50 確定ルーレット
「レム、ゴト機作るから手伝って」
「はいっマスター」
マスターに頼られて嬉しいです。
ゴト機は、賭博犯罪に関する知識のため構造はお見せすることが出来ませんので、ここからは沙耶様に視点担当をバトンタッチだそうです。
え?私?
まー、いいけど。
代わりました。沙耶です。
といっても頭の中は、レムさんを斬れなかった事でいっぱいだったりする。
こんなんでいいのかな?
色気無くてごめん。
どうやって斬ればいいのか行き詰まってる。誰かに頼りたいけど、ミラは沙耶ちゃんなら出来るって脊髄反射で言うだろうし。まさかレムさんに聞くわけにもいかないし、ここにはノノンしかいないし。はぁーっ。
「沙耶さん、どうしたんですか?ママが相談に乗りますよ」
ええー、随分若いお母さんだね?それにドジだし。
美咲さん助けて。
「今度、ラストスタンドに出る事になったんだけど、その練習で行き詰まってて」
「え?それってあと5日後、実質4日後のですか?すでに申込み期限が切れてたはずですが?」
ノノンの眼鏡がキラリンと光る。
「うん。それがね、学園長に7Fで会ったら何とかしてくれるって無理やり勧められてさ」
「はいいいいいいい?もう7Fに到達!? はー、ヤバいですね 一文字。ところで招待状はもう書かれましたか?」
うえ。そういえばそんなのもあったような。
「・・・あっ」
「時間が無いので、便箋用意してきますね。しばらくお待ちくださいっ」
るんるんと機嫌良さそうに、ノノンがお手紙セットを持ってきた。まさか、私の活躍を喜んでくれてるのだろうか?でもノノンだしなぁ。
「なんで、そんなに張り切ってるの?」
「それは完璧に案内して、斬鉄様のポイントを稼ぐチャンスですから。ママになるため頑張りますよぉ」
うええ。書くまで聞くんじゃなかったよー。
やる気が出ないー。
むんっと張り切るノノンにいつもとは逆にお尻を叩かれ、苦手なお手紙を書いてたら、すっかり悩みなんて消えてしまった。
ミラも作業の後でお手紙を書かされてるらしく、今日は一人早く就寝。
疲れたし、もういいや。
☆彡
いつものように早起きして鍛錬しよう。
ちょっとミラ!なんで脚に抱きついてるかな?離れて。
「レムさん、おはよう」
「おはようございます。沙耶様」
レムさんがいつ寝てるのかは知らないし、知りたくもない。闇は覗いてはいけない気がする。
いつもように朝の鍛錬をして、朝風呂に入り汗を流して、さっぱりする。この魔道具のお風呂は24時間湧きたてなので、もうミラ無しでは生きていけない体のような気がする。怖い。
眠そうに起きてきたミラと同じテーブルで一文字家と変わらない朝食を食べて、身支度をした。
いつもの一日の朝の光景だけど、今日は少し違った。
「今日は可愛いねミラ」
「ありがとう、沙耶ちゃん!これは沙耶ちゃんコーデだから間違いないよ」
はぁーっ。めちゃくちゃ可愛い。
フリフリのドレスを着たミラは、本当に妖精の国のお姫様みたい。私にはこういう可愛いのは似合わないから羨ましい。こんな風に生まれてたら、もっと女の子らしく育ったのかも。
「そういえば、なんでドレスを着たの?」
「うへへ。もうっ分かってるくせに」
いや、全然分からないんだけど。
ホントに。
あーっ、変な笑い方するからお姫様が裸足で逃げ出したよ!
絶対にこいつは偽物だ。助けに来た勇者なら魔物の偽装を疑うレベル。それにしても弱そうな魔物だな。スライムなのかな?
「それでは、朝のルーレットに行きますか」
「おーっ!」
ミラが小さな拳を突き上げた。んん!?昨日まで嫌々ついてきたのに?
「珍しく気合入ってるね?」
「うん。沙耶ちゃん、今日は大当たりを当てるんだ!」
ミラが言ったら本当に当てそうで怖い。
今日も当てるんだろな。よしっ、すぐに退散できるように先今日は先に引こう。
ギリギリの時間を見計らい、重い扉を開けてルーレット会場に入ると、全員の視線が突き刺さった。
ざわざわとしていた会場が、シーンとなり、ガヤガヤと響く。
恥ずかしいなぁ。
聞きたくもないけど、会話が耳に入ってくる。
「おいっ!なんか知らない姫様が入ってきたぞ」
「一文字のやつらだろ?黒髪の乙女、沙耶さんがいる」
「そうだなメイドのレムさんに、あの姫は誰?」
「おおっ分かった!! 昨日、1万点当てたチビだ! まさかA級プレートの獲得で呪いが解けたのかもしれない?」
「沙耶お姉さま凛々しいです」
「レムさんとお話してええええ」
これが、有名税ってやつか。辛い。
「くぉらっ! 一文字沙耶、昨日は逃げやがって」
「ごめん、鋼牙」
なんだ?この恥ずかしいマンの鋼牙に癒やしを感じる日が来るなんて。
「まぁ、いいけどよ」
「で、勝ったの?」
照れくさそうに指で鼻を擦る鋼牙。んーダサい。
「あったりめぇだ! おおっと、これで8,461点になってしまった。悪いね?」
「そう?私は10,334点。早く追いついてね」
よし、完封。
サイレンスのカウンタースペルが成功っ!
