†第16章† -48話-[百エーカーの首都でホームランダービー]
【新約:特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。】
【異世界と混ざった現実世界でデスゲームとスキルライフを満喫する!~原生林に飲み込まれたキャンプ場からお送りします~】
【地球消滅ENDで死んだ私は、神様の異世界救済枠に選ばれたので故人の為にも頑張って生きていきますっ‼】
・上記3作品も投稿し始めました。よろしくおねがいします。
~side Ricca~
馬車から降りたニカイドウ家一行は、同行した家臣団とはまた別の家臣に案内されアルカンシェとは別行動となった。
塀の中でムツ城の隣に併設されたいくつかの平屋が集まっている”宮城”の石畳を歩く先で、一族が訓練する声が聞こえて来る。
「(確か、この先には訓練場があったはず……)」
幼少期にリッカもここで暮らしていた。
集落と呼んでも差し支えない程に密集した一族の生活区画だ。
国を離れている間も建て替えや増築もあっただろうに、なんだかんだと昔の記憶が蘇る。
『故郷に戻った気分はどう?』
火精バティスカーレが背後から声を掛けた。
「とても懐かしいわ。貴女の里は首都から近い?」
『私の里はリクオウの南にある火山地帯よ。ここからなら馬車で数か月掛かるでしょうね』
互いを尊重し認め合える火精バティスカーレとリッカは仲が良かった。
ゆえにリッカは残念に思う。叶うのであれば彼女の故郷にも足を踏み入れたかった、と。
多くの家臣に囲まれたまま訓練場の隣に差し掛かった時、リッカを呼ぶ声が聞こえた。
「リッカ!本当に戻ったのね!」
複数人の若者が木剣を手に駆け寄って来た。
その先頭の女性が声を上げた張本人だった。
「……もしかして、アンズですか? ずいぶんと見た目が変わっていたから気付かなかった」
女性は当時仲の良かった従妹のアンズ=ニカイドウだった。
ニカイドウ家では、護身の為に女性でも武芸が推奨されている。
その中でも歳が近かったアンズとは特に仲が良く、汗を流した後も一緒に行動を取る事も多かったのだ。
駆け寄って来た集団を見回すと、全員が懐かしい顔ぶれであることにリッカも気が付いた。
「この度、一時帰省致しました。短い期間の予定ですが、当時のように仲良くしてくださると嬉しいです」
「あはははっ!リッカってば、少し見ない間に固い言葉覚えちゃって……はははっ!もちろんよ!ね、みんな!」
リッカの言葉にアンズは大声で笑い声をあげ、集まった一族の若者たちはその言葉に同意の声を重ねた。
家臣団も若者世代の暖かい空気感に安らぎを感じて笑みを浮かべて彼らを見守っていた。
「———逃げたマサオミ叔父さんと出戻って何を企んでいるんだ?」
歓迎ムードの若者たちとは少し年の離れた別集団から荒れた声が上がった。
家臣団も若者たちもその声ひとつで一気に緊張感を高めた事をリッカは肌で感じ取り視線を向ける。
「そのデカイ得物は何だ? 扱えない武器を持ち歩くなんてみっともないと思わないのか?」
三十路を迎えた青年集団の中からリーダー格の男が前に出て更に煽って来る。
面影からリッカの記憶に浮かんだのは、幼い頃は遊んでもらったこともある従兄。
「お久しぶりです、ショウリ兄さん。武器の扱いには慣れておりますのでご心配は不要です」
彼は当主を長男とした五兄弟の中の三男の子だ。
「なんだとッ!ショウリさんに向かって生意気なっ!」
末弟のマサオミが突如戻って来た理由を邪推した三男から何かを吹き込まれたのか、集団はずいぶんと好戦的だ。
アンズへ視線を向けても首を振るのみ。
国を離れている間に好き勝手な推測がまことしやかに囁かれた結果なのだと理解する。
「そこまで言うなら訓練の相手をしてくれよ。大陸でどこまで鍛えたのか俺が見てやるよ」
その言葉には勘違いが含まれていた。マサオミの娘として戻ったと思っているのだ。
リッカの今の立場を知る家臣団が間に入ろうと口を開く前にリッカは喧嘩を買っていた。
「———申し訳ありませんが、今の私はマサオミ殿を護衛する職務に付いていますので、時間が合えばよろしくお願いします」
リッカを知る多くの者が、この回答には驚いた。
どちらかといえば気弱で護身訓練もアンズたちに付き合ってという印象があったお嬢様が、武闘派の男集団の喧嘩を正面から堂々と買っている。
この予想外の返答に、ショウリ率いる青年集団のボルテージは一気に怒髪天へと達して声を荒げた。
「お前っ!女の分際でよくもそんな言葉を口に出来たなっ!その唾、もう呑めないことはわかっているんだろうなっ!」
だが、顔を赤くしてまで口々に放たれる男尊女卑を目の当たりにして、リッカの視線は鋭さを失っていく。
彼女の脳裏に浮かんだのは彼らとは正反対の主たちの関係だった。
その比例した差がリッカの逆鱗に掠る。主を馬鹿にされた気になったのだ。
両親と家臣たちに振り返ったリッカは、さきほどまで周囲を見回していた同一人物とは思えない迫力を持っていた。
「ほんの少しお時間をいただいてよろしいでしょうか?」
ユレイアルド神聖教国で剣術を頑張って強くなった娘を知るマサオミとルビディナは負けない事を確信している。
