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33 その頃のヒーロー達 3

「くそ!」

 光の剣を怪物に叩き込む。

 校内で出現した最後の一匹はそれで死んだ。

 危険はこれで取り除けた。

 だが、犠牲者も出してしまった。



 周辺地域の避難所になってる学校。

 ここには多くの人間が流れこんできていた。

 それらが教室などに寝泊まりをして、救助を待っている。

 だが、状況は厳しい。



 まず、水や食料が足りない。

 数日ならともかく、何か月も過ごせるほどの備蓄などあるわけがない。

 緊急時の物資は、政府の救援が来るまでのつなぎだ。

 それらは遅くても一週間もあれば届くと言う想定でいる。



 しかし、これは他の地域が無事ならばの話だ。

 日本全国どころか、地球上のあらゆる所で災害が起こってる。

 人が怪物になり襲いかかる。

 こんな現象があちこちで起こってる。

 政府はその対応におわれている。



 そもそも政府の機能が失われている。

 官僚に役人も怪物になった。

 これらの中には警察・消防・自衛隊なども含まれる。

 これらが近くに居た者達に襲いかかって殺していっている。

 何とかこれらを処分しても、人数が不足している。

 まともな活動など期待出来るわけがない。



 地方自治体も同じだ。

 これらもほぼ壊滅的な状態に陥ってる。

 普段通りの機能など期待出来るわけもない。

 救援などまず出来ない。

 その前に自分達の体制を立て直さねばならない。

 政府はそんな状況に陥っている。



 仮に政府が動いていてもだ。

 物資の確保がままならない。

 食料に日用品、生活雑貨に燃料などなど。

 これらを調達しようにもどこから持ってくるのか?

