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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-
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†第12章† -35話-[VS苛刻のシュティーナ]

書き貯めは日常パートに戻ってからになりそうですね。

早く戦いが終わりますように…。

「なんだ、何もせずに待っていてくれたのか?」

「矜持は持ち合わせているもの。

 何より予定外のことの尻ぬぐいをしてもらったのだから」


 タルテューフォとエゥグーリアに無精を纏わせてから空へと戻ってくると、

 そこにはじっと待つ苛刻(かこく)のシュティーナの姿があった。


「じゃあっ!」

「死合いましょうかっ!」


 ガイィィィィィイン!!

 カァイイィィン!ガン!シャイィィンッ!キィィィン!

 シャンシャンガイィィィィィイン!!


 大鎌[アムネジア]と[処刑刀(エグゼキューター)]。

 それが打ち合い捌き合いから戦闘が開始される。

 最後の打ち合いに合わせもう片方の手で大鎌の柄を握った。


「ふん!」


 引っ張ってみたけど、駄目だな。

 本当に女かと思う程度にはビクともしない。


「イクダニム。貴男、女性から物を盗ろうとするなんて……」

「いや、魔神族から盗れれば戦力も落ちるしこっちでも使えて戦力アップするじゃん?」

「正義ならば正々堂々と戦うのではなくて?」

「俺的には別に正義の味方のつもりはないから。

 コレ頂戴よ」

「あげるわけないで!っしょ!!」


 おねだりしたのに蹴り殺されそうになった。

 というか、今更気付いたけどもしかして……。


「お前、空を飛んでるわけじゃないのな」

「飛ぶ必要がないもの。

 身体能力だけでどうとでもなるのだから」


 そう言って鉄棒の様に宙に浮く大鎌の柄を一回転して綺麗に座る。


 武器の打ち合いから感じる反動が明らかに固すぎると思っていたが、

 どうやら常に空間を制御して大鎌を威力やガード力を最大化していたらしい。

 ついでに彼女の言う通り身体能力が高ければ、

 姿勢制御や腕力だけで空中戦もお手の物だそうだ。


「《地竜一鎚(ちりゅういっつい)!》」

「危ないわね!《ディメンションディフェンド!》」


 油断とまでは行かなくとも戦闘に不向きな格好だ。

 そこで唐突に攻撃してみたが、

 鎌も使わず空間の断層を作って防御しやがった。


『空間能力は鎌の能力じゃ無いです?』

「さてな。時空属性担当の魔神族ならやっぱ持ってんじゃ無いの?

