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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-
210/430

†第12章† -30話-[戻る聖獣、集う魔神族]

戦闘パートに入った=執筆が遅くなる=書き貯め出来ん!

 フォレストトーレ解放戦が始まって五日目の朝を迎えた。


 決戦のタイミングが決まれば、

 あとは俺達夜勤も[文字魔法(ワードマジック)]を使用して無理矢理時間を合わせてアルシェ達日勤と共に目を覚ます。


「寝過ぎにも寝不足にもならないように調整したけど、

 朝は朝でやっぱ眠いわ。ふわああああああああああ・・・」

『ふわああああああああ・・・』


 あらあらうふふ。

 普段しっかりしているノイも睡眠時間が短かったこともあって欠伸をしている。


『なんです?』

「可愛いなぁって」

『アクアなら喜んだですけどねぇ・・・』


 照れちゃってぇ。


 さて、気を引き締めないといけないのも確かなんだよな。

 周囲を見回して状況の確認をする。


 まず開戦時に破壊したオベリスクの残り、火の国方面だが、

 これは教国と土の国が協力してこの5日の内に掃除してくれた。

 おかげさまで決戦時において魔法の使用に不足はなくなった。


 次に兵士達だが、

 その多くは王都の外で待機しており、

 状況次第で動いて貰う事になる。

 これは3カ国とも同じなのだが、

 オベリスクが無くなった関係で三方面の位置づけも調整している。

 完全包囲という奴だ。


 嘘である。


 3カ国の間には数㎞の隙間も空けているので完全包囲では無い。

 流石に王都は広すぎだ。


 次に王城を囲むように配置されているメイン戦力。

 まぁメインと言っても隷霊(れいれい)のマグニは突入班の勇者PT+@に任せるとして、

 (もっぱ)ら中位階風精霊を用いた瘴気禍津核(まがつかく)モンスターの相手をするメンバーというわけだが・・・。


 アスペラルダは、

 俺・アルシェ・マリエル・メリー・ゼノウPT・セーバーPTといつもの面々。

 あとウチの娘達な。ついでに竜も。

 スィーネやボジャ様、ポシェントにヴィルトゲンは基本的には俺達のサポートだが、

 もしも後方で問題が発生した場合はそちらに回って貰う予定だ。


 ユレイアルド神聖教国は、

 枢機卿が5名、アナザー・ワンが5名が1+1でチームを組んで5セット。

 防御に重きを置いた枢機卿に動きの素早いアナザー・ワンの組み合わせなら大抵の事はなんとかするだろう。

 聖女クレアを教国に戻すかも含めて検討いただいたが、

 やはり勇者然り有望な人材を失う可能性も考えると居た方がいいとの判断を教国が下した。


 まぁその分、護衛のクルルクス姉妹の責任も重大になった。

 いざとなった時用にサーニャには[揺蕩う唄(ウィルフラタ)]を渡している。

 クレアも持ってはいるが、

 自国だけではどうしようもない魔法的な救援が必要な時の判断は付かないだろう。


 アーグエングリンは、

 ファグス将軍は全体の指揮を執り後方に控えるので、

 他の将軍達が9名城下町に入っている。


 あと、各国の精霊たちだが、

 光精は前線に同行して残る瘴気を浄化。

 土精は城下町の外周ギリギリに配置して、

 中から外へ、外から中への問題の持ち込みを遮断する役割を持つ。

 ウチのヴィルトゲンもこっちがメインかな。


 闇精は後方兵士の方面に配置した。

 現れた瘴気モンスターの攻撃範囲が広くて守り切れないなら、

 足手まといになる兵士諸君を自国に帰そうと思ったわけだ。邪魔になるし。

 なので小さい入り口のゲートを設置しておき、

 いざとなれば闇魔力を込めれば入り口が大きく展開するようにした。

 流石に閉めるのは俺かクーの力が必要だけどな。


〔勇者、突入準備完了しました〕


 やっとかい。

 場内の√はラフィート王子から大雑把な地図も貰っているはずだし、

 1時間も経たずに謁見の間まで進めるんじゃないかな?


