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48 本能のままに動け!


 マスターに急かされて指示どおりクランルームのファンシーな壁紙の一部を剥がすとコネクタが隠されていたので、ジャックを差し込みます。え?ソファーの下もですか。あった!こうして、いくつかの配線をトランクケース型パソコンに繋いだマスター。


「これは、いったい何をされてるんですか?」

「仮想決闘場をハッキングして、沙耶ちゃんの様子を見守るんだ」


 キラキラした瞳で答えてくれました。


「え?この前の魔道具で部屋に侵入すれば良いのでは?」

「もう、レムは分かってないなあ。さっき、一人っきりにするって約束したの」


 そうでした!約束を守るマスターはとても素敵です。


「さすがですマスター」

「しっかりしてよねレム。うへへ、ファンシー沙耶ちゃんだ」


 マスターは、とても幸せそう。

 おっと、よだれが出てます。

 マスターの口元を拭きながら映し出された映像を見ると、沙耶様がベッドに仰向けになりクマの縫いぐるみを両手で天井へ掲げていました。


「くま吉〜。上手くいかないよう」


 くま吉は何も答えません。だって、ただの縫いぐるみなのですから。

 沙耶様、足をばたばたさせても、そいつは答えてくれませんよ。


「ふあああ。可愛い沙耶ちゃんだ」

「良かったですね、マスター」


 沙耶様は、指でぐりぐりとくま吉?のほっぺたを押されていました。


「もう、ちゃんと慰めてよー」


 マスターの華麗なる視点切り替え操作で、沙耶様の後ろへと映像が変わりました。細い指で、むにっと押されたくま吉の表情がどことなく不満そうです。

 

「はぁー。フルプレート斬れなかったよ、お兄ちゃん。ミラには気を使わせるし、レムさんには迷惑かけるし」


 目まぐるしく、ベストアングルを探して視点が切り替わります。今度は上から凛々しいお顔にズームイン。

 ぎゅっとくま吉を抱き締めて、ため息をつかれました。迷惑なんて、これっぽっちも掛かっていませんよ。


「沙耶ちゃんが悩んでる。でもミラはちっぱいだから、お胸は貸せない」


 そう言って、マスターが私のたゆんと揺れる胸を見てきました。

 分かりましたマスター。私の胸で!

 この豊かな胸で!

 ん?私の胸でいったい何をどうしたら良いのでしょう。

 ・・・分かりません。

 分かりませんよ、マスタァァ。


 マニュアル、そうだマニュアル!

 やった。慰め方マニュアルを発見。

 これです。


「マスター、悩んでるときは、何か別の事に誘って気を紛らわすのが良いかもしれません」

「別の事? 別の事って何 レム?」


 ええと、今調べますから。少し待ってください。え?・・・肝心な事が載ってません!なんて役に立たないマニュアルなんですか。

 焦ると何だか仕事の事が気になって来ました。マスターのスケジュールを思い出さないと。沙耶様とは全く関係ないのにいい。


 ジュースサーバの製造。

 ルーレットのゴト機の製造。

 可愛いドレスの選定。


 これです!

 なんと関係してました。

《翌朝のルーレットで1つしかない大当たりを確実に止めて、凛々しい沙耶様に、可愛いドレスで会場外までお姫さまのようにエスコートされようプロジェクト》の最難関課題。【可愛いドレスの選定】に、沙耶様のご協力が不可欠でした。


「マスター、沙耶様にドレスを選んで貰うのはどうでしょう?」

「レム冴えてる! ありがとーう」


 うわわ。マスターに抱きつかれました。頭をぐりぐりと押し付けられてます。

 興奮して、はぁはぁしちゃいそうです。

 私、グッジョブです。

 そして沙耶様ありがとうございます。


 しばらく至福の時間を過ごしていると、沙耶様が立ち直ったのか、部屋から出てきました。

 部屋のハッキング痕跡を消して、お出迎えします。


「あー、ごめんね。少し元気でた。悪いんですが、レムさん。少し稽古に付き合ってくれませんか?」

「いいえ、沙耶様。明日にしましょう。闇雲にやってスランプに落ちてはいけないので」


 辛いけど打ち合わせどおり、お断りすると、沙耶様の顔が苦そうになる。


「そっか。そうですよね」

「沙耶ちゃん沙耶ちゃん。ドレス選んで」


 ナイスタイミングです、マスター。

 沙耶様の顔が、きょとんとして仕方ないなあって顔で微笑まれました。

 まるで悩みが消えたかのよう。


「可愛いのを、選んであげるんだからっ」

「ありがとうっ沙耶ちゃん!」


 沙耶ハウスへと、帰還しましょう!

 さり気なくマスターが右手で沙耶様を捕まえたので、空いた左手を狙ってみます。

 良かった。

 マスターと手を繋げました。


 仲良く3人で手を繋いで歩きながらマスターを見ていていると、視線を感じました。ふっと視線を向けると、沙耶様です。

 沙耶様が悪戯っぽく笑い、私を見てきました。何でしょう。

 ぐいーっとマスターを持ち上げられましたので、真似して私もマスターを持ち上げます。

 ふわりと離陸されたマスター。

 マスターの顔がびっくりして、だんだんとキラキラと輝きました。

 何だかブランコみたいです。


「うおぅ。楽しーーっ」


 持ち上げられたまま、ぶらんぶらんと揺れるマスターが格好良い。


「ふふふ、どう?」

「沙耶ちゃん ありがとうっ」


 でも沙耶様には重かったのか、少し歩くとあえなく着地のようです。

 マスターの笑顔がしゅんと消火し、ぷくっと膨れます。


「えー、沙耶ちゃん。もっともっと」

「はいはい、また今度ね」


 大人の今度はお断りの意味なんですが


「分かった、沙耶ちゃん」


 こうキラキラと期待した瞳で見られたら、次もあるかもしれません。


 恥ずかしそうに沙耶様が笑って誤魔化されました。マスターと手が繋ぎたいので、密かにマスターを応援します。

 頑張ってください、マスター。


「楽しーーっ」


 再びぷらぷら揺れるマスター。

 良かったですね。


「あっ・・」


 前から知らない人達が、どうしましょう。

 3人が狭い廊下で横一列になっているため、すれ違えないかも。

 手を離したくないので、蹴り倒しましょうか?んんー?


「え?」


 笑顔で、端に避けてくれました。

 沙耶様と顔を見合わせます。


「避けてくれるみたいですね?」

「ですね?」


 ニヤけた顔の少年達とすれ違いました。


「ありがとうございます」

「いえいえ、お気になさらず」


 少しぶつかってしまいましたが、なぜか嬉しそうでした。

 何か良い事でもあったのでしょうか。


 ファンシーな球状の家が見えてくると、一日の冒険も終わり。沙耶ハウスが暖かく出迎えてくれます。


「「ただいまー」」


「お帰りなのですぅ」


 ノノンさんが、ソファーで寝ていたのかソファーからひょっこり顔だけを出してお出迎えしてくれました。



【次回予告】


 エセ錬金術

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