 世界各地が混乱に陥ってる。

 何かを手に入れようにも、買い付けが出来る状態ではない。

 それに物資は世界各国どこでも必要となっている。

 日本にわざわざ売るほどの余裕は無い。



 こんな状況なので、数日もすると食糧不足などを起こすようになった。

 あるはずの救助もなく、避難所に集まった者達は困窮するようになった。



 加えて、集まった者達の中から怪物化する者も出てくる。

 これらは身近にいた者達を襲い、その場に惨殺死体を積み上げる。

 避難のために集まった事で、逆に被害を増やしてしまっている。

 この事に、集まった者達も互いに警戒するようになった。



 対処が出来ないわけではない。

 ヒロトモのように超能力に目覚める者もいる。

 こうした者達を各教室に配置して、怪物が発生したら処分するようにしている。

 出来る事といったらこれくらいだ。

 しかし、ここにも問題が発生する。



「なんで、なんで殺したの!」

 ヒロトモに詰め寄る女。

 中年の避難者は、怪物を殺したヒロトモに詰め寄っていく。

「なんで、なんで、なんでよ!」

 涙を浮かべて詰るその姿は醜悪と言って良い。

 怪物という脅威を倒して詰るのだから。

 だが、この中年女の事情を知る者はそうはしなかった。



「申し訳ない……」

 うなだれ、頭を提げるヒロトモ。

 言われるがままに理不尽な難詰を受ける。

 ヒロトモが殺した怪物は、この中年女の旦那だからだ。

 たとえ怪物になったとしても、夫を殺されれば嘆こうというもの。

 そう思うからヒロトモは謝罪を口にして頭を下げるしかなかった。



 こんな問題が常に起こる。

 怪物は集まった避難者の誰かの家族だ。

 それらが死ねば、当然家族も辛い思いをする。

 避ける事は出来ない。

 怪物は人間から発生する。

 その人間があつまって以上、常に誰かの家族が怪物になる。



 いっそ避難所に集まらずに家にいた方が良いのでは。

 一カ所に集まってるから被害が拡大もする。

 これが家族ごとに集まってれば、怪物の被害にあうのは家族だけに留まる。

 だが、学校にいれば、教室にいる者全員が被害にあう可能性がある。



 今、教室にはそれぞれに10人から20人がつめている。

 数家族分の人数がつまっている。

 これだけの者達が一度に死ぬ可能性がある。



 とはいえ、家に戻るのも危険だった。

 外にも怪物がはびこっている。

 これらの処分のために、超能力に目覚めた者達が巡回をしている。

 近くに怪物がいれば即座に倒すように。



 また、避難が遅れてる者を見付けての救助も行っている。

 怪物のせいで逃げ遅れた者達もそれなりにいる。

 こういった者達を避難所へと促す。

 だが、そうしてる者達の中にも疑問はある。

「本当に避難所につれていくのが良い事なのか?」

「避難所でも怪物があらわれてるのに」

 こんな考えから、あえて声をかけない者も出てくるくらいだ。



 食料の問題も大きい。

 残り食料は少なく、救助や支援がこなければいずれ餓え死にする。

 そんな避難所に連れて行っても、割り当てが減るだけ。

 そう考えて、人を見付けても無視する者もいる。



 外回りに出かけてる者達も食料が減らされている。

 必要な量の食事が出来てる者はいない。

 残った食料を何とかやりくりしてもだ。

 そんな所に新しい人間を入れたら、割り当ては更に減る。

 それは避けたかった。



 皮肉な事に、怪物になる人間によって人数が減る事で、割り当ての現象に歯止めがかかっている。

 口が減ればその分だけ食料の減少も少なくなる。

 人が死ぬのは悲しいが、おかげで誰かが助かっている。

「いっそ、もっと死ねばいいのに」

 そう思う者すらいるほどだ。



 そんな中で、少しでも割り当てを得ようと悪知恵を働かせる者もいる。

 たとえばヒロトモに詰め寄ってる夫を失った中年女。

 こいつはあえて大げさに泣きわめいている。

 そうしてヒロトモを責めて、自分が可哀相だとうったえる。

 ヒロトモだけでなく、周りにいる全てに。

 そうして、可哀相だからと思わせて、何かしらの利益を得ようとする。

 さしあたって中年女は、ヒロトモから食料をお弔いとして分けさせる事に成功した。

 割り当てが減ってるこの状況では重要な物資となる。



 その分はヒロトモの割り当てから分ける事になった。

 ヒロトモの意思による。

「あの人の旦那さんを救えなかったから」

 これが理由だ。



 これならまだ穏便な方だ。

 中には力で食料を奪おうという者もいる。

 特に乱暴者などはこの傾向が強い。

 そういった者の中に超能力に目覚めた者がいる場合もある。

 こうなると避難所の中での争いが始まる。



「こんな事やってる場合じゃ無いだろ」

 ヒロトモはその度になだめている。

 どうにか騒動にならないようにしている。

 だが、もともと話し合う気のない乱暴者だ。

 ヒロトモの説得など聞くわけがない。



 ただ、戦闘にまでは至ってない。

 怒鳴って周りを威圧して脅す留まっている。

 単純な力の強さでヒロトモに勝てないからだ。

 乱暴者というのは道理やその場の状況、妥協点を探るという事はない。

 ただ力の強さ弱さには敏感だ。

 勝てないと思えば無理はしない。



 だが、回り道をしてでも勝とうとする。

 そこに道理があろうとなかろうと関係がない。

 必要なのは目的を達成する事。

 その為に手段を選ばない。



 そして手段はたいてい危険な剣呑なものになり。

 目的や目標は自分の欲望を満たすだけの事でしかない。



 正面切っての争いが無理なら、悪評を立てて悪者に仕立て上げる。

 そして周りから孤立させる。

 本当か嘘かはどうでも良い。

 従わないなら殴る蹴るで脅すのみ。

 そうして周りを味方に、というより下僕にして。

 敵に向けてぶつける。



 これが乱暴者、悪党や悪者のやる事だ。

 そんな工作を乱暴者は実行していく。



 そうと知らぬヒロトモは、目の前の問題をどうするべきかと悩んでいた。

 避難所の中の安全もだが。

 一番の問題は食糧だ。

 このままでは確実に底をつく。

 それも一週間とたたずに。

 カセットコンロに使うガスや、発電機を動かす石油も足りない。

 他にもあげだしたらキリがないほど足りないものが出てきている。

 これらを確保しにいかねばならない。

 だが、あてがない。



「スーパーとかコンビニ、それとホームセンター。

 こういう所から持ってくるしかないな」

 避難所の運営会議の場でこういう意見も出てくる。

 実際問題、他に方法がない。

 政府による救助や支援が望めない今、自分達で何かしら動くしかない。

 だが、誰が出向くのか?



 避難所の中に怪物が現れたら、超能力者でないと対処が難しい。

 学校の外から襲ってくる怪物もいるかもしれない。

 これらを対処するために、戦力は残す必要がある。



 物資をとりにいく場合も同じだ。

 怪物が襲ってくるかもしれない。

 だから対処する者が必要だ。

 当然、超能力者が求められる。

 こちらにも戦力を割かねばならない。



 あと、物資を運ぶ手段。

 自動車を使うしかないが、それを運転する者達。

 そして、荷物を車に運ぶ者達。

 こういった人手も必要になる。

 危険な外に誰が出向くのか?



 人員の振り分けに頭を悩ませる。

 防衛のために何人かは避難所になってる学校に残したい。

 しかし、物資の輸送隊を守る護衛も必要。

 また、危険な外に出向く運転手と人足。

 誰がこれになるのか?



