閑話休題 -66話-[瘴気の亜空間③]
「まず、世界樹って知っているかしら?」
「幼木が世界のどこかで生えたり消えたりすると聞いている。
(クー、ゲートが俺の所に繋がるか確認してくれ)」
『(かしこまりました)』
世界樹と言えばファンタジー世界では当然のように出てくる大樹だ。
俺の来たこの異世界にも世界樹は存在してはいるものの、
デカデカとその存在をアピールしてはいなかった。
幼木の話は成長して記憶が少し戻ったアニマからもたらされた情報で、
曰く、Lev.100を超える為に幼木に成る[可能性の実]が必要なんだとか。
ちなみに幼木の見た目を描かせたところ、アニマには絵心が無い事がわかった。
「世界樹はすべての星に存在しているわけではなく、
世界の礎となっている星にしか存在していないの。
世界樹のある星は[クリティカルスター]と呼ばれ、その星さえ落とせば世界が崩れるようになっているわ」
「世界樹の幼木があるってことは当然、この星がクリティカルスターなんだろうな。
で? お前の言う世界っていうのはどこまでを指すんだ?」
『(お父様、ゲートが繋がりません。
そちらに苛刻のシュティーナが居りますか?)』
「(目の前に居てなんか知らんけど勝手に情報をくれてる。
危険はあるけど良い機会だから念話でそのまま内容を教えるからアルシェに伝えてくれ)」
『(かしこまりました)』
やっぱりその辺りはしっかり対策してやがったか。
苛刻のシュティーナ一人ならアルシェ達を呼んでいざとなった際に戦ってもらう事も出来たのにな。
まぁ召喚は出来るだろうが子供囲いから抜け出せないなら危険に晒すだけだし。
ともかく話を促して喋らせるだけ喋らせよう。
「世界とは一定空間内の箱庭を指すわ。
規模は様々で銀河が複数内包された世界も存在するわ。
そして、世界樹が星の表層に姿を現す条件はクリティカルスターの人類が3分の1に減ること。
この人類とは種族を問わず人と判断するすべてを指すわ」
「じゃあ出ない方がいいんだな」
「破滅は条件を満たして私達の世界の世界樹を顕現させたわ」
「世界の危機に対して世界樹が出てくるなら、相応の役割があるんだろう?」
星を守ってくれたり、死んだ3分の2を生き返らせたり、生き残った人類を全回復させたり。
そういう手を打ってくれるくらいは期待したい。
何しろ人類が3分の1になるなんて余程の事態なのだから。
「世界樹は世界の要ではあるけれど、基本的には世界を救う行動を取るのは人類なの。
世界樹が出来る事と言えば時間稼ぎをする為に生贄を1人選んでメンタルモデルを写し戦力とする事だけ。
あくまで防衛の為の手段であり解決は人類に託すことになっているわ」
「もちろんそいつは強いんだろうが、そのうえで破滅に負けた理由はなんだ?」
「破滅に通る攻撃が限られていて、その世界の人類には扱える者が居なかったのよ」
「精霊使い、もしくはそれに比類する魔法使いがいなかったってわけか……」
破滅が好んで瘴気を用いる事はこれまでで理解している。
さらに言えば魔力を消し去ろうとしている事も考えれば、
いままで飲み込んできた世界で多少の痛手を負ったからこその対処なのかもしれない。
確かに現状でも対抗できているとは言い難いが抵抗は出来ている事を考えると、
俺たちの世界はまだマシな状態と言える。
「そして、今この島で起こっている空間の亀裂は、
破滅に飲まれた世界がとある存在に引き寄せられていることが原因で起こっているわ」
「瘴気が漏れ出て瘴鬼が出て来る事実から信憑性のある話だな。
破滅に飲まれているならあっちは最悪全部が全部瘴気に侵されていると考えるべきか……」
苛刻のシュティーナが話す内容は確かに筋が通っていた。
細かな部分は飛ばして話しているだろうけど、
その点を線で繋いでいけば破滅の目的も彼女たち魔神族の正体も見えてくる。
「そろそろ時を止めるのも限界だし必要な情報は伝えられたと思うわ」
「これからも俺の前に立ち続けるのか?」
「もちろん、この世界に恨みはないけれど刃は向け続けるわ。
負けた私たちに自由意志は無いに等しい中で今回は最大級のグレー行為なの。
私達を止められるかは貴方に掛かっている。もっと自覚を持って頂戴ね、水無月宗八」
「最大限やれることはやっている。
最後まで俺が関わり続けられなくても後継者はちゃんと残すつもりだ」
「私は貴方に期待しているわ。
この星が……私に残された最後の時間だと考えているからこそ危ない橋を渡ったのよ。
裏切ったら許さないから。それと、ナユタをよろしくね」
哀愁と覚悟の決まる顔でその言葉を残し、
シュティーナは振るった大鎌によって開いた亜空間の中へと一瞬で消え去った。
その瞬間、時間停止を受けていた全員が飛び起き殺気を撒き散らしながら周囲を警戒し始める。
「にーにぃ!!」
『宗八!!』
「遅いわバカタレ!
もう消えたから警戒しなくていい!」
やっと動くようになった身体で上半身を起き上がらせる。
子供たちは起きて俺にしがみ付いていてちゃんと呼吸も鼓動も感じ取れたことに安堵した。
別室からはセプテマ氏がこちらに向かっている気配も感じられ、
俺は得られた情報をどう処理していくべきか頭を悩ませる。
「水無月殿!」
「魔神族が来ていましたがもう帰りました。
ソニューザ達は無事でしたか?」
「えぇ、気を失ったように眠っていました」
去り際に一瞬発した魔神族の殺気に時間停止解除後に反応したのだろう。
3人は飛び起き、エルダードワーフは寝たまま気絶をしたのか?
無事ならそれでいい。
『何があったのさ?』
「苛刻のシュティーナが島全体に時間停止を使用したらしい。
この島で起こっている事も魔神族関連って雑談をしに来ただけ…らしい」
「よくわからない話ですな。
何故、敵対している勢力が水無月殿に接触してきたのですか?」
「あちらも一枚岩じゃないのでしょう。
とはいえ、今回聞けた話はかなり実入りの良い話でした。
セプテマ氏の待遇も決まっていませんがご協力いただくことになるでしょう」
「島に関わる事でしたら、もちろん協力する所存です」
ひとまず、今の話はクーを通してアルシェ達には伝わっているだろう。
空間の亀裂や瘴鬼はおそらく他の場所でも確認されている可能性は高い。
うちの侍女諜報隊だけじゃ確実に手が回らないことは明白。
もっと量産型精霊使いを増やして世界中にばら撒かないと後手に回るぞ……。
「(集まれるお偉方で対処を検討したい)」
『(アルシェ様がすでに動き始めています。
現状の予定ではアスペラルダで会議を開くとの事です)』
「(わかった。一度そっちに戻るわ)」
『(お帰り、お待ちしております)』
あぁ、明日もやる事があるってのに。
今回も俺は徹夜をすることになるのだろうか?
それでも共有は早めにするべき内容なのは事実だし、ここは踏ん張って休日に好きなだけ寝るとしよう。
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