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49 エセ錬金術師


「ノノン、またゴロゴロしてっ!」

「そ、そんなぁ。沙耶さん。ママはきちんと仕事しました」


 沙耶さんがソファーで寝そべるノノンさんに叱咤激励します。


「ママでは無いでしょ!それ、いつまで引っ張るの?」

「だって、斬鉄様。格好良かったし、私なんかが恋を叶えるにはこれしか思いつかなくて」

「それにしても、だらだらしてるのは良くないと思うな」

「あの・・・キチンとしたらお父様との仲を認めてくれますか?」


 頬に指を当てて、うーんと考える沙耶様。ノノンさんが何かを企んでるらしく、視線がいつになく真剣ですが、考えが浅いので沙耶様には通じなかったようです。


「ノノン、貴女。挨拶に来た日はしっかりしてたよね?」

「ひっう!?」


 沙耶様のオーラが増しました。風のように動きノノンさんを拘束っ!


「お仕置きの時間です。ミラやりなさい」

「分かった!沙耶ちゃん」


 マスターが筆を持ってにじり寄ります。ノノンさんの顔が歪みます。


「ひぃぃひっひっひっ〜!! 沙耶さんっママがママが悪かッたから〜っ!!」


 こしょこしょこしょ。

 マスターの絵筆が、芸術を描くようにノノンさんの足の裏をなぞります。

 絵心もあるマスターが格好良いです。 


「はんしぇい しましたーー」


 耳を真っ赤にしてぐったりしたノノンさんが、再びソファーにタッチダウン。

 沙耶様は、ぱんぱんと手を叩くとニッと笑い。


「悪は滅びました。さあてミラ。ドレスを選ぼっか」

「うんっ沙耶ちゃん!」


 こ、これは。

 今後の勉強のために是非同席しなくては。

 ウキウキして後を追いかけようとした私でしたが、思わぬ声に阻まれます。


「あれ?レムさん。手首、怪我してませんか!」


 え?怪我?

 ノノンさんに言われて見ると、手首が半分切れていました。

 振ってみると変な角度にぷらんぷらんと揺れます。

 これは不味い。

 すぐに2人の後を追いかけたいのですが、沙耶様に気づかれるわけにはいきません。悲鳴をあげそうになったノノンさんの口を折れていない右手で塞ぎます。

 どうやら、特殊な身体の私は仮想決闘場で起きた事を現実にまで引き継いでしまうようです。マスターに後で相談しないと。

 心配そうな眼鏡のノノンさん。


「大丈夫ですよ。高級ポーションがありますから」

「早く使ってくださいね」


 怒られました。

 良い人ですね。そういえば怪我なんてしたのは久しぶりです。痛みがないから指摘されるまで気づきませんでした。医療キットの置かれた部屋に移動して、棚にあった高級ポーションをかけますが、やはり傷口は反応しません。マスターの皮膚再生スプレーを噴射しますが、これも駄目。

 何かないでしょうか?これが良さそうです。

 ダクトテープを巻き、新しい手袋で隠して誤魔化す事にしましょう。

 うんっバッチリ!


「ノノンさん、治りました。」

「良かったですうう」


 リビングに戻り、手をぶんぶん振って治った事をアピールすると、ほっとされました。

 この身体も、もう限界でしょうか。

 そんなどうでもいい事よりもマスターのファッションショーに行かなくては。少し出遅れてしまいました。


「沙耶ちゃん、お姫さまみたいかな?」

「お姫さま?ならこっちの方がいいかも」

「さすがっ沙耶ちゃん」

「マスター、お綺麗です」


 ふあああ。幸せでした。

 ようやく明日の一着が決まりました。

 沙耶様の趣味全開なふりふりドレスを着たファンシーミラちゃんの誕生です。


「ありがとう!沙耶ちゃん」

「いいよ」


 元の服装に戻り、興奮したマスターに頭をぐりぐり押し付けられてます。いいなぁ・・


「おっそうだった!作らないといけないものが、レムレム早く来て」

「はいっマスター」


 頑張っちゃいます。

 開発部屋に移動。3D現出機があり、マスターの脳波をスキャンすると箱から次々とパーツが出てきます。


「積層印刷や、切削印刷に比べて早くなりましたね。マスター」

「うん。あれは、3Dといいながらも、印刷という2Dの概念だったから。でも素材硬度の関係で、3D現出機も組立工程が残るから、これもまだ発展途上の技術かも」

「でも組立楽しいです」

「うん。頑張ってレム そこ違うよ」

「申し訳ありませんマスター。 そうでした!報告が。沙耶様に斬られた傷口ですが、治りませんでした」

「そっか。仮想決闘場は古い設備だから仕方無いよ。そろそろお別れかな」

「ですね、よく頑張ってくれました」


 しみじみと、パーツを組み上げる自分の手元を眺めます。

 そうこうしている内に形が出来ました。

 最後に、頭脳となる透明のビー玉のようなコアを入れると完成です。


「沙耶ちゃん喜んでくれるかな?」

「ええ、きっと」


 4次元収納に入れて運搬すると、リビングでくつろいでいた2人が興味を示して聞いてきました。


「で、なに作ったの?」

「何かを作ったんですか?良いものの予感がしますううう」


 好奇心を刺激された2人の前で黙々と作業開始っ。据え付け場所を選んで、組み上げたジュースサーバーを取り出し、バイオパイプを延長して、水道と食料庫に接続すると完了。


「ジュースサーバーだよ沙耶ちゃん」

「あれか!」

「なんだか美味しそうな響きですうううう。じゅるりっ何ですか?それは?」


 食い気味のノノンさんに、沙耶様は呆れています。

 あれ?ニヤリと笑われました。


「んんっ、ところでノノンくん。無限オレンジなるものを知っているかね?」

「え?何ですか沙耶さん。その変な喋り方は?知りませんけど」


 学園長の真似でしょうか?


