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はじめての生きた住人

こちら冒頭のみです。またアンデッド視点ですので死体がゴロゴロしてますし人間が敵ですのでご注意ください

「あああああ」

「うぅぅぅぅう」


うめき声と、スケルトンの軽やかな骨の音。

腐臭溢れるこの滅びた王国にはわたくしの宝物がある。


ふわり、ふわりと空を飛んで周辺のお散歩をする。


わたくしの怨みがこの国を滅ぼしたのは数百年前。

それから様々な国がわたくしの宝物を狙って攻め入り、返り討ちになりわたくしの宝物を守る兵たちの数は亡国の国民数の数倍以上になった。


死なない不死の軍勢は、数百年の間に莫大な勢力となり……ここ数十年は攻めに来る人間は居なくなった。


今ここを訪れるのは、力試しをしたい者か

ナワバリを追われた魔物くらいであった。

それらもわたくしの配下に挑み、返り討ちとなり、配下になる。


そう、それらも例外無く死者の軍勢に取り込まれる。故に失われることのない軍勢は日に日に数を増やして言った。




たからものを守り、見つめ、のんびりとお散歩をする日々。



けれどその日は……何百年ぶりだろうか?


「この地を納めるリッチ殿と見受ける……どうか、どうか、我らを助けてくれないか!!」


一匹の魔物に、敵意以外の感情を向けられた。






『冤罪で処刑され復讐を果たした聖女、デストピアの大家になる』





「……わたくしに、言っておりますの…?」



久しぶりに出会った瞬間攻撃をされなかったので、興味本位に魔物の前に近づく。


一番前にはリーダーであろう強そうな魔物が居て、その後ろには数十?くらいの魔物たちが居た。


彼らからは恐怖の感情が発せられている。

恐怖や恨みはわたくしの魔力の糧となる。美味しいなーと思いつつ、首を傾げると先頭の魔物はその場に膝をついた。


「そうだ!エーレビダイムもトルテアの森も人間たちの手に落ちた。我ら獣人には最早安住の地が無いのだ。ここが貴女のデストピアなのは重々理解している。だが、同じ魔物のよしみで貴女の領地の隅っこでもいいので我らを住まわせてくれないだろうか……!」


「隅っこはよく人間が攻めてくるので危ないですわよ?住むんなら真ん中のこっちへいらっしゃいな」


わたくし、配下以外のものとお喋りしていますわ……!

配下は基本的にわたくしの言葉を肯定しかしないのでつまらないのです。久しぶりに敵意を向けてこない相手と会話をしている事実に少しだけはしゃいで、先頭の魔物の腕を掴んでグイグイと中央に向かって引っ張る。


すると魔物は目を見開いて「え?は?」と言いながら呆然と着いてきた。ついでに後ろの魔物たちも着いてきた。


「こっちですわ、こっち」


そのまましばらく魔物を引っ張り……百分の一ほど進むと、先頭の魔物が「あの!」と声をかけてきた。


「二時間ほど進みましたが……その、中央はまだなのですか?」


「ここはまだまだ端っこでしてよ?レイス、地図を」


魔物たちは飛べないから移動が遅いわねえと思いつつ、昔うちに攻めに来た将軍のレイスを喚んで地図を出させる。


「今がここで、真ん中はこの辺りですわ」


「…………あ、あのリッチ殿…我等はここに住んでも、良いんですかね」


「あら、わたくし良いですわって仰らなかったかしら……?」


「…中央においでとは、言って下さりました。その、実はデストピアの外にまだまだたくさんの仲間が居るのですが……そちらも住まわせてもらっても良いでしょうか」


「良いわよ〜。あ、でも約束を一つだけ守っていただきたいですわね」


住むのは構わないけれど…たからものに手を出されることだけは許せない。

そう思って忘れてた条件を言おうとすると、全員の空気がヒリつき……恐怖の感情が強くなった。


「なんでしょうか」


「わたくしのたからものにだけは、手を出さないで頂きたいの」


「……たからもの、とは何でしょうか」


「この真ん中のここにね、お城があるの。その中にわたくしのたからものがあるのでそれだけは触れないでちょうだい……と言っても、城に触れた瞬間肉体が滅んで、魂が城の中で永遠の責め苦を味わっちゃうからそう簡単に手は出せないと「絶対出しません!!!」」


「そう?じゃあ良いわよ。わたくしの配下達にあなたたちを襲わないように通達もしておくわね」


ちらっとレイスを見ると、忠実な下僕は心得たと頷いてふっと姿を消した。おそらく他のレイスやアンデットに連絡しに行ったのだろう。彼はとても優秀な将軍だったから、報連相は完璧だ。


「……本当に、住んでもいいんですか?」


「良いわよ〜。真ん中に住むなら周りをうちの子達で守ってあげるわ。うちの子たち、結構強いのよ?」


「重々理解しています……その、たからものに触れない以外に何か我らに求めたりとかはないのですか?」


「え?うーん……そうねえ、わたくしに敵対するならば流石に出ていって貰ったり反撃はさせて欲しいかしら?」


「いや、そんな当たり前の事じゃなくて……その、命を絶って支えろとか…」



思いもよらぬ提案に、目をぱちくりとさせて魔物を見上げる。

配下希望……という訳では無さそうだけども、死んで配下になりたいのだろうか?