 あ、[破城鎚(パイルバンカー)]頂戴」

『《魔力刃(ブレード)展開》シフト:破城鎚(パイルバンカー)!』

「《波動(ブラスト)!》」


 再度[聖壁の護腕(ディバインラーム)]が装着された腕を引いて殴打の構えを取る。

 ついでに実験的に急遽創ってもらった[破城鎚(パイルバンカー)]で時空の盾を破壊出来ないかと思い打ち込んでみるが…。


「手応え無し、か」

『マスターやクーの扱う空間とはまた違う様ですね』


 なんと表現すべきだろうか。

 俺達の扱う空間はガラスとかプラスチックのように硬質なのに対し、

 シュティーナの扱う空間は殴っても感触も無く音も出ず、

 拳を痛める事もないのに勢いは一瞬でどこかへ消えさり、向こうに居る魔神族には届かない。


 ついでだ、アレも試しておこう。


「《邪魔だ!糞世界!ディスタービング・ワールド》」


 詠唱と共に握っていた拳を開き、

 五指の先でしっかりと空間の位置を認識する。

 そして徐々に力を入れていけば、

 なんと空間を隔てた防御魔法に無数の細かいヒビが走り、

 指が空間のソレを抉って貫通した感触があった時にはソレは砕け散ってしまった。


 その向こうでシュティーナが若干引きつった顔をしている。


「……空間を砕くって、貴男相当におかしいわよ?」

「そっちだって斬り裂いてるだろ。大して変わらん」


 こっちは以前に使用した[|消滅しやがれ!糞世界!《バニッシュメント・ディス・ワールド》]を小規模にした魔法だ。

 マイナーチェンジ? 下積みあっての今よ。

 まぁ、いつまでも元の世界のアニメのまんまだと著作権もあるしね。


 互いに一言づつ喋ると再び剣と鎌の斬り結びが始まる。


 斬り裂いて移動とかに使っている空間は亜空間扱いなのか、

 機能限定版では干渉出来そうに無いが、

 今の様な空間の一枚板みたいな奴なら無力化出来ることがわかったな。


 これでまた一つ魔神族の化けの皮が剥がれたわけだ。


『マスター、顔をどうにかして欲しいです』

「すまんすまん、ちょっと楽しくなってきた」


 こちらが前進して懐に踏み込めばシュティーナも後退をし、

 シュティーナが前進して攻勢に出ればこちらが後退をしてと一進一退の攻防が空中で行われている。

 それを足場を制御しつつあの魔神族と斬り合えているという現実が俺を興奮させたのだ。

 多少悪い顔で口角が上がっても許して欲しい。


「《フラグディメント!》」


 ん!?


「《聖壁(せいへき)!》」

『マスター!避けてっ!!』


 不可視なのは当然ながら何かが飛んでくる。

 俺は絶対の信頼を置くシールドを展開するもノイが何かを感じ取ってか回避を指示する。


「っぶねぇ!サンキュー、ノイ!愛してる!」

『はいはい。ボクも愛してるですよ。

 まだ飛んでくるですから早く動くです!』


 聖壁(せいへき)の後ろからズレた瞬間。

 何かが通り過ぎた瞬間に聖壁(せいへき)は魔力へと還元されて霧散する。


 つまり飛んできたのは空間の破片らしい。

 今まで接してきた空間が切り開いたり設置した後は動かなかったのに対し、

 今回苛刻(かこく)のシュティーナが撃ってきたのはどんな威力を持っているかも未知数の空間魔法だ。


 クーの[月虹(げっこう)]の射撃Ver.と思えば当たるわけには行かないだろう。


『《守護者の腕(マイストガーディアム)!》』


 直接攻撃の為では無くシュティーナが大鎌を振り回せば、

 周囲に不可視の破片が生成されていく。

 その全てが空間ごとを切断する防御力無視の攻撃だ。


「行きますよ、イクダニム。

 しっかりと楽しんでくれるといいのだけれど」


 うるせぇな!憂いを帯びた顔しやがって!

 ゴチャゴチャ言ってねぇでさっさと撃てや!


『来るです!』

「《邪魔だ!糞世界!ディスタービング・ワールド》」


 複数の気配のみがこちらへと射出された。

 ただし、真っ正面からそんな危ない攻撃を受ける俺では無い!

 俺の腕の動きに合わせて岩の巨腕も指先に力がこもっていく。


 ピシッ!ピキキキキキキキキィ…と音がした。

 巨腕の各指先から空間に走るヒビは広がっていき、

 自らの手でやった規模より広範囲に影響をもたらす。


『我がマスターながら頭おかしいです』

「はっはっはぁ~っ!

 当たらなければどうという事はないのだぁ~!!」


 バリンッ!


 俺の制御力の及ぶ範囲の空間内に届いた破片が諸共に砕け散り、

 その様と俺の様子にノイが呆れた声を零す。

 しかし、目の前の光景を見届けたあとも破片の生成を続けたシュティーナの第二弾が射出される。


 ヤベェ!回避!!!


「忠告よ、イクダニム!

 確かにそれは私に有効かも知れないけれど、

 連続で使えなければ意味は無いわ。

 そして、ようこそ。私の《ラビリンス》へ」


 攻撃の手を止めたシュティーナ。

 だが、彼女の言う言葉の意味も理解してしまっている。

 今の回避行動で俺達は彼女の支配する空間に脚を踏み入れたって訳だ。


「不可視の迷路か……。

 俺だからこそ√らしい√もわかるけど、

 他の奴じゃ方向感覚が無くなって出口まで辿り着けないぞ」

『そもそも出口あるです?』

「出口はあるわよ。

 ただし特定の壁は別の空間に繋がっているから、

 どんな√を自分が通ったかなんてわからずそのまま死ぬのがオチね」


 さてさて。ここに来てシュティーナの考えが読めないな。

 この[ラビリンス]は破片と同じように空間の板を組み合わせて創られた迷路だ。

 つまり一枚ずつだったり広範囲に破壊する術を持つ俺を閉じ込める意味がない。


 それに迷路と言うだけあって曲がり角が多い。

 俺の[魔力縮地(まりょくしゅくち)]は長距離移動がメインなので普通に相性が悪い。

 壁にあの速度でぶつかれば大ダメージは約束されている。


 さらに空を跳ぶ事で空中戦も無理矢理成立させていて、

 その場で止まる際のみ空間を固めて足場をこさえている。


「貴方はいつまで耐えられるのかしらね?」


 そう言い放って大鎌を構える。

 つまり、そういうこと?


