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20 入学試験


 沙耶達を出迎えてくれたのは、筋肉質の巨漢だった。


「待っておったぞ。ようこそ、アード学園へ。学園長のソードリアンだ。さて、ここでは仮想決闘場の戦力評価値というポイントが全てになる。そのポイント増減は、壁に書かれている通りだ」


 1 毎日ルーレットで付与

 2 勝者が敗者から奪える

 3 不戦敗などの減点が存在

 4 管理者は売買可能


「ちなみに学園では、卒業証書である各種の卒業証書プレートと交換出来るので、最強の一文字さんにはぜひA以上を持ち帰って貰いたい。期待している」


 S 1000000

 A 200000

 B 50000

 C 10000


 ニッコリと営業スマイルをする学園長。


 武力以外の事は、何も考えていない脳筋のアード学園には、驚くような特徴が、一つある。

 なんと、お金が一切かからない。入学金はおろか授業料も無料。さらに、食費に衣料品や宿泊費まで無料である。


 なんと、素晴らしい。


 では、そのお金は誰が払っているのか?

 

 大きな財源は、卒業間近にプレートを買うために、実力は無いが世間体のある生徒が金貨を積んで、学園からポイントを購入するのである。貴族がお得意様だ。

 ちなみに学園長が、沙耶に期待しているのは、ポイント購入による販売益だ。Aで圧力を掛けて、B(5000万相当)を購入して欲しいと思っている。


「さて、一文字沙耶さん。入学おめでとう、学生証のプレートを渡そう」

「はい、謹んでお受けします!」


 沙耶が受け取ったプレートには、500と書かれていた。ちなみに、ルーレットの獲得ポイントは、平均すると10に満たない。幸運に恵まれない限りは体感で5ぐらいだ。


「まずは、今日の宿が必要だろう。実際に見た後でも変更は可能なので気兼ねなく選んで欲しい。無料で提供しているが、ポイントを払えば、さらなるランクアップも可能だが、どうするかね?」


 宿泊ポイント(一泊)


 高級ホテル 30

 中級宿   10

 下宿    3

 馬小屋   0


 無料とは言ったが、馬小屋は臭いし、下宿は虫が出るため、慣れてきた生徒は、少し離れた城下町に泊まる事が多い。


「あの・・・、自由に使える空き地とかは無いんでしょうか?」

「空き地だと!?」


 学園長の営業スマイルが崩れて変な顔をした。

(どういう事だ?下宿の酷さを兄から聞かされていたのか。それにしても、かの一文字家なら中級宿ぐらい払う余裕は、あるはずなのだが?)


「一応、調べてみるか。ん!あった。1ポイントとなっておるが」

「では、それでお願いします」


 学園長は、じっと健気に笑う沙耶を見つめて考える。

(女だから、劣る武を、自らを律して戦う気なのか?一人娘なら、さぞ甘やかされたのだろうと侮っていたが、この子は、仕送りを断り、そういう戦い方をするのだな。なんと、出来た子よ。)

 じわっと涙が溢れそうになる。


 もちろん、沙耶にそのような思惑は無い。高級ホテルよりも、贅沢なドームハウスに住みたいだけ。

 完全な勘違いである。


「では、入学説明といこうか、知っているかもしれないが、仮想決闘場はこの学園の敷地内なら、どこでも使用可能である。あと、敷地から長時間離れると減点対象となり、どんどんポイントが減っていくので、注意して欲しい」

「はいっ、兄から聞いております」


「ふふっ、そうかね。だが説明するのは規則なので続けるが、この魔道具は、現実で本人に実行可能な事は全て再現出来る。肉体へのダメージはないので自由なフィールドで存分に殺し合ってくれ給え。覚悟は良いかな?」

「ええ、出来ています」


 気持ちいい返事をする沙耶に、目を細める学園長。


「さて、さっそくチュートリアルといこうか。負けて当たり前、むしろ今日は死ぬことに慣れるという意味合いが強い。覚悟が出来たら受けなさい。 決闘を申し込む」


 学園長の雰囲気が変わった!

