第101話 地下
人払いがされ、もともと大通りからは外れていたその空間は、私たち以外の人がいなくなった。
第八種族と呼ばれる異形の石像は、ただそこにある。
「では、始めよう」
クプレ大臣が、連れてきた部下たちに何か指示を出した。
部下たちは、何か液体をまいたり、ぶつぶつ言ったりして、それぞれが動き回っている。
「スー、あれは何をしてるの?」
「精霊の力について調べているんです。古い魔法には、人に危害を加えるための罠のような魔法があったということが分かっていますから。もしも危険な力が封じ込められているなら、あの指示薬が反応したり、陽精が教えてくれたりします」
なるほど、と言い、私はその成り行きを見守った。
「どうやら、そういった仕掛けはないようです」
「よし、それでは頼むぞ」
大臣の声に応じて、一人の魔術師が歩み出た。
「あの方は、宮廷魔術師の中でも珍しい、土精の力を借りられる人です」
『トイ、トイ、トイ。土精よ、もしもこの下に空間や通路があるのなら、ここにある土を寄せて、下に進むための道を作ってください。イン・ボッカ・アル・ルーポ』
彼が呪文を唱え終えると、モコモコモコモコと土が動き、うねり、どんどん広がっていく。
ぐるりと像を囲みながら、らせんを描くように土が道を作り始めた。
あっけにとられながら見ていると、その土の道は深さを増していき、やがて石のような金属のような質感の床が現れ、それは階段となって下に向かっていた。
「カスカータ王国、フォンテの街に眠っていた遺跡も、螺旋階段の先にあったと報告書にあったな」
大臣がスーに言う。
スーは深く頷いた。
「下がどうなっているか分からん。影が巣くっている可能性もあるが、どうするかね?」
私は振り向き、スーとアインを見た。
二人とも、わくわくした表情で笑っている。
ここまで来て、一番乗りを譲る気にはならないよね。
その後ろのマチネは肩をすくめているし、ソワレは相変わらず表情がないままだ。
ふたりがどうするかは、二人が決めればいいだろう。
「行ってみます」
「分かった。私は武芸の覚えがないので、ここで待たせてもらう」
私は頷き、出来上がったばかりの道に足を踏み入れた。
「私の魔法で通路を保っていられる時間は、あまり長くはありません。日が沈むまでは大丈夫だと思いますが、そのつもりで戻ってきてください」
土の魔法使いの言葉を了承し、私、スー、アインの順に遺跡に進む。
ちらっと後ろを見ると、どうやらマチネは一緒にいくようだ。
階段、というよりも螺旋状のなだらかな坂を、ぐるぐると降りていく。
途中から、これまでの旅で何度も見た、あの光の筒が現れた。
「この灯りって、陽精? 月精? でも、魔法って感じじゃないわよね……」
マチネが歩きながら呟く。
「あなたたちは、こういう場所を旅の中で探して、冒険してきたのね」
感心したように言葉を紡ぎ、マチネは蹄を鳴らす。
どれくらい下がってきただろうか。
フォンテの地下にあった遺跡も、かなり下がってから広間にたどり着いたっけ、と思ったあたりで、アインが口を開いた。
「トリル、待て」
「影?」
アインが頷く。
「俺が前に出る。トリルとスーは、入り口を確保してくれ」
「私はどうする?」
「どうせお前は勝手に走り回って戦うだろう」
呆れ顔でアインが言う。
「だって、前もって戦い方を決めるのって性に合わないんだもの」
なんとなく、南の海岸を探す旅で、二人がどんな風に戦っていたのかが分かった気がした。
アインは戦いを緻密に組み立てて、計画的に戦う。
ケンタウロスはみなそうなのかと思っていたが、どうやらそういうわけでもないらしい。
「ってことで、私も前に出させてもらうわね」
アインが大剣を構え、その横でマチネが長剣を二本構えた。
「よし、行くぞ」
坂道を周りながら下り、私達は広間に続くであろう短い通路に差し掛かった。
広間から、ぎゃあぎゃあとしわがれた声が聞こえてきていた。
「オークね、この声の感じ。しかも、かなり多いわ」
「取るに足らん。行くぞ!!」
アインが広間に駆け入った。
マチネが一拍遅れて、それに続く。
私とスーも剣を構えて広間に入る。
かなりの数だ。
でも、武器を持っている敵はいない。
私は左、スーは右に敵を定めて、踏み込んで剣を振るう。
敵が多いから、なるべく止まらないように。
剣を振り、払い、薙ぎ、突く。
一撃で致命打に出来なくても、まずは動きを止めないようにしないと。
距離が離れた相手には、ナイフを投げられないかどうかも考えて。
次々と怪物を影に戻しながら、私は剣を振り続けた。
アインとマチネの方まで見る余裕はない。
視界の端で、スーが青い刃を振っているのが見えた。
目が合ったような気がして、周囲を警戒しながら、構えて入り口の方にじりじりと動く。
「呼んだ?」
「いいえ、でも一度入り口を固めなおしたいとは思っていました」
横目で目を合わせ、ふたりとも笑った。
ふー、と息を吐きながら、広間を見渡す。
アインの大剣で吹き飛ばされた骸が、どんどん影になっていく。
マチネの二本の剣も的確にオーク達をとらえて裂いているが、アインの攻撃に比べると、見劣りがするような気がした。
「アインって、やっぱり強いんだね」
私が呟くと、スーが笑う。
「惚れなおしました?」
「まぁね」
私の返事が意外だったのか、スーがえっ、と驚きの声を上げる。
「でも、しゃべってる場合じゃなくなったかも」
私とスーを囲むようにして、オーク達が五、いや六体立ちはだかった。
スーがその中心の一体に躍りかかり、双剣を猛然と振るう。
私はもっとも近い端のオークに切りかかり、腕を切り落とした。
続けざまに腹に刃を走らせ、囲みを抜ける。
振り返って次、そして次の剣を振る。
遠くにいる一体が、背中から強い衝撃を受けて崩れ落ちた。
たぶん、アインの手投げ斧だ。
私はすかさず、そっちに気を取られた一体に向かって踏み込み、腹部を大きく切り払った。
すぐに構えなおし、背後を確認して、敵が全滅したことを目で確かめた。
「ふぅ……」
息を吐きながら、鞘の先の石に剣を当てて滑らせる。
キィィィン、という音が鳴り、剣に輝きが戻る。
カカッ、と蹄の音が鳴り、二人が私達のいる入り口付近まで戻ってきた。
「あなたたち、本当に人族なの?」
マチネが髪をかき上げなら笑う。
額には大きな汗が浮かんでいた。
「あれだけのオークに遭遇したら、私とソワレは逃げてたわ。それを、なんの問題もないかのように戦って見せるなんて、驚きね」
私とスーは、顔を見合わせて笑った。
「アインが、逃げ方を教えてくれないからね」
「そういえば、一度もそんなことをおっしゃいませんね」
アインが大剣を布で拭いながら鼻で息を吐く。
「当然だろう。影を生かしておく道理はない」
「さすがはアイン様です。そういえば、さっきトリル様……」
「スー、余計なことは言わなくていいから。さぁ、いよいよ壁画だね」
読後感と必然性を大切にしたい、作者の成井です。
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それでは、また次のエピソードで。