「面倒な事になった!」


 シャイインッ!カカン!カン!シャイシャイイィィィンッ!!


 脱出をする為には空間の破壊が必須。

 ただ、俺の制御力では進みは遅々としているから、

 空間を進んでゴールを目指すという手もある。

 しかし、空間を越えてシュティーナの凶刃が常に襲いかかる状況ならどちらにしろ脱出はかなり難しい難題になった。


苛刻(かこく)……。さいなむ、じかん、ですか。

 あの表情を見ればこれが本性なのですね』

「《邪魔だ!糞世界!ディスタービング・ワールド》」


 本当に、本当に愉しそうな笑みを浮かべて攻撃を続けるシュティーナ。

 普段の飄々とした食えない態度とは違う。

 この空間を斬り裂いて刃先が俺を狙う攻撃方法から考えると、

 より大規模な[|消滅しやがれ!糞世界!バニッシュメント・ディス・ワールド]を発動する為の前準備の段階で構築を潰されるだろう。


 ピシッ!バリンッ!!


 この[ラビリンス]に関してもだ。

 感覚からルービックキューブ状の空間に閉じ込められているから、

 脱出するならどの方向でも良いから一直線に移動するのがセオリーだ。

 シャイン!シャイン!カイイイインッ!


 しかし、一瞬に近い速度で発動したこれの造り替えをシュティーナが出来ないとは言えん。

 外に近付けば不要な部分を削除し、

 また、捕らえた獲物が中心に来る様に調整が出来るのでは無いか?


 ピシッ!バリンッ!!


 とはいえ、現状はこれ以上のやりようがない。

 面白くもないけど地道に脱出を目指そう。

 なんてな!

 んな面倒なことをちびちびやってられるか馬鹿野郎!


 ベクトルを変えて範囲を調整して無駄な範囲は減らして、

 余った制御力で破壊範囲の直線を伸ばそう。


 大鎌の遠隔攻撃は片手剣の[処刑刀(エグゼキューター)]で十分捌けている。

 多少受け損なって斬られてもHPが二割減る程度だし、

 身体には痣が出来る程度で骨までは折れないから気にしなくても良い。

 意識は[聖壁の護腕(ディバインラーム)]に覆われた左手。

 こっちの指先でデコピンの構えを取り、

 イメージの中で不要な範囲を削除し、余った制御力を前へ前へと意識する。


『イケそうです!』

『(宗八(そうはち)ぃ~!!)』

「《邪魔だ!糞世界!ディスタービング・ワールド》」


 なんかニルの情けない声が聞こえた気もするが、

 今は自分のことで精一杯なので一旦保留にして空間破壊を発動する。


 バキンッ!パシピシパキ……バリバリバリバリリバリバリバリ!!!!


 多くの方には理解出来ないだろうが、

 今目の前に何層も存在した空間を隔てる不可視の壁が一直線に破壊された。

 いや、破壊したんだけど。


『自分語りしてないでさっさと抜けるです!』

「あ、はい」


 再構築される前に[魔力縮地(まりょくしゅくち)]で一気に抜けてしまう。

 意外に[ラビリンス]が小さかったのか、

 はたまた意外と時間が掛かっており外に近付いていたのか…。


「抜けたな」

『空気感が違うですね。

 シュティーナの遠隔攻撃が止んでいるのが謎です』


 シュティーナを見れば空を見上げてボソボソ何か言っている。

 何々?珍しい?

 あっちの方向は……そういえばニルから情けない念話が来ていたな。


「(ニル~、呼んだかぁ~?)」

『(宗八(そうはち)ぃ~♪もう少しでニル、泣く所でしたわー!)』

「(パカタレ。戦闘中に泣いちゃ駄目だろうが)」


 なんかヤバイ事になってんのか?

 遠すぎてアクアが居ないと遠距離を見通す事が出来ないってのに。

 遠目に見ても魔神族特有の怖気を放っている。


『(だって、ニルは姉様達みたいに加階(かかい)が足りていませんもの-!

 アーティファクトも無くて制御力もカツカツですわよー!!)』

「(確かにアレはヤバイだろうな。

 シュティーナも珍しいとか言ってたし)」


「(制御力だけでいいならボジャ様とシンクロすれば持ち直せるだろ)」

『(おー!すっかり忘れていましたわ-!