 そこで2時間も戦えば隷霊(れいれい)のマグニを討伐完了。

 そして帰宅と考えれば夕方には解散出来そうだ。


『そんな簡単には行かないですよ、どうせ』

「希望くらいは妄想させてくれ」


 一応周囲への警戒はしているけれど、特に妙な気配もない。

 あれから他の魔神族もちょっかいを出してこないしどうなってんのかね?


〔隊長、後方で何か起きてるみたいですよ〕

「何かって何だよ・・・」


 そんな暇な時間を満喫している俺にマリエルからの連絡が来た。

 王城から視線を剥がして報告のあった後方とやらを見渡すが兵士達の配置も綺麗に整列していて問題が起こっているようには見えない。


 しかし、視界の上部に異常は映っていた。


「マジで何か起きてんな」

『土煙が遙か後方の森から上がってるですね』


 俺の制御力じゃあそこまでズーム出来ん。


「アルシェ!土煙のところを見てくれ!」

〔わかりました、少々お待ちを〕


 このタイミングというのも面倒だな。

 勇者もさっさと突入してくれればあれの調査にさっさと乗り出すってのに。

 あくしろよ。


〔勇者、突入します!〕


 いってら。


〔お兄さん!タルちゃんが居ますよ!

 トレントと戦っている様子です!〕

「タルテューフォ!?

 とと様と一緒に森に帰ったんじゃ無いのかよっ!」


 何をしているか知らないけど、

 場を混乱させない為にも早めに回収するべき案件だな。


〔隊長!城がツタに覆われていきますよっ!〕

「はぁ!?次から次になんだマジで!?」


 タルテューフォの回収に思考を割こうとした瞬間。

 次は城に注視していたマリエルの言葉に従い異常が発生した城に目を向けると、

 城の根元から全体を覆うようにツタが異常な速度で成長していく様が見て取れた。


「ちっ!フラム!」

『はい!』

「《火竜一閃(かりゅういっせん)っ!!》」


 疾る一閃は城壁に命中し、

 ツタの一部も燃やし切断まで達することが出来たが、

 ツタ同士互いが絡まることでその場から落下などもせずに切れた端から再生を始める。


 瞬く間に王城全体はツタの結界で覆われ、

 城門も固く閉ざされているのか、

 他国の数人が門へ駆けつけて事に当たっているが改善の様子は見受けられない。


「アインスさん!勇者の安否は!?」

〔直接繋がっているのはプレイグさんですが、無事と報告はいただいています。

 どうやら内部はダンジョンに成っているようで・・・〕

「脱出魔法の[エクソダス]も使えませんか?」

〔既に試されて効果が無かったようです。

 普通のダンジョンとは違うということでしょうか・・・?〕


 どこかで苛刻(かこく)のシュティーナの力が働いてはいると思う。

 空間を越える魔法が使えないなら奴しかいない。

 ただ、こっちを考えるよりも先にタルテューフォが気になる。


「生きているならダンジョン攻略を進めさせましょう。

 初めての攻略なら[ガーディアン]も居るでしょうし、

 ダンジョンランクもギルド総出で把握を急いで下さい。

 ガーディアンの後は魔神族なので体力の把握や調整も注意するようにと伝えて下さい」

〔かしこまりました〕

「アルシェ!タルテューフォの迎えに行ってくる!

