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14 旅立ち


 沙耶が通う事に決めたのは、アルティメット・ソード学園。通称、アード学園。


「沙耶ちゃん、アード学園ってなあに?」


「ええとね・・・」


 ちらりと、入学案内を見る沙耶


(省略可)

〈アード学園は、学びの場では無く、その目的は同年代の子供達による武芸者達の代理戦争の場である。

 入学予定のお子様について心配されるかもしれないが安心して欲しい。ここには、初代オーバテクノの遺産である『仮想決闘場(バーチャル ステージ)』という魔道具があるからだ。この魔道具を介して決闘すれば、フィールドの設定やランキング表示に加えて、肉体の安全性が保証されている。

 ただし、この魔道具は、過去に国の代理戦争に実際に使われた時代もあったが、大人が使うとリアルファイトに発展して戦火が拡大した悲しい歴史があるため、大人の使用は厳禁となっている事を付け加えておく。

 子供達よ、己の流派の威信を賭けて戦い、その手に勝利の栄光を掴め!

 アード学園は勇気ある君の挑戦を待っている。〉



「・・・試合会場かな。ミラには特別に私のリングサイドのチケットをあげる」


「わーい、ありがとう沙耶ちゃん。応援する!」


 飛び跳ねて喜ぶミラを、優しい目で見つめる。



 翌朝、冒険者ギルドへ、アード学園までの道案内人を募集する依頼書を出してきた。そして出発までの数日間は、平和でのんびりとした日々を過ごす事となった。旅の荷物を揃えるため、仲良くショッピングに出かける。大きな物は向こうについてから、揃えたほうがいいだろうか。

 なぜ案内の依頼が出されたかというと、「ミラちゃん、じいちゃんと一緒に旅行しような」とついてくる気が満々の身内の暴走を嫌った沙耶がこれをキツく断り、「世間知らずの3人では危ない」という反論に、七転八倒した末にこういう形で落ち着いたのだ。



「この家とも、しばらくお別れね」


 整然と荷物を詰め込んだトランクケースを一つ持ち、自分のドームハウスを見つめて清々しい顔の沙耶。背中には大太刀を背負う。


「ミラちゃん、じいちゃんはお手紙欲しいなあ」 

「うーん」


 じゃっかん雑音が煩いものの、それも今日までだ。

 旅立ちの日が訪れた。

 天気は快晴。爽やかな風が吹く。ガラガラという馬車の蹄と車輪の音とともに、ギルドから道先案内人が迎えに来た。


「おはようございます。依頼を受けたD級冒険者のノノンです。この度はご依頼ありがとうございます。おっととと。てへっ、よろしくお願いします」


 いきなり石畳でつまづきそうになった鈍臭そうなメガネの女の子が現れた。年は同い年ぐらいであろう。

 なぜこんな微妙な子がやってきたかというと鉄斎に原因があった。「ミラちゃんに悪い虫がついたら、いかん。同年代くらいの長期契約が可能な女の子にせよ」という孫馬鹿の何の考えもなしの条件を追加。これにより、ギルドにぽっつんと残っていた使えない女の子に白羽の矢が刺さる。トラブルメイカーの少女ノノンがまさかの大抜擢っ!おめでとー。


「沙耶です。道中、よろしくお願いします」

「ミラだよー」

「メイドのレムです」


「皆様、荷物をこちらへ載せてください」


 案内された荷台を見ると、椅子には同じ女性の気配りからか、ふかふかのクッションが置かれていた。

 さっそく荷物を載せようとした沙耶だったが、あることに気付く。


「あれ?ミラ、荷物は?レムさんも持ってないなんて珍しい」

「忘れてたー。取ってこないと」


 てててと、走りかけたミラだったがレムに何かを言われてUターン。


「そうだった。沙耶ちゃん。没収したのを返して」


 言われるままにごそごそとポケットを漁ると、見覚えのない小さな物が入っていた。なんだっけ?


「ん?これの事かな」

「ありがとー。すぐ取ってくるから、待っててね」


 てくてくと走るミラのポイントを稼ごうと、いや手伝おうと鉄斎が後ろを追いかける。鉄斎は忘れていた。子供は、大人の真似をしてあっという間に大きくなるという事を。


 教えなくても、親の背中から子供は自然と学ぶ。

 では、その大人が、常識知らずだったら、どうなるか?


