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第103話 高原

「いつの間に馬の乗り方を覚えた?」


 カポカポ進みながら、アインが私に言った。

 アインと同じくらいの目の高さで歩くというのは、新鮮な感覚だ。

 私は得意満面にアインを見た。


「えへへ、覚えが早いでしょ?」


 ふむと笑って、アインが私のすぐ横に並ぶ。

 アウローラがぶふ、と鼻をならす。


「ちょ、ちょっと! 急に近づいて、アウローラが驚いちゃったらどうするのよ」

「いざとなれば、俺が乗せてやるから問題なかろう」


 もう、とアインを睨むが、アインはハハハと笑うばかりだ。

 後ろで、マチネとスーが話しているのが聞こえる。


「トリルとアインって、ずっとあんな感じなの?」

「そうですね。マチネ様が現れてからは戸惑ってはいましたが、その前は、大体あんな感じでしたよ」

「なんていうか……まぁ、私は割り切ってるからいいんだけど、あまりにも二人だけの時間をつくられちゃったら、スーも居心地悪くない?」

「いえ、ほほえましく見させていただいていますから」


 後ろは後ろで、話が弾んでいるようだった。


「だって、スーはスーで、ちゃんと相手がいるもんね。」


 私がぼそっと言うと、アインが大きく頷く。


「むしろ、スーとシラブルの方が、なんの障害もないしな」

「あの耳飾りのいきさつだって、結局話してくれないしね。実は、とても人には言えないようなことまでしてたのかも……」

「トリル様、聞こえてますからね」

「え、ほんと?」


 まったく、と顔を赤くして鼻息を荒くしながら、スーも並ぶ。


「元気が出たのはたいへん喜ばしいんですけどね」

「成長したでしょ?」


 私が笑うと、スーも笑った。

 旅に出る前に私が心配していたような滞りはまるでなく、マチネも含めて、私達はのんびりとした雰囲気で歩みを進めることが出来た。

 もちろん、のんびりと言っても馬に乗っての移動なので、王都からオーヴェストまでは二日しかかからなかった。

 モナルキーア西部の街オーヴェストは、東のオストとは違って、あまり活気がある風ではなかった。


「他の種族との交流があるということが、オストに活気をもたらしていたことが分かりますね」


 スーの言葉に、私もアインも頷いた。

 数は多くなかったが森人エルフ水人フォーク、ミノタウロスが通りを歩いていたオストは、街全体に活気があったような気がする。

 大陸の西側に住んでいるという竜人ドラグーンの姿や、鉱人ドワーフの姿は一人も見えない。

 人族以外の種族がまるでいないので、アインとマチネがかなり注目の的になっていた。

 アウローラとノーチェは騎士団が管理する馬宿に預け、私達は一晩の宿をとった。


「変に注目されるのも嫌だし、食事は宿でいいわ」


 マチネの言葉を、私達は了承した。

 宿の一角を借りて、食事の用意も自分たちでさせてもらい、そこで簡単に夕食を済ませる。


「いろいろな種族との交流が始まっていったとしても、私達人族側の心構えも開いていかないと、うまくいかないことも増えるかもしれないね」


 食べながら私が言うと、スーはこくこくと頷いた。


「これまでの旅で、色々な方とうまく接することが出来てきたのは、正直、トリル様がなんの偏見もなくお話をしてこられたからだと思っています。私はどこの国でも、最初は緊張していましたし」

「でも、スーだって、もう水人フォーク森人エルフには緊張しないでしょ?」

「今は、見知った方が多いですからね」

「国と国、種族と種族じゃなくて、人と人が関わるっていうことが大事なんだろうね」


 質素な石の杯で水を飲みながら私は言葉を紡ぐ。


「そんな話のあとでなんだけど、竜人ドラグーンに会いに行くっていうのは、私はちょっと構えちゃうわ」


 マチネが苦笑する。


「どうして?」

「実際に会ったことはないんだけど、首から上が蜥蜴みたいな感じなんでしょ? ちょっと想像がつかないっていうか、さ」

「ミノタウロスだって、首から上が牛さんでしょ。そう考えると、ミノタウロス達みたいに、実はすごくおおらかで開放的な種族っていう可能性もあるじゃない」

「さすがトリルだな。たいていのことはなんとかなると考えているか、あまり深く考えていない」

「ちょっとアイン、それって褒めてるの?」


 私がにらむと、アインは目を閉じて澄ました顔をして、マチネが笑った。


「まぁ、お酒が好きだっていうのは分かってるんだものね。私もそんなに強いわけじゃないけど、酔えばお互いの気心も知れるか」


 そんな話をみんなでして、夜が遅くなる前には、眠りについた。

 翌朝、久しぶりに徒歩で草原を歩いて進む。

 大陸の東側を歩いた時よりも、人々の往来がないために草の背が高い。

 野生の馬や牛、鹿も、あちこちに姿を見せていた。


「この一帯は、ティフォーネ高原と呼ばれています。前方に高くそびえているのが、霊峰ファートですね」


 薄い青色をした巨大な山が、美しい三角を形作って空に向かっている。

 山脈が広がっているが、ファートはそこからさらに突き出て高い。


「大陸のどこからでも見える、なんて言われてるけど、本当にそんな感じ。西の方に来ると、ますます大きいね」

「天気が良ければ、東の海岸からでもうっすら見えてたと思うよ」

「巨大な鳥をこの地に留めるために、空から打たれた杭がファートである、という伝承があるくらいです。こちら側に住んでいる人々にとっては、きっと重要な意味をもっているでしょうね」


 アインが、右のずっと奥の方を指さす。


「向こう側に、石壁のようなものがうっすらあるが、あれはなんだ?」

「あれは、スクードの長城です。鉱人ドワーフが千年の時間をかけて築いたとされています」

「千年もかけて、あんな石壁を作ったのか? なんのために?」

「それは、鉱人ドワーフに聞いてみないと分かりません。でも、今はあの長城が閉ざされ、そのお話を聞けないというのが実情なのですが……」

「そっか……じゃあ、竜人ドラグーン達とうまく交流出来たとしても、最後の最後で、鉱人ドワーフ達との接触をどうするかっていう課題が残ってるんだ」


 アインほどはっきりは見えていないが、私の目にも、灰色の壁が高く連なって高原に打ち立てられているのが見える。

 森人エルフの里を支える木々ほどにも高く見える。

 他の種族との交流を断つために鉱人ドワーフがつくったものなのだろうか。

 でも、ノルドには一人、鉱人ドワーフの職人がいた。

 彼がどうやってノルドにたどり着いたかを教えてもらえれば、糸口が見えるかもしれない。


「ま、あっちもこっちも気にしてたって仕方ないわ。まずはクラテーレの竜人ドラグーンと飲み交わしてみないとね」


 マチネの言葉に私達は頷き、スクードの長城を背にする形で高原を南下していった。

読後感と必然性を大切にしたい、作者の成井です。

今回のエピソードをお読み頂き、ありがとうございました。


「面白い話だった」「続きも読んでみよう」と思って頂けたなら、

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それでは、また次のエピソードで。

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