 何かあれば指揮を頼む!」

〔わかりました。タルちゃんをお願いしますね〕


 後は一応クー達にも見て貰っておこう。


「メリーは城壁の調査を頼む。

 セリア先生は植物を見て貰えますか?」

〔かしこまりました〕

〔専門ではありませんが見てみますわ〕


 一通りの指示出しを終えたら(きびす)を反して城下町の外へと自身を弾き飛ばす。

 一瞬で過ぎ去る視界の端には、

 ゼノウPTとセーバーPTがさきほどまで居た位置からダッシュでスィーネ達が待機するラインまで移動を始めたのが見えた。


 特に指示はしていないが、

 何か懸念があっての行動だろう。

 うちは遊撃に重きを置いているので、

 考えがあってあいつらのPTが動く分には何も言うつもりは無い。


 城下町の周囲に存在する木々は加工品を制作する仕事の関係上、

 それなりに数は少なくなっていた。

 その少ない木々を視界確保の為にさらに俺達が伐採し、

 森と呼べる密集地まではかなりの距離があった。


 さらに言えばアルシェの言う通りトレントと戦っているのならばおかしいのだ。

 確かに森が多い地域には野生のトレントも発生しやすい傾向にある。

 しかし、いま視界に捕らえているトレントは集団なのだ。

 それも5体や10体ではなく森全体からその気配を感じることが出来る。


「どおぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」


 今も大樹がトレントへと変化を起こし魔物と化した。


「何が起こってる・・・?」

『マスター!倒すのは後回しで猪を拾って戻るですよ!』

「わかってるよ!タルテューフォっ!!」


 全力の魔力縮地(まりょくしゅくち)で飛んできた俺にそのままトレントの森へと突入し、

 通り過ぎ際にトレントへと斬り付けるが切断には至らず表面に傷を付けるに留まった。

 何コイツ、固っ!


「どっかああぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!

 ん?あ!にーにぃだ!おーーい!!」


 名を呼ばれた当の本人のタルテューフォが普通に嬉しそうな顔で手を振ってくる。


「おーいじゃない、馬鹿!」


 ポカッ!


「痛ーいっ!」

「事情を聞く前に一旦ここを離れるぞ、掴まれ!」

「お手伝いに来たのに酷いんだよぉ~!」


 文句を言いつつも抱き着いてきたので腰に手を回してそのまま後ろに弾き飛ぶ。

 重っ!?

 こいつ、よく見たら何か大きめの片手斧持ってやがる。


「なんだソレ」

「ん~?これ?

 とと様のお下がりでタルの武器、だよ!」

「なんでお前戻ってきたんだ?」

「かか様達が途中で待っててくれてね、

 とと様が黒いのをなんとかしようとしているにーにぃを手伝って来いって送り出してくれたんだよ!」


 ピリリリリリリリ、ピリリリリリリリ

[セリア=シルフェイドからの連絡です][Yes/NO]