 人を殺すような目に変わる。

 試験開始。


「その決闘をお受けします」


 沙耶は、微笑む。

 チュートリアルの会場は決まっている。学園の決闘場。20メートルの円のコロシアム。

 負けても入学出来るが、善戦すれば、初ポイントが貰える最初の腕試し。


 沙耶は、いつの間にか硬められた砂地の円の中央に一人立っていた。

 観客席には、ミラとレムだけ。


 仮想の殺し合いが始まった。


「沙耶ちゃん、頑張れーー!」

「沙耶様、ご武運を」


『ラウンド1 ファイト!』


「一文字沙耶よ、名門 一文字家の実力を見せて見よ。まずは、小手調べだ」


 学園長の声だけが響くと入場門から、ブラックウルフが三匹放たれた。

 ガウガウと、吠えながら襲ってくる魔犬をただの一刀で斬り捨てる。

 キャインっと小さく悲鳴をあげて三匹が動かなくなった。


 べったりと付いた血糊を懐紙で拭き取り、それを綺麗に仕舞う。

 ミラは、キラキラした瞳で、その勇姿を目に焼き付ける。



「お見事! そう来なくてはな。さて、ここからが本番だ。果たしてお前は、人を斬れるかな?」


『ラウンド2 ファイト!』


 次に放たれたのは、3人の罪人だった。

 覚悟が問われている。

 実際、あまりのリアルさに、ここで脱落する学生も多いのだ。


「女だあ、ゲヒヒヒ」

「コイツを殺せば釈放される」

「犯してやる」


 粗末な錆びたナイフ、血糊がついた石、尖った金属を持った3人が殺意を持って、じわじわと近付いていく。

 観客席のミラは、ぎゅっとレムの裾を掴んだ。優しく撫でられる。


「一文字に、その言葉どおり、迷いはありません」


 一人目をザンッと斬り捨てる。返す刀で、二人目を!


「「うっぎゃあ」」


 順調だ。

 しかしながら、この試練の恐ろしさは、3人目にこそある。

 試されているのは、覚悟。


「ひいえええ、見逃してくれえ。俺は借金で奴隷落ちしただけなんだああ」


 尖った金属を捨てて、3人目が涙を流しながら、命乞いをする。


「では、降参しなさい!」

「降参したら、殺されるんだよおお、頼む。頼むから引き分けにしてくれえ。痛いのは嫌なんだ!!」


 この敵のポイントは絶対に降伏しない所にある。タイムアップまで、良心を攻撃しながら粘るのだ。

 こうなった場合、ミラには絶対に殺せない相手だ。


「分かりました」


 沙耶が諦めたようにため息を付くと、泣きわめいていた男の顔が安らかになった。



 キラリと光る銀光


 それは、一文字の奥義が一つ

『燕返し』


 借金奴隷などでは無く、実は一番凄惨な事件を起こしていた3人目の卑劣な犯罪者は、斬られた事にも気付けず、息を引き取った。



「くはは。やりおる! 認めよう、一文字沙耶。次で、最後だ。見せてくれ。その信念を」


『ファイナルラウンド!』


 最後に問われてているのは、逃げ出さない覚悟。フロストエレファントという、北に生息するマンモスの魔獣。体力は最大に設定されているので殺せない。

 完全な負けイベントで、問われているのは、2点。1、観客席にいる身内を護るように離れた位置で死ねるか。2、体験した死の恐怖から立ち直れるか。


 ブモモモモーーーー


 激しい嵐が吹き荒れ、ズウン!という地響きが足元を揺らす。恐怖に打ち勝て。

 刀を地面に突き刺して、揺れに耐えた沙耶の睫毛が凍りつく。

 綺麗な手が、冷えた柄巻に、ぱりぱりと貼り付く。

 


「沙耶ちゃーん、負けるなあ!」



 絶望的な相手を前に、親友の声を聞き、ふっと笑う。沙耶は、思い直した。


(そうだ、何を弱気になってるんだ)


 地面に、突き刺した刀を引き抜くと、それを野球のバッター?のように構えた。


 刀では、有り得ない構え。

 でも、これでいい。

 この象は、常識を超えた敵かもしれないけど、私には常識を超えた親友がいる。


 ふんっ

 力を込めてフルスイング!


 親友のお陰で開花した

『鳳凰ノ暴風』


 ゴウウウと刀に纏った暴風を、氷の嵐に次々と、ぶつけて相殺する。

 バンバンと拮抗する嵐!

 視界がホワイトアウトする中で、沙耶は笑っていた。


『タイムアップ ドロー!!』



 こうして、なんと沙耶は、負けイベントを回避して、タイムアップまで粘り切った!!!!


 学園長の口角が攻撃的に吊り上がる。

 目はランランと光っている。


「一文字沙耶、これ程とは・・」



 元の場所に強制的に戻され、沙耶の偉業を前に、静かな興奮に包まれていた。


「沙耶ちゃん、格好良かった!」

「沙耶様、お見事です」

「ありがとう、ミラの応援のお陰だよ。レムさんも、ありがとう」


 学園長は興奮で震えていた。最大限の称賛を贈る。


「素晴らしい!実に、素晴らしい!さすがは一文字家のエース! 一文字沙耶、その名をしかと覚えたぞ。A級に本当に手が届くかもしれん」

「ありがとうございます」


 照れる沙耶。

 一件落着。

 ここで、大円団だと思ったのだが、天災は動く。


 天才は、人の力では止められないから、天災というのだろう。

 興奮した様子で沙耶の裾を引っ張りながら、爆弾を投下。


「沙耶ちゃん沙耶ちゃん、ミラも あれ やりたい!」


 小さな普通の少女ミラが、ついにアップを始めた。


「「え?」」



【次回予告】


 ミラの爆弾


『ご期待ください』

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