 ずばり、こうなる。


 3 2 1 ・・・



 ドームハウスに、とてとてと近づいたミラは、外壁に触ったかと思うと

 ひょい

 と巨大な重量感溢れる一軒家を、片手で持ち上げた。

 パラパラと落ちる小石と砂埃。

 天災少女は学んでいた『家は持ち運べる』と。


「ひぃぃぃぃぃぃx」


 これには、たまらず鉄斎も悲鳴を上げて腰を抜かす。

 ひょいっと軽々しく超えるのは、人種族の上限。

 上位魔神にすら怯まなかった最強の武人が度肝を抜かれ、ペタンとケツに土をつけたのは仕方ない。


「じいちゃん、顔色悪いけど大丈夫?」


 きょとんと、ミラが心配そうに聞いてきた。

 小さな少女の片手には、家!!!

 ・・・なにか悪い夢でも見ているのだろうか。


「大丈夫じゃ。ミラちゃんは凄いのう。さて、運ぼうかの」

「うんっ!」


 ジジイは考える事をやめた。

 ミラちゃんは天使である、それでいいではないかと。



「「鉄斎様、どうかなさいましたか!!」」


 ただならぬ異変を感じ取り、少し遅れてドタドタと駆けつける門弟達。襲撃かと構えた彼らは想像を絶するものを見る。


「「ひょえええええ!!!!!」」


 家が家が、イエーーーー!!!圧倒的な強者である一軒屋という迫力を前に、次々と討ち取られる門下生達。ペタン、ペタン、ペタンとまた一人尻もちをつく。


 その頃、門の前に残っていた沙耶と見送りの者達は、表情を固くする。

 悲鳴と大きな影がどんどんと近づいてきたからだ。

 沙耶や斬鉄を始めとした勘が良い連中は分かっている、またミラが何かをやったのだと。何をやらかしたのかまでは分らないが、答えがじわじわと近づいてきているのは明白だ。知りたくもないが、答え合わせはもうすぐ。


 一方、何も前情報の無いノノンは、震えていた。

 最強と名高い一文字家から、絶叫が聴こえる。緊急事態だ!!上級悪魔の襲撃だろうか?逃げてしまいたいが、一文字残鉄様の近くが、この世で一番安全なのはこの街の住人なら常識だ。迫る恐怖に何も出来ずにガクガク震えていた。

「残鉄様、お守りください」

 メガネの少女は、指を組んで祈る。


 大きな影が、やってきた。

 ずんずんと近づいて来たのは、山。いや、家か。随分とファンシーな家だ。

 持ち上げるのは、少女に擬態した魔王!!!


 助けを求めるべく最強の男、斬鉄にしがみつく少女ノノン。

 頼れる斬鉄は、渋い声でこう言った。


「ほぅ・・・そう来たか」


 さすがは、残鉄様。魔王を前にしてこの余裕!ノノンは尊敬と憧れを強くして抱きつく。抱いて、私を抱いてと!屈服するメス。


「ミラ、何をやってるのかな?」

「お待たせ、沙耶ちゃん。持ってきたーー!」


 もちろんミラは力持ちではない。

 忘れそうになるが、どこにでもいるような普通の非力な少女だ。 

 それに、一箇所に大きな力を込めたら家は壊れてしまう。

 トリックは、爆砕のゼオン戦の前に没収された重力力場発生装置にある。この魔道具によりドームハウスは、天空の城ラピュタのようにふよふよと浮かんでいた。


「重力力場発生装置だよ?」


 先程、渡した何かのスイッチを見せてきたミラ。

 沙耶の肩から力が抜ける。

 もっと先に説明してよおおおとは思うのだが、一文字以上に常識が違うため、会話が成り立たない。

 一日かけて、完璧にパッキングされたトランクケースを見つめる。

 これも持っていきたい、あれも持っていきたいと、ワクワクしながら厳選されたアイテム達。ごめん、昨日の私は間違っていた。仲間はずれは駄目。全部、持っていこう。


「ミラ、旅行楽しみだね!」

「うんっ」


 オレンジの髪の親友が笑う。



【次回予告】


 新キャラは暴走する!

 男ヤモメの斬鉄に訪れる春。

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