 そういえば、マリエルがボジャ様と仮契約していましたわね-!)』


 まぁ、忘れても仕方ない。

 日頃から契約しているなら当てとして頭の隅にあっても、

 今回だけの出血大サービス協力だからな。


『(でも、後方は禍津核(まがつかく)モンスターが湧いていましたわよー?

 ボジャ爺から制御力を分けて貰って大丈夫ですのー??)』

「(ゼノウとセーバーがカバーに入ったから大丈夫だろ。

 ヤバかったらちゃんとボジャ様は言うよ)」

『(わかりましたわー!マリエルに伝えてすぐになんとかやってみますわー!

 終わったらニルもマリエルもいっぱい褒めて下さいましー!)』

「(はいはい、デートもしてやるから頑張れよ)」


 最初の情けない声はなんとやら。

 念話が切れる頃にはやる気に満ちた声になっていた。


『わが妹ながらニルは単純な子だと思うです』

「元気に育ってくれりゃえぇんじゃ」


 さてさて、そろそろあっちも意識を戻しているし続きと行きますか。


「イクダニムの仲間の女の子凄いわね。

 メルケルスを殺る気にさせるなんて」

「教え方が良いからな。

 お前も今日は魔法も使ってきたし殺る気になってるんじゃないか?」

「あ、そうそう!

 ラビリンスの脱出おめでとう!脱出に成功したのは貴方が初めてよ!」


 うるせぇな。ってか勇者はまだダンジョンクリア出来ねぇのか。


「ずぅぅぅぅぅぅっと前に王都を丸ごと閉じ込めて見たんだけど、

 私が手を出さずとも一ヶ月も持たずに全滅したのよ。

 アレはつまらなかったわね……」


 王都丸ごと…。想像するだけでゾクっとするな。

 今回の[ラビリンス]が遊びだったのかこっちの力量でも試したのか、

 いずれにしろ小規模で良かった。

 ここだって王都なんだ。同じ事が起これば確実に死人が大量に増えてしまう。


 俺に集中させないと何をするかわからん怖さがあるな。


「竜の魔石が使えない以上致命傷は与えられない。

 波動(ブラスト)の可能性を追求するって建前で頑張ってみるか」

処刑刀(エグゼキューター)を解除して両手を聖壁の護腕(ディバインラーム)にするです』

『(宗八(そうはち)

 体力も半分まで減っているのですから注意して下さい)』

「(全快まではどのくらい?)」

『(まぁ5分程度ですかねぇ。

 先ほどは仕方ないとはいえ被弾しすぎですから気をつけて下さい)』


 アニマの回復で間に合っているならやっぱり骨までは達していないな。

 どっちにしろ青あざ程度なら[精霊の呼吸(エレメンタルブレス)]のおかげで痛みで鈍ることもない。


「もう、あまり時間もないんだろ?」


 城の方向から嫌な脈動を感じる。

 禍津核(まがつかく)モンスターにしても嫌な予感がビンビンとして胸くそが悪いから間違いないだろう。


「そうね。私の予想でもそろそろだと思っているわ」

「じゃあ、次は俺に付き合ってもらえるよな?」

「珍しくお誘い?面白いなら付き合ってあげても良いわよ」


 それでは遠慮無くっ!!


 大鎌を油断なく構えるシュティーナは守りを固めて様子を見るらしい。

 魔力縮地(まりょくしゅくち)で一気に近接まで持ち込むが、

 シュティーナが目を見開いて驚いている顔を冷静に見ながら振りかぶった拳を彼女に向けて振り落とす。


「ちょっ!?」

「《惑星砕き》」


 ゴアイイイイイイイインッ!!!


 本能に全てを任せて攻撃にのみ意識を向ける。

 いや、何も考えていないだけなんだけど、

 攻撃に用いる[惑星砕き]は対シュティーナ用に構想していた魔法だ。

 当然、[邪魔だ!糞世界!ディスタービング・ワールド]も含まれた1撃となる。


 本来なら減速も考えて丁度良い魔力縮地(まりょくしゅくち)も今回は本能に任せているので減速せずに勢いも攻撃力とする為に突っ込んだ。

 これにシュティーナは驚いたわけだ。


 大鎌[アムネジア]に施されていた空間魔法を破壊されたシュティーナは驚きながらも防御はしっかりと取り、拳を柄で受け止めた後は高度を落として落下していく。


 その後を追って魔力縮地(まりょくしゅくち)で前進を回転させながら拳を振り下ろす。


「《惑星砕き(スイシーダ)》」

「2撃連続でまともに受けないわよっ!!ぐっ!重~いっ!」


 再び拳を受け止めた魔女の大鎌。

 文句を言いつつちょっと本気を出した魔女に時空の支配権を奪われ、

 大鎌に掛けられた空間固定の術は突破出来なかった。


 代わりに鎌の周りの空間が砕け、

 眼下の城下町に広がる瓦礫の山がガラガラと大量に崩れる。


『もう体勢を整えたです!』

「《地竜一槌(ちりゅういっつい)》」


 ドッ!!