 抱えたタルテューフォに負担の掛からない程度に速度を抑えた魔力縮地(まりょくしゅくち)で城下町へ戻る途中、突如コールが鳴り出す。

 迷い無くYESを速押しする。


「何かわかりましたか?」

〔単刀直入に伝えますわ。

 状況から推察するに[キュクレウス]がどこかにいると思われます。

 森がトレントへと急速に変化するのはマザーとなるキュクレウスという魔物が原因で間違いはありません〕

「じゃあ、この森のどこかに居るマザーを倒せばいいんですか?」

〔残念ながら簡単では無さそうですわね。

 アルシェ様にご協力頂いて周囲を見回しましたが、

 アスペラルダ後方だけではなく城下町がトレントの群れに囲われている様子です〕


 って事は教国もアーグエングリンも同じ状況か。

 そういえば、さっき斬り付けた際に刃が通らなかったんだよなぁ。


「すみませんセリア先生。

 トレントに剣で攻撃したときに効果が薄かった理由はわかりますか?」

〔今はノイと一緒でしたわね。

 ならば、属性の相性でしょう〕


 なるほど、今まではゴリ押しでなんとかなっていたけど、

 相性が悪くて効きが悪かったのか。

 トレントは確か風属性だから、土属性の武器である[処刑刀(エグゼキューター)]ではダメだったわけか。


「そういえば、ノイの武器で戦うのは今のが始めてか。

 つくづく運がないな」

『ボクの所為ではないから余計に腹立たしいですよ!』


 最初の仕事は地面を切ること。

 2番目の仕事が効きが悪い。

 かわいそうなくらいに運が無いな。


〔話の続きですが、

 私の知る[キュクレウス]であれば森の一部をトレントに出来ても、

 全体をトレントにする事は出来ないはずですわ。

 それに各国の後方にそれぞれ[キュクレウス]が突然発生するなどおかしいと思います〕

「確かに、もし上位の魔物だとしてもそれぞれの後方で出現するのはおかしいですね」

〔それに[キュクレウス]は戦闘能力がほぼ無いので、

 気配を察知するのが至難なのですわ。

 上位だとしても度が過ぎていることを含んで考えれば自然と答えに行き着きませんか?〕


 え~と、つまり・・・。


「王城を包んだツタも、

 周囲で発生したトレントの群れも全ては囚われた風精霊を媒体にした禍津核(まがつかく)モンスターの仕業だってことですか?」

〔少なくとも私はそう考えましたわ〕


 セリア先生と俺の予想が正しければ、

 風精霊の命の灯火もカウントダウンが始まった事になる。

 最悪、先に倒さないと勇者とは分断されっぱなしかも知れないな。


「じゃあ、それだけの力を持つ魔物に心当たりはあるんですか?」

〔所詮は予想でしかありませんが、

 おそらく[キュクレウス=ヌイ]ではないかと・・・〕

「ひとまず、アインスさんへ[キュクレウス=ヌイ]の情報を伝えて下さい!

 何も知らないよりはかなりマシになります!」

〔わかりましたわ〕


 揺蕩う唄(ウィルフラタ)の切電を行う頃には城下町も目と鼻の先だった。

 さてと、どう動くべきかな。


「アルシェ!」

「お兄さん!タルちゃんも無事で良かった・・・」

「ねーねぇ?でも、見た目と匂いが違うんだよ?」


 城下町に戻ってすぐにアルシェの元へと戻る。

 アルシェは当初予定していた俺の代わりとしてブルー・ドラゴン(フリューネ)の協力を得て空に上がっていた。


 マリエルも近くに浮かんで護衛をしている。


「今はアクアちゃんと一体になっているからね」

「へぇ~、人間ってこんなことも出来るんだね。びっくりだよ!」


 タルテューフォの勘違いを正すのも面倒だし放っておこう。


水無月(みなづき)君、戻りましたわね』

「お帰りなさいませ」

「調査ご苦労様でした、メリー達も報告を頼む」


 俺が戻ったのを察してセリア先生とメリー達もブルー・ドラゴン(フリューネ)の上に上がってくる。

 フリューネから不満そうな鳴き声が漏れ聞こえてくるが、

 とりあえず聞こえない振りをしてメリーの報告に耳を傾ける。


「ご主人様の懸念の通り、

 ツタの他に城全体が空間障壁で守られておりました」


 空間障壁とは、

 時々俺が使っている空間を固めて足場とする制御力を防御として利用した場合の言い方だ。

 俺達はまだ広範囲に制御出来ないから防御としては扱えない。

 せいぜいが足場を固めることしか出来ない。


「じゃあ壊せるか。

 でも先に[キュクレウス=ヌイ]を探し出して倒さないと勇者に合流は出来ない」

『そういうことですわね』

「ですが、どうしますかお兄さん。

 話を統合すればおそらく城の地下ですよね?」


 空間障壁は[|消滅しやがれ!糞世界!《バニッシュメント・ディス・ワールド》]で壊せるだろう。

 ただ威力の調整や細々とした制御はまだ自信はないから、

 城ごとぶっ壊す可能性がかなり高い。


 他の方法はどっかで高みの見物しているであろう苛刻(かこく)のシュティーナを撤退させるくらいか?

 そして、優先させたいのは風精霊の解放だ。


 穴を掘って調べるなら土精に任せるのは心配だし、

 俺が行くのが一番犠牲が少ないか・・・?