「味わいたければ、コップを用意したまえ」

「「はいっ」」


 仲良くマスターとノノンさんが、コップを2個ずつ持ってきました。

 あぁっ!不覚です。メイドの仕事を取られました。

 渡されたコップをセットし、ボタンを押すと、食料庫にあるオレンジが透明なバイオパイプをコロコロと転がってきて、ジュースサーバーで生絞りされます。

 ジャーッ!!と透明なグラスに、オレンジの液体が注がれて、フレッシュな香りが部屋に広がりました。


「んあああ、甘い爽やかな匂い。変な置物から、新鮮な果実ジュースが出てきました!・・美味しそう」

「遠慮は要らない。ぐいっといきたまえ」


 そう言って3人にオレンジを注いだグラスが配られました。


「いいんですか沙耶さん。お金は払えませんよ。ううううう・・美味いっ!!こんな美味しい飲み物があるなんて。はぁ、なんだか全部飲んじゃうのが勿体ないですうう」

「沙耶ちゃん美味しいっ」


 蕩ける顔のノノンさんに、ちっちちと指を振る沙耶様。


「ノノンくん、遠慮は要らない。なにせ無限に出てくるのだから」

「む、無限!? なんて素敵なんでしょう。だから無限。この魔道具は、ロストアイテム。いや、ゴッドアイテムです!無限オレンジ最高です。美味しいーっ。まるで夢のよう」


「ふふふ、他にもコーラや葡萄ジュースと?」


 真似っ子に飽きたのか口調が戻った沙耶様がちらりとマスターを見ると、マスターが補足説明を入れました。


「メロンジュース、ジンジャーエール、温かいコーンポタージュとか何でもあるよ。材料がないのは合成着色料と人工香料になるけど・・」

「素晴らしいですううう!合成がなんなのかは分かりませんが、沙耶ハウスは神さまの家みたい。この家に来て良かったああ」


 涙を流して感動するノノンに、沙耶様は恥ずかしそう。

 ここでじっとしていたマスターに動きが。


「沙耶ちゃんのは、ミラが入れる!」

「ありがとうミラ」


 とっても楽しいです。

 この後、適応性だけは高いノノンさんが使い方を覚えて、一人ジュースサーバを占拠したのですが、晩ごはんは食べれるのでしょうか?

 私達は、ノノンさんを残してリビングに。


 3人でリビングでくつろいでると、キッチンから雄叫びが上がりノノンさんが興奮して現れました。


「沙耶さん!ママは発見してしまいました。これを飲んでください」


 ずいっと鼻先に突きつけられたのはコーラ?


「え?コーラはもう良いんだけど。。あれ?なにか柑橘系の匂いが」

「その通りです。これは、レモンコーラです」


「レモンコーラ? あっ・・美味しい」

「沙耶ちゃん沙耶ちゃん。ミラにも頂戴」

「ん?いいよ」

「ありがとう、沙耶ちゃん」


 さり気なく間接キッスをゲットするマスター。なんて知的なんでしょうか。

 けぷっ。

 飲みきれないようですねマスター。それは私が処分しておきます。

 自然に回収成功っ!!

 やりました。手が震えます。


「ノノン、こんなメニューあった?」

「ふっ 沙耶さん。ママは錬金術師なのです。特別に教えてあげましょう。ついてきなさい」


 どや顔のノノンさんの後をついていくと実演してくれるようです。

 コーラを注いで、レモンジュースをちょん押し。

 合成成功っ!!

 レモンコーラ。


「へえ、こうやって作ったんだ。学園長にも教えてあげようかな。どうやって気付いたの?」

「が、我慢できなくて、同時に押してしまいました」


 どうやら食欲の勝利らしいです。


「まぁ、いいけど」

「美味しいものに美味しいものは間違いないんですうう。そうだ!もっと色々混ぜれば神の飲み物になるのでは!?ふひひひ」


 ピピピピピピ!

 こうして興奮したマッド錬金術師のノノンさんの手により生み出されたのは、泥水のような色の液体。

 合成失敗。ジュースだった何か


「あーあ、失敗してない?」

「そ、そんな事は。見た目は悪いですけど味は。・・うっ!! 澄み切った泥水です」


 辛そうに澄み切った泥水を見つめるノノンさん。


「エセ錬金術師さん、頑張ってね」

「ううう、ママは諦めませんっ」


 予想どおりこの後、お腹いっぱいになってしまい夕食を食べられなかったノノンさんでしたが、その顔は幸せそうでした。



【次回予告】


 確定した未来


 次回は、天災ミラのゴト機が炸裂する。

 ルーレットは偶然を楽しむものでは無く、選んで止めるもの。天才は未来を選べるが、しかし全てを選べる訳ではない。


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