 そのまま撃ち放つ高濃度一鎚(いっつい)だが、

 竜の魔石を使わずの一撃では所詮目くらまし程度にしかならない。

 放射の勢いでわずかに大鎌から拳が離れた瞬間に両手を重ね合わせて魔力を収束する。


「《高濃度魔力砲(ドルオーラ)》」


 ドンッ!!

 目くらまし中にさらに威力のある攻撃を放ち追撃を加える。

 空間を移動した気配はしないし、

 確実にこの放射の中に存在したままだ。


 アクアが一緒ならさらに魔石を利用した高濃度一槍(いっそう)などを撃ち込んで霹靂(へきれき)のナユタを追い込んだようなコンボをブチ込むんだが、

 今はノイと一緒なのでそうもいかない。


 脳内は冷静に状況を見られているが、

 本能に任せた身体はそのまま地上を目指して落下を開始する。

 しかし、今までの戦闘経験に任せた本能プレイが意外にシュティーナの虚を付けているっぽくて面白いかも知れない。


『いやいや、力任せが過ぎるですよ。

 ボクが一緒じゃなければ成立しなかったゴリ押しじゃないですか』


 やけん、今やっとるやろがい。


「《惑星砕き(スイシーダ)》」

「はいはい、二回目だから余裕余裕」


 キシャァアンッ!ドッ!!バキバキバキバキッ!!!!

 さっそく速いだけの直線的な攻撃が見極められて捌かれた。

 結果。地面に打ち込んだ部分を起点に周囲の大地が割れたり捲れたりと大変な状態にバラバラと崩れてしまう。


「はっ!」


 続けて隙の出来た俺に向けて形勢が逆転したシュティーナが攻撃を仕掛けてくる。

 もちろん、いつもの鎌の先のみ置換して背後からも刃が襲ってくるのを継続して本能のままめちゃくちゃな体捌きと両腕の聖壁の護腕(ディバインラーム)で被弾しないように守りに入る。


『マスター、お遊びはここまでです!』

「時間稼ぎにはなったし良いテストだったろ。《惑星砕き!》」


 主導権を本能から理性が奪い返した頃、

 地面からの振動を感じ取っていた俺は終わりを予感してシュティーナを殴り、

 その反動で距離を開く。


「時間切れね」


 砕かれ隆起した大岩に着地したシュティーナは大鎌を降ろして呟くと、

 足下の小さな石が震え始める。

 そのまま揺れは強くなっていき俺が砕いた大きな石も大地の欠片も揺れに耐えられずにさらに崩れ転がる。


 …ゴゴゴゴゴゴゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ !!!!


『始まったです……』

「城が樹木に吸収されていく…。

 あれがキュクレウス=ヌイってことか」


 ツタで封印状態にあった城は、

 さらに太く逞しいツタで覆われた後に地面から急成長をする樹木に飲み込まれて辛うじて(ウロ)が入り口っぽくなっている。


「はい、私のお役目はここまでね。

 あとは元から相手をしている隷霊(れいれい)のマグニとアレに任せて退かせて貰うわ」

「他の魔神族も連れて行けよ」

「私が何か言わなくてももう退いて良い頃合いだわ。

 今回は色々と面白いものを視られたし私的には満足しているから、

 次に会う時は初めから本気で行ってもある程度耐えられそうね」


 面倒くさそうに片手を振ってお仲間の撤退は確定事項のように話すシュティーナ。

 最後に妖艶な笑みに加え、

 胸の間に大鎌を挟み込んだ非情にエロい格好で恐ろしいことを口にする。


「なぁ、お前らは何を目的に行動しているんだ?

 破滅はもうこの星に着いてんのか?」

「破滅の将の目的はたったひとつよ。

 その為に虐殺や混乱を起こす為の準備やちょっかいを出しているの。

 最終的にココってラインまで出来ればお役目ごめん。破滅の登場ってわけね」

「そこまでは言わないか」

「言っても良いんだけどね。

 抵抗されて邪魔ばかりも良くないわけだから、ね♪」


 ちっ!