滞在中に計画されている意味のない妨害を考える親戚たちを牽制するには良い考えだと思ったのだ。
アルカンシェの指示でマサオミの護衛に付いた時点で戦えることは家臣団も理解している。それでも強さについては把握していなかった。
「行ってきなさい」
だからこそ、迷いなく送り出したマサオミには意外性を感じた。
「ま、待ってくださいマサオミ伯父様!ショウリ兄さんも含めて彼らはレベルが上限に達しています!」
すかさず慌てたアンズがリッカを心配して考え直す様に進言する。しかし、リッカがそれを制した。
「心配はいりません。ご主人様のご意向で私は上限突破していますから」
その言葉と微笑みを前に胸にあったアンズの焦燥感と不安は急速に解けて行く。
濃い経験とレベル差で自分達では敵わないショウリ達を、歯牙にも掛けない従姉の姿は彼女率いる若者組には眩しく映った。
「上限突破ぁ? 嘘まで吐くようになったら武人として終わりだぞ、リッカ?」
当然、マサオミを負け犬と吹き込まれている青年集団は、リッカの言葉を端から信じていない。
「やればわかる事でしょう。武人を名乗るのであれば武を持って嘘を証明すればいいのです。バティスカーレ、この場を任せます」
そう言い残し、リッカは一人訓練場へ向け歩き出す。
呆れた声音の台詞だった事もあり、青年集団にプライドは大きく傷つけられたらしい。
リッカの後ろから肩を怒らせる青年たちと、応援といざとなった時の援軍として若者たちがその後を追う。
* * * * *
向かい合い、戦意を燃やす青年集団とリッカの姿が訓練場にはあった。
中立の派閥も同じ訓練場を使用している時間帯であった為、見物人の数はかなり多い。
「俺が直々に相手してやるよ」
ショウリが自信満々に集団から抜け前に出て来た。当然誰もが一対一の試合だと考えていた。
しかし、リッカの返答は違う。
「時間の無駄ですから、全員で来てください。その分ベットはいただきますが……」
言葉通りに溜息を吐きながら、なるべき面倒くさそうな演技までするリッカに訓練場は殺気立つ。
この煽りスキルは宗八を参考にしたものだったが、思いの外、自分には演技の才能があるかもしれないと内心喜んでいた。
「何度も言うが、吐いた唾は呑めないぞ」
「早く宣誓を」
尚も馬鹿にした態度のリッカに誘導されショウリは試合開始の宣誓を口にする。
「———我、リクオウの戦士ショウリ=ニカイドウは愚かな従妹に制裁を下す!」
乗った。リッカは笑みを溢さないよう最後まで演技を続ける。
「———我、アルカンシェ王女の側近リッカ=ニカイドウは……我らの邪魔をしたと判断されたニカイドウ一族に対して制裁を下す権限を所望する」
互いの宣誓が終わった瞬間、リッカの姿が消えた。
その場にいた全員がリッカの宣誓内容に耳を疑い、思考が停止した。
唯一動けたのは、ショウリを窓口にして邪魔する勢力を牽制しようと、主たちを参考にしたリッカだけだった。
「ぐがっ!」
ショウリの隣から鈍い音と共に仲間の悲鳴が聞こえた。
「ウッ!」
振り向いた時にはすでにリッカの姿は別の場所に移っており、極大剣を振り抜き切っていた。
だが、聞こえた二人の姿が無い。
嫌な予感に視線を空に向けると、消えた二人が城下町の方へ吹き飛んでいく姿を視界に捉えた。
「やめっ!」
視線をリッカから離した一瞬でまたしても仲間が打ち上げられた。
しかも、相手の剣を緩衝材扱いして加減して吹き飛ばしているおかげで、胸骨や肋骨が折れる程度で済ませている。
落下にしてもLev.100ならば落下ダメージで死ぬことの無い高さに調整しているので死傷者が出ることは無い。
ただし、落下地点にある家屋への損害賠償などは、破壊した人物の一家が背負わされるだろう。
「そ、そんな宣誓認められるわけ無いだろうがっ!一度止まれっ!」
「何故?」
通りすがり越しに聞こえるリッカの声が疑問を呈する。
仲間の悲鳴と鈍い音の合間に挟まるリッカの言葉は続く。
「試合を、望んだ、のは、ショウリ、兄さん、ですよ? その、条件を、呑んだの、ですから、当然の、権利、です」
リッカの言葉を聞き終える間に仲間は全員、空の星へと成り下がってしまった。
ショウリは今になって戦慄する。一人になって初めて理解出来たのだ。
———思い上がっていたのは、自分達であった事に……。
「さきほどの唾……。この試合を持って清算させていただきます。———ショウリ兄さん」
痛いほどの寒気が身体を駆け抜けようとした瞬間、ショウリの身体に自身の剣が打ちつけられた。
極大剣の腹で得物ごと対象を叩き、野球を彷彿とさせる素晴らしい下半身の安定と腰の捻りで、一人残されたショウリの姿は仲間と同様に星となり消えてしまった。
訓練場に居た全員が、今の光景を前に言葉もなく絶句している。
リッカの動きが早すぎて移動を目視で追えなかったのだが、極大剣を振り青年組を打ち上げる姿だけが、何故かスローモーションのように脳裏に焼き付いている。
「リッカ……凄すぎ……」
アンズの声だけが訓練場にぽつりと零れた。
若者組はしっかりとその声を聞き取り、心の中では全力で同意を示すのであった。
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