鋼牙のお口チャックだ。
そわそわしだした。
くそぅ、リカバリ早いな。
合図よ早く来て、そろそろ効果が切れる。
『それでは、入場を締め切ります!!!幸運をその手に!』
大きなアナウンスがあり、扉が締められた。いつもなら、会場の人達が一斉にルーレットを回し始めるんだけど、昨日の大記録のせいで私達の結果を待ってるらしい人が殆どだったりする。
ちなみに私は200点だった。
「沙耶ちゃん、すっごーい」
え?凄くない?もっと皆、驚こーよ。ぶっ壊れの点数のハズなんだけど、皆の関心は無い。喜んでくれるのはミラとレムさんだけ。あと本気で悔しがってくれる鋼牙に救われる。
いいよ、どーせ、かませ犬の沙耶ちゃんだから。
YOUさっさと引いちゃいなよ。
あれ?
「ミラ、その手袋は?」
「さすが、沙耶ちゃん!! これを使えば好きな所でルーレットを止められるんだ」
ザワリッ
ミラの投げ込んだ特大の爆弾により、盗み聞きしていた生徒達の空気が変わる。殺気だ。このままだと一気に臨界点を迎えるだろう。殺しても欲しいと思う人は多いと思う。対応を誤れば凄惨な争奪戦が始まる。
くっ、赤いコードを斬るか、青いコードを斬るべきか。
ミラ爆弾の爆発物処理の腕前が試されている。
だけど私は処理1級。
伊達に長くミラの友達はやっていないッ!
「ミラ、その魔道具は他の人にも使えるの?」
「絶対に使えないよ! あっ沙耶ちゃんだけは認識コード入れてるからね」
ううーん。これは解除成功なのか?
お願いだから爆弾岩の地雷原に巻き込まないで欲しい。不発弾に変わったような感覚。
心配をよそに、ミラがてくてくと歩きルーレットに触った。
発言を疑っている人も多いだろう、しかし私は知っている。
演出なんて不要だ。
・・だって確定してるのだから。
『10,000点!』
2回目の偉業を成し遂げた時、会場は昨日のように歓声があがるどころか、逆にシーンと静まり返った。
ルーレットは運ゲーでは無いという証明終了は、よほど衝撃的だったのだろう。
このままでは、石化の呪いが解けないので、金の針を打ち込む。カネの方の。
「どういう仕組みなのかな?」
「このルーレットはお粗末な疑似乱数だから、狙って押せば確実に当たるの!」
耳が痛い程の無音。
大勢いるのに2人の会話だけが響く。なんならエコーまで聞こえる。
これは、ここの学園生活に直結する重大情報なのだ。音を立てて聞き逃しに繋がれば刺されても文句は言えないだろう。
聞けよ!もっと詳しく聞けよ!沙耶様お願いですから、聞いてくれぇぇぇぇ!!みたいな必死な空気を感じる。
なんで私がっ?
・・・でも全員に恨まれるのも嫌だし。
流された。
「詳しく教えて欲しいな?」
「沙耶ちゃんならそのうち気付くと思うよ。それに、あの杖を持った人と眼鏡の人に、黒いローブの人も気付いてると思う」
ミラに指された人達へと視線が分散する。
傍観者きどりだった人達が、突然流れ弾に当たり吃驚してる。ふふふ、お可愛いこと。
よしっ良い子だよミラ。思わず撫でた。
「えへへ。沙耶ちゃん」
まぁ指名された方は、たまったものでは無いのだけど。味わうがいい、私の気持ちを。
「てめぇ、クランメンバーにも重大な事を黙ってやがったのか!」
「いや、話すと罰則になる恐れがあるし、なによりタイミングがシビアすぎて、練習しても当てれるのは、1/3くらいの確率だ」
醜い仲間割れを防いだのは、意外にもファーストだった。声が響く。
『その通りです。ガッカリですよ、私のミラ。ルールその3に該当する重大違反のため減点1,000点です! そして今まで気づかなかった無能な生徒にもガッカリしています。徐々に難易度を上げる予定が未だ1とは。学生諸君、精進しなさい』
罰則の大きさにザワリとどよめくが、それでも9,000点獲得なんだよね?ファーストさん、ミラに甘すぎない?
「1,000点もか!責めて悪かった」
「いや、いいよ。俺だって話せなくて今まで辛かった」
これで、ようやく一件落着となりそう。
ふーっと息を吐いた。
「うへへ」
「何? ミラ?」
ミラが期待したようなキラキラした瞳で見上げてきた。え?
「もうっ分かってるくせに。焦らしプレイ?」
いや、全然分からないんだけど。
くねくねと恥ずかしそうに身をよじられても困る。
ホントに。何なの?
なんか疲れたし。悪いけど今、相手をする気力は残ってない。
「さっさと、回収して行くよ」
私は、くるりとUターンして一足先に帰る事にした。しようと、したんだけど。
「むうう。なんで!」
「え?なんでミラ。怒ってるの?」
なんと次の瞬間、ミラが会場全員の予想を超える奇行に出た。
天才は常識を超えていく。
「このポンコツ! 沙耶ちゃんがお姫様だっこしてくれないなら、何の意味も無いっ。あー、期待して損した!!」
げしっ!とルーレット台を蹴ってそのまま半泣きで逃げるように退場。
もちろん、手つかずの『9,000P』はくるくると頭上を回っている。
なんだと・・・
皆の理解力を超えるまま、喉から手が出る程欲しくてたまらない受取人不在の9,000Pの当たり券は、くるくると頭上でいつまでも回り続けた。
「ちょっとミラ待ちなさい」
「嫌です。沙耶ちゃんが意地悪するもん」
遠ざかっていく2人の声は、新たな伝説の1日となった。
【次回予告】
レムの秘密
あーあれだろ。そーそれです。