 確かに破滅の呪いで人々が危機感を懐かなかったとしても、

 街や世界的に見れば徐々に自然に循環している魔力は少なくなっていたり、

 フォレストトーレの様に気が付けば廃墟になっていたなんて事もある。


 混乱を引き起こしている、虐殺をしているってのが己が手だけでなく、

 瘴気などの間接的な状況すら利用するってのが繋がりを分かるづらくさせる原因だな。


「じゃあね、イクダニム。また逢いましょう♪」


 そう言い残して空間を裂いたシュティーナは、

 ひとプロジェクト終えたサラリーマンのようにさっさと退場していった。


 はぁ。やっと空気が軽くなった。

 ただし、次は別の意味で重いため息が続けて出る。


『(怪我はありませんね。体力も様子見している間に回復出来ます)』

『どうするです?』


 とりあえずは仲間の状況確認かな。

 ほら、もう連絡が入ってきてる。


『(ますたー、終わったよぉ~!そっちに行くねぇ~!)』


 ピリリリリリリリ、ピリリリリリリリ!

[マリエル=ネシンフラから連絡が来ています][Y/N]


「はいはい」

〔隊長…、片脚折れたんですけどこのまま続行しますかぁ?〕

「すぐクレアに治して貰ってこい!」


 マリエルとニルには教国へ治療に行くことを指示した。

 アルシェとアクアはこのままこっちに合流すると念話が届いたことから怪我らしい怪我はないのだろう。

 あとはメリーとクーか。

 あいつらには滅消(めっしょう)のマティアスVS拳聖(けんせい)&聖獣の戦いを見守る様に伝えていたから同じように終わっているなら報告もすぐ入ってくると思うが……。


『(お父様、マティアスが撤退致しました)』


 ほい来た。


「(お疲れ様。こっちもシュティーナが撤退した。

 あと、マリエルがメルケルスと戦って脚を折ったからクレアの元へ行かせた。

 クーとメリーは無事か?)」

『(申し訳ありません、お父様。

 拳聖(けんせい)とヤマノサチだけでは対応が足りないと感じましたので、

 観察ではなくリッカさんと共に参戦いたしました)』

「(……怪我をしたのか?)」


 アレの相手は俺ですら出来れば遠慮したいほどの暴力だ。

 だからこそ拳聖(けんせい)や聖獣に任せたというのに、

 まさかクー達も参戦しているとは思ってもみなかった。


『(報告もしなければならない事が多いのですが、

 現在はメリーさんが気絶中。ユニゾンもしたままなので両手がズタズタになってしまい泣きそうです)』

「(ユニゾンを解けばクーの感じている痛みは無くなるだろ。

 メリーも気絶しているなら今のうちにお前達もクレアの世話になれ)」

『(――っ!クーとしたことが失念してました……)』


 相当な戦闘を行ったのだろう。

 普段の冷静なクーならすぐに思いつきそうなもんなのに失念していたとは…。

 とりあえず生きているなら何とでもなる。

 その為の俺でありその為の聖女だ。


『(ご助言ありがとうございました、痛みから解放されました。

 クーはメリーさんとリッカさんを連れてクレアさんの元へ行けばいいですか?)』

「(タルテューフォも連れて行ってくれ。

 治療が終わったら影からニル達と一緒に合流しろ。

 アルシェとアクアは俺と一緒に行動する)」


 怪我の報告はメリーだけだが、

 タルテューフォも怪我をしているなら万全を期しておいて欲しい。

 あのデカブツの相手をする際に使える物は何でも使いたいからな。


『(かしこまりました。

 お父様も無理をなされないで下さいね)』

「(あぁ、また後でな)」


 ひとまずはこれでいい。

 あとはアルシェ達を合流して各国と対処について軽く詰めて、

 退避が必要な奴らの援護から撃破まで持っていかないと行けない。


『アクア達が見えたです』

ブルー・ドラゴン(フリューネ)も問題無さそうだな」


 さって、禍津核(まがつかく)を早めに見つけ出さないと、

 捕らえられた風精の命がいつまでも持つのか……。

 俺は規格外に大きく育った[キュクレウス=ヌイ]を遠目に眺めながらも、

 現世では見たこともない化け物を相手に勝つ算段を考え始めていた。

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