 特に、乱暴者やこういった人間の同類。

 これらも問題になる。

 避難所に残せば乱暴狼藉を働くのは目に見えている。

 かといって外に連れ出すのも手間がかかる。

 おそらく素直に活動はしないだろう。

 何より、物資をしっかり運ぶかどうか。

 私物化する可能性がある。

 こういった問題のある者達の扱いも悩みどころだった。



 おかげで人選で無駄に時間を使い。

 決定を承諾させる事で更に時間がかかった。

 労力も忘れてはいけない。



「まったく……」

 外に物資を回収しにいく事がどうにか決定したその夜。

 屋上で風にあたっていたヒロトモはぼやきを吐き出す。

 素直に話を進めればもっと早く、あと二日は前に物資回収に出向けた。

 しかし、貴重な時間を話し合いのために浪費した。

「なんでああなんだ」

 ヒロトモには理解しがたい事だった。



 文句を付けてきたのは、当然乱暴者など。

 これらに少しでも楽がしたい怠け者気質のものが加わった。

 これらが無駄な言い争いを募らせ、話がほとんど進まなかった。

 だが、その魂胆をヒロトモはしっかり見抜いている。



 難癖をつけて話を長引かせる。

 そうして相手をうんざりさせて、妥協を引き出す。

 交渉というよりも恫喝や脅し、遅滞戦術というべき手段だ。

 この状況で乱暴者達はまだ自分の為だけに行動している。



 そんな連中あいてに、教師や老人などの避難所の運営側は話を続けようとしたが。

 業を煮やしたヒロトモが一喝。

「いい加減にしろ!」

 怒鳴って乱暴者を黙らせた。

「とにかく、今は食料もないんだ!

 取りに行くから黙ってついてこい!」

 そういって乱暴者共を黙らせた。

 もっとも、

「おいおい、そう取り乱すなって」

と猫なで声で乱暴者のまとめ役が声をかける。

「お前らのせいだろ!」

 更に怒鳴って黙らせる。

 こうして話はようやくまとまった。



 その後。

 会議が終わったあとでヒロトモは教師や老人に残るように言われ。

「あれはないぞ」

と叱られる羽目になった。

「話し合いの場なのだから」

 そう言われてヒロトモも反省する。

 確かに頭に血が上った。

 だが、それが乱暴者共の態度のせいである事。

 話を長引かせて自分達の利益だけ確保しようとしてるだけの事。

 それが問題だとも伝えた。

 しかし。



「それでもだ。

 話し合いだ、いいな」

 教師と老人はそれでもヒロトモをたしなめた。

 彼等にとってはそれこそが最善なのだ。

「……はい、すいませんでした」

 納得したわけではない。

 だが、この場では頭を下げた。

 年長者の言う事だから。

 そう考える事が既に間違ってるのだが。

 ヒロトモは気づく事はなかった。

 ただただ我慢を強いられた。

 鬱憤もたまるというもの。



「大変だったね」

 だからこそ、こんなねぎらいの声が、いたわりの言葉がありがたい。

「ありがとう。

 そう言ってくれると助かるよ」

「いいよ、これくらいしか出来ないし」

 そう言って隣に座るミオは控えめな笑みを浮かべる。

「そんな事ないさ」



 ミオも重要な戦力として頑張ってくれている。

 直接攻撃するような力はないが、協力は防護壁を作ってくれる。

 超能力で作られる気力の壁。

 これは怪物の攻撃を防いでくれる。

 おかげでヒロトモ達は戦いで傷を受ける可能性を大幅に減らす事が出来ている。

 そんなミオと行動を共にする事で、ヒロトモは大いに助けられていた。



 それに女子のまとめもしてくれている。

 優れた能力を持つヒロトモだが、さすがに女子の中にまで入っていくのは難しい。

 もちろん、女子はヒロトモに親しく接してくれるが。

 男には話せないような事もある。

 そういった部分はミオが対処してくれている。

 おかげで女子生徒はなんとかまとまってくれている。



「いつも助かってるよ」

「だったら良いんだけど」

 控えめにミオは評価を受け容れていく。

 実際にどれだけ役立ってるかは分からない。

 だが、認めてくれるのは嬉しいものだ。



 ただ、ミオが上手くまとめてられるのは、ヒロトモの名前と存在があるからだ。

 ヒロトモの名前を出すと、女子の多くは不満をこらえる。

 学校の中で最も活躍してるヒロトモ。

 そんな彼に迷惑はかけられないと。

 何より、もともと人気があった。

 そんなヒロトモに嫌われたくないという思いが強い。

 おかげでミオもかなり助けられている。



「それよりも、今は明日の事を考えよう」

「ああ、そうだな」

 ヒロトモとミオは外に出て食料などの物資の回収をする事になった。

 最強の攻撃力であるヒロトモと。

 最高の防御力を持つミオ。

 この二人は危険な周辺を巡るのに必要な戦力だった。



 それにどうしても二人が必要な理由もある。

 乱暴者を引き連れねばならない事だ。

 これらを黙らせるには、ヒロトモとミオという戦力が必要になる。

 でないと乱暴者共は好き勝手に動くだろう。

 そうさせない為にも、ヒロトモとミオがいなければならない。



 学校の方が心配であるが、これは仕方がない。

 幸い、怪物は学校に残ってる者達でも対処出来る。

 ギリギリではあるが。

 おそらく何とかなるだろうというのが避難所運営側の判断だ。



「どうなるかな」

 それでも不安は残る。

 はたして上手く物資を回収出来るのか。

 出来たとしてもその先はどうなるのか。

 救援は来るのか、来るとして何時になるのか。

 分からない事だらけだ。

 その中で出来る事を出来るだけやっていくしかない。



「頼むよ、夷隅。

 俺も頑張るから」

「うん、私も」

 そう言って見つめ合い。

 そのまま二人は顔を近づけていく。

 唇を接点にして二人が重なった。




 ブックマークをつけて今後も付き合ってくれるとありがたい。


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 評価点は最終回を迎えてから考慮してくれ。

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