頼られ過ぎる探偵~探偵は隠しきれない~ジェミニ編3~
## 頼られ過ぎる探偵
### 第3話:探偵は隠しきれない
「……ほう。この床下に、何かあると?」
犬養刑事の目は、獲物を狙う鷹そのものだった。
弥太郎は、心臓の鼓動が耳元で鳴っているのを感じた。ここで「幽霊がそこだって言ってます」と言えば、一瞬で捜査の攪乱で連行されるだろう。
「い、いえ。探偵の勘、と言いますか。古い家屋で何かを隠すなら、湿気の少ない台所の床下が定番かなと……あ、あはは」
「ふん。その『勘』とやらで、先日のひき逃げ事件の凶器の場所も警察にメールしたのか?」
(……バレてる! 完全に個人特定されてる!)
弥太郎は冷や汗で眼鏡がずり落ちそうになるのを必死に堪えた。
そんな生身の緊張感などお構いなしに、背後では佐藤(霊)が騒いでいる。
「弥太郎さん! 早く板を剥ぐんだ! そのデカ公に取られる前に!」
(黙っててください佐藤さん! 今それどころじゃないんだから!)
一触即発の空気の中、割って入ったのは依頼人の栞だった。
「刑事さん、大垣さんは私の依頼で来てくれたんです。父が……父が隠したものを探すために」
栞の必死の訴えに、犬養はわずかに視線を和らげた。だが、疑惑の目が弥太郎から逸れたわけではない。
「……いいだろう。大垣と言ったか。そこまで言うなら、開けてみろ」
犬養が顎でしゃくった。
弥太郎は震える手でマイナスドライバーを取り出し、床板の隙間に差し込んだ。佐藤(霊)が横で「そう、そこだ! ぐいっとやれ!」とコーチングしてくる。
パカリ、と乾いた音を立てて板が外れた。
床下の暗がりに、埃を被った小さな金属製のキャッシュボックスが置かれていた。
「あった……!」
栞が声を上げる。弥太郎が箱を取り出し、蓋を開けると、そこには通帳と、一本のUSBメモリ、そして封筒に入った現金があった。
犬養がすかさず手袋をはめた手で通帳を取り上げ、中身を確認する。
「……一千万円。この額、ただのギャンブル好きが貯められる額じゃないな。佐藤さん、あんた一体何をした?」
犬養の問いは死者に向けられたものだったが、答えられるのは弥太郎だけだ。
佐藤(霊)の顔が、みるみるうちに青ざめていった。
「あ……あちゃあ……。弥太郎さん、それ、見ない方が良かったかも……」
「えっ、何がですか?」
思わず声に出してしまった弥太郎を、犬養が鋭く見咎める。
「……誰に話しかけている?」
「い、独り言です! 僕は緊張すると自分と対話する癖がありまして!」
弥太郎は慌てて通帳を覗き込んだ。
そこには、定期的に振り込まれている奇妙な入金記録があった。振込元は個人名ではなく、とある建設コンサルタント会社。
「佐藤さん、これって……」
弥太郎が小声で問い詰めると、佐藤(霊)は観念したように頭を抱えた。
「……実は俺、前の会社で、公共事業の談合の証拠を掴んじまってさ。それをネタに、ちょっとだけ……いや、結構な額をゆすってたんだよ」
弥太郎は目眩がした。
佐藤さんは、ただの被害者ではなかった。恐喝という立派な犯罪に手を染めていたのだ。
「……警察に届けようとしたんだよ! でも、一度金を受け取っちまったら、もう引き返せなくて……。せめて娘の結婚資金にと思って貯めてたんだが、まさかあいつら、本当に俺を消すなんて……」
「あいつらって、誰ですか」
「会社の元上司、黒岩だ! 俺を刺したのは、あいつが雇った奴に違いない!」
重要な証言だ。だが、これは「幽霊の告白」であり、法的な証拠能力はゼロである。
おまけに、この一千万が恐喝の金だとしたら、警察に没収される可能性が高い。そうなれば、栞の生活は救われない。
「大垣。このUSBメモリ、中身を署で確認させてもらう」
犬養が事務的に告げた。弥太郎は反射的に、USBメモリの上に手を置いた。
「……待ってください、刑事さん。この中身は、佐藤さんの『最後の良心』かもしれません。もしこれに事件の真相が記録されているなら、それは公的な捜査としてではなく、遺族の納得のために扱われるべきです」
「何を言っている。これは証拠品だ」
「嘘は言いません。この箱を見つけたのは僕です。僕には、この中身を一番に知る権利……というか、責任があります!」
弥太郎のぼさぼさの頭の下で、黒ぶち眼鏡の奥の瞳が、かつてないほど強く光った。
女性の前ではドギマギする男が、真実を前にした時だけは、探偵の顔になる。
犬養はしばらく弥太郎を睨みつけていたが、やがてフッと鼻で笑った。
「……一時間だ。一時間以内に、その中身を俺が納得するように説明してみせろ。できなければ、貴様を公務執行妨害で引っ張る」
「一時間……! ありがとうございます!」
弥太郎は栞のノートパソコンを借り、震える指でUSBを差し込んだ。
画面に表示されたのは、膨大な録音データと写真。
そこには、この田舎町を揺るがすような、巨大な利権の闇が記録されていた。
しかし、佐藤(霊)が横で叫んだ。
「弥太郎さん、危ない! 外だ! 奴らが来た!」
窓の外には、黒塗りの車が音もなく停まっていた。
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【誰が誰に話しかけているのか不明瞭になりつつあります。幽霊ものなので、分かりにくいのは多少は仕方ないかな……。設定考えた私が言うのもなんですが。
こちらも、悪役登場ですね。流石に3話、物語をサクサク進めていかなければおわりませんからね。それにしても岡山県警の殺人捜査がゆるくて笑うレベルですね。フィクションですが心配になります。京都の科捜研の女性研究員を引き抜いて来て欲しいところです。ですが、黒塗りの車の登場には犬養刑事のほうが役に立ちますかね!?次が楽しみです】