「あなた、わたくしのアンデットになりたいの?」


「……それで、仲間たちが安住の地を手に入れられるなら」


「若!!」


「黙れ!」


覚悟を決めた目で見下ろしてくる彼には悪いけど……どう見ても、彼も後ろの人たちもアンデットになることは否定的に見える。

なりたいなら、別になってもいいけど……対等に話せなくなるのは、ちょっと寂しいなあ。


「……あなたが望むなら、別にアンデットにしてあげてもいいけど……わたくしとしては、こうして普通に喋れる人物が失われるのは寂しいわ。こんなに普通の会話をするのは数百年ぶりなんですもの。ねえ、アンデットになるのならばせめてその前にわたくしとたくさんお喋りをしましょう?」


ふふふと笑って指を鳴らすと、近くの大地から大量のスケルトンが這い出てきた。

即座に臨戦態勢をとる魔物たちには悪いが……彼らにはお喋りの場を用意してもらうだけだ。


「彼らが座れるだけの椅子と、そうねえ……日を避ける屋根が欲しいわ。即座に準備なさい」


指示を出すとすぐに大剣を担いだデュラハンが現れ、近くにあった木を剣で切り捨てると…木材にスケルトンが群がって加工作業をしだした。


どうやら椅子を作るつもりらしい。


それはそうか、数百年家財など使ってないし手入れもしてないのだ……この人数に対応した椅子がある訳なかったか。


「……その、アンデットになりたくないと言っても許されるだろうか?」


「あら、そうなの?ならあなたの寿命いっぱい喋れるわね。嬉しいわ」


それは僥倖だ。

嬉しくて笑顔のままふわふわしていると……喜びすぎて魔力が漏れて周りのスケルトンが無駄に強化された。

強化されたスケルトンの骨の一部は……ノコギリのようにギザギザとなり作業効率が増す。どうやら木工特化スケルトンになったようだ。


よく見るとデュラハンも大剣を地面に刺して斧で木を伐採している。斧からわたくしの魔力を感じるに、こちらは木こりの能力を得たようだ。


「……受け入れてくれて感謝をする。その、俺たちを死者の軍勢にしたりとかは……考えてないんだな?」


「なりたいなら受け入れるけど、もういっぱいいるから欲しいとは思ってないわねえ」


「そうか、それならいいんだ。外にいる仲間も連れてきても良いだろうか」


「良いわ」


酷く疲れた様子の魔物が支持を出すと後ろの魔物が元きた方向へ……四本足で走り出した。

今まで二本足の人間に似た姿だったのに…四本足で駆け出す姿は獣のようだった。


よく見ればここにいる全員に獣の耳や尻尾がある。


……腐ってない獣……!


「ねえねえ、あなたの尻尾触ってもいいかしら?」


「え……………ど、どうぞ」


少し嫌そうにしながらも魔物は長いフサフサの尻尾を前に出してくれた。

おおおおおお、しっぽだ。


それをむぎゅっと握ると……腐ってないしっかりした肉の手応えと、モフモフの感触が手に伝わってきた。


「…くっ…」


「もふもふ……」


「………」


「…もっふぉもっふぉ………」


むぎゅぎゅぎゅぎゅ

おお、尻尾だ尻尾。


「…毛並みが、所望か?」


「所望したら、どうなるのかしら」


「こうなる」


尻尾を取り上げられて残念に思うが……即座に魔物の全身が毛におおわれ……そこに服を着た一匹の狼が現れた。


「おおかみ…!」


「尻尾は少しあれなので別の毛並みで勘弁してもらいたいんだ」


「おおかみ…!」


手を伸ばすと、軽く両手を広げられたのでむぎゅっと抱きついて……毛並みに顔を埋める。


「………けものくさい…」


「……けものだからな。というかゾンビほど臭くないだろう」


「腐臭は気になりませんの。わたくしアンデッドですから」


「奇遇だな、俺も獣臭は気にならないんだ。狼人だからな」


ちょっと匂いがきつかったのですぐに離れると、魔物は傷ついたような声を出し

後ろの魔物たちは堪えきれなかったように笑いだした。





これがデストピア初の生きた住人達の獣人たちとの出会いであった。






腐臭vs獣臭(笑)

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