
嫌だ、認めたくない。
現実ならレムさんが死んだ事になる。
私が練習のためだけに殺した事に。
厳密には壊れたという表現なのかもしれないけど、私にとっては唯一無二の家族だ。形だけ似た代わりの人形を出されても困る。
「?? ここは現実だよ」
「レムさんは!?」
泣きそうだ。たぶん酷い顔で聞いた。
もう会えないのと?
「え?ここにいるけど?」
「そうじゃなくてッ!」
ミラが不思議そうに言った。
「?? レムは仮想決闘場と現実がリンクしてるみたいだから壊れたのは、許してあげて。でも、ゴーレムはコアさえあれば直せるよ?」
「そ、そうなんだ。良かった〜」
事前に説明して欲しい。
どっと力が抜ける。
だけど、事前に説明されたらされたで、ミラが何を言ってるかまるで分からない自信がある。知りたい事だけ教えて欲しいけど、知りたい事が分からないからね。
ミラが平然とした様子でダクトテープでぐるぐると首を巻いてくっつけた。
「処置、完了〜!」
☆
この世界にはもう一つの世界。
裏世界とかアストラル界と呼ばれている世界がある。
ゴーストやリッチの棲む世界、神々が住まう世界と言えば分かるだろうか。
今回は、そこが舞台。
大きな老犬の背にまたがった幼女がいた。オレンジ色の髪。よく見るとミラに似ているが、それにしても幼い。その幼女が口を開いた。
「メイドのレムです。現在、裏世界に来ています。素体のエネルギーがカットされ稼働停止したので、飛ばされてしまいました。それにしても裏世界に来るのは久しぶりです」
良く分かりませんが、表世界で沙耶様が私を心配してくれてます。なんて、お優しい。マスターも私に優しくしてくれてもいいんですよ。うわわ、よく見ると落ちた顔を拾ってくれてますね、やっぱりなんだかんだマスターは優しいです。
「驚かれましたか?これが私の正体です。老犬イヌとマスターの半身で出来ています。それでレムという名前は沙耶様から拝命したとか?あれ?よく考えると、自分のことなのにあまり良く知りません」
むうっと犬の背に乗った幼女が首を傾げる。
バウっと老犬が吠えると、ポンッと探偵7つ道具が目の前に落ちてきた。
「そういえば、探偵の助手でした。いつまでも助手で甘んじてる私ではありません。良い機会なので、マスターの生家へ行って見ましょう。裏世界探偵レム出発っ! 探偵道具Number3、座標転移扉をセット」
犬に乗った幼女は、騎乗したまま、空中に現れたゲートをくぐるとオーバーテクノ家のミラの部屋まで移動しました。
それにしても、マスターの部屋は時代がかなり進んでます。
ジュースサーバー、空中モニター、食品プリンター、脳波入力機、惑星通信機・・・・。
まるで遺失魔道具の見本市。そう、オーバテクノ家は、古代魔法王国の正統な継承者のため流通していない遺失魔道具が大量に現存しています。
マスターの技術力がぶっ壊れてるのは、これが理由です。
「さて、真相を究明。探偵道具Number1で、映像をお父さんが失踪した当時に戻して、シーン再開」
魔道具により、朧げに当時の人物が立体投影されました。
わあっ! 小さな幼女マスターを発見。
可愛らしいです。
大きな犬が戯れついていますね。
『わう。わう』
「ちょっと、イヌ。邪魔だよ、出ていきなさい」
大型犬は、締め出されました。
『くぅーん』
何かを作るのを再開したみたいです。
何でしょうか?
空中モニターに開きっぱなしの資料には、ゴーレムメイカー、ホムンクルス、ナノマシンとありますが。
「ふふふ。これは父も驚くぞ」
当時のマスターは尖ってますね。話し方も今と違ってマセてます。
「出来た、フレッシュゴーレムメイカー」
そういえば、マスターは、一族の中でも真の天才だったから超技術のさらに先を作っては天狗になっていた嫌な子供だったなんて言われてました。
「素体は、私の生体スキャンデータを未来予測機で演算したものを使う。製造開始」
透明な液体ケースの中で、肉塊がスライムのように蠢くと、だんだんと人の形になっていき、オレンジの髪の裸の成人女性が現れました。
もしかして私でしょうか?顔はそっくりですが、なぜか違和感があるような気がします。
「少し、胸が小さいね。背も低いし。将来の私はもっと美女になるはずなのに。やはり機械なんかに任せてはいけない、最後は人がチェックしないと」
マスターが脳波で操作すると、どんどんと女性の身体が変化していきます。今度は、だいぶ私に似てきましたね。
「まずまずね。コアを挿入」
マスターが、自分の(理想の)未来像を見て満足そうに頷いてます。
透明なガラス玉のようなコアが身体に撃ち込まれました。これが頭脳の役割をするんですよ。
「これで、完成っと。名前は、うーん。ゴーレム!分かりやすくていいよね」
液体ケースの中に、私にそっくりな裸の成人女性の心臓が鼓動を始めました。
え?私、ゴーレムって呼ばれていたんですか?それに、愛犬もイヌって呼んでるし。雑すぎます。
「明日、父に見せよう。褒めてくれるかな?ふふふ」
ピッとロックボタンが音を立てると、ケースの表面の強化ガラスが黒くなりました。
マスターが眠りについた頃、神経質そうな男が部屋に入ってきました。
誰でしょうか?
「ミラクルめ。娘の癖に、私の研究成果に偉そうに口を出しおって。学会で発表したホムンクルスの培養に使う王水の精製方法が間違ってるだと!ホムンクルスの復元研究に長年費やしている私に、皆の前で大恥をかかせおって!!」
神経質そうな男の目が淀み、マスターの部屋の中央のケースを見ました。
「ところで、ご講説を垂れたこのクソ娘に出来るならやってみろと言ったが、どこまで研究は進んでいるんだ?」
パンドラの箱の黒ガラスを解除すると、ふよふよ浮かぶフレッシュゴーレムの私を見て震えました。
「な、何だこれは?なぜ見知らぬ人間が液体の中に入っている!?ついに、娘は人体実験に手を染めたのか?」
開かれたままの資料を漁り、事実を正しく理解したようです。
「な・・・・フレッシュゴーレム。聞いた事もない概念だ」
天才では無いが秀才だからか、マスターが何を成し遂げた事を徐々に理解していきます。
知りたくもない事実を。
自分との間にある隔絶した差を。
「ホムンクルスが出来損ないだと!?私の復元研究は何だったんだ!いまだ辿り着けていないゴールの先のゴールに、僅か1日で到達したというのか」
嫉妬。恐怖。怒り。
「・・・化け物め」
最後にこう残し、負の感情に押し潰された男は、失踪しました。
太陽が昇り、マスターの届かぬ声が響きます。
「父ー!父ー! 何処にいるの?もお、せっかく父の研究してるホムンクルスは出来損ないって教えてあげようと思ったのにっ」
マスター、ごめんなさい。
知りませんでした。
私がお父様の失踪の原因だったんですか!?
でも、このフレッシュゴーレムと、イヌに何の関係があるのか分かりませんし?いつも説明不足ですよ、マスター
【次回予告】
レムの秘密3
ミラは無双する!
その幼女、最強。