『――お父様っ!!《シンクロッ!!》』



 次の行動をどうするか思考の海に沈む意識がクーの声で引き戻される。

 声を上げた瞬間にシンクロも発動してくれたので、

 クーが何に反応したのかすぐに理解し俺も魔法を発動させる。



「《アクセラレイター!!》」



 魔法により俺自身の時間は一気に加速し、

 等速のアルシェ達を置いてきぼりにして高高度に出現したソレを片っ端から破壊していく。


「はあああああああああああああああっ!!!!」


 全力で動き、殴り、蹴り、掌底(しょうてい)し、膝蹴りで破壊し尽くし、

 長続きしない[瞬間加速魔法]は空から飛来したオベリスク群の破壊と共に効果はすぐに切れる。


 等速の世界に戻った俺の目の前で、

 破壊されたそれぞれのオベリスクが一気に砕け散り落ちていくのを眺めるでもなく、

 俺はさらに高い空へ向けて声を張り上げる。


「シュティーナ!!」


「本当にイクダニムの成長の早さには驚かされるわね。

 この距離で気付かれるとは思わなかったわ」


 オベリスクを破壊した位置から上空を睨みつつ現れた敵の名を叫ぶと、

 空に出来ていた亀裂から予想通りの女が姿を現した。



 * * * * *

「こういう事ですかっ!」

『何が起きてるのさ。

 アルシェを頭に乗せてるから上を向けないんだけど・・・』


 兄が目の前から消え、

 上空で破砕音がしたあとからパラパラと大小様々な黒い石が落ちてくる。

 それも大量に。


「フリューネ様ここから少し移動しましょう、上空に魔神族が現れた様です。

 この振ってきた黒い石はオベリスクの破片ですね」

『じゃあ、宗八(そうはち)は約束を守ってくれたんだね』


 何故空からオベリスクが降り注いだのかは不明ですが、

 クーちゃんと[ユニゾン]しているメリーが叫んだ瞬間にお兄さんが動いたので苛刻(かこく)のシュティーナが原因でしょう。


 狙われたブルー・ドラゴン(フリューネ)様は嬉しそうですが、

 私は魔神族の狙いを考える。

 このタイミングで動く理由は一体・・・。


「久し振りだわね」

「――っ!?貴女は・・・!?」


 考え始めた矢先に耳に届いた覚えのある声音。

 その場の誰一人として氷の少女の登場に気が付けなかった。

 声と共にあの威圧が全身を襲い顔を上げれば、

 鎧魚(エノハ)と呼ばれた空飛ぶ魚の上に立つ魔神族と目が合った。


氷垢(ひょうく)のステルシャトー・・・」

「いつの間に!?」


 声を掛けられたのは私。

 視線が合っているのも私、と言うことは。


「私にご用ですか?」

「嫌そうな顔をするものではないわ。

 私だって本当はあっちの男の子と戦いたかったのにシュティーナに譲っている状態なのだわ。

 2等賞だからそこまで不満はないけどね」


 最後の一言で戦意が一気に膨れあがったのがわかる。


「そんなに緊張しないで欲しいのだわ。

 今回私はゲストとして来ただけ。

 風精霊が覚醒するまでの時間稼ぎに私を使うなんて、

 マグニも贅沢をするものだわ」

「姫様どう致しますか?」


 オーバーアクションに愚痴を零す氷垢(ひょうく)のステルシャトーを尻目にマリエルが声を掛けてきた。


「私達とフリューネ様で相手をします。

 マリエル達はあちらの相手をする必要がありそうですし、

 メリー達もおそらく誰か宛がわれる可能性はありますね。

 手隙の者は下で警戒をしてサポートをお願い。

 可能性は低いと思いたいですが、

 滅消(めっしょう)のマティアスが出て来た場合はお兄さんか拳聖(けんせい)

 もしくはタルちゃんに相手をしてもらう必要があります。

 死なないよう立ち回るように」

「かしこまりました」

「わかったんだよ!」



 * * * * *

 姫様の指示と共にその場に居た仲間が分かれる。

 私も氷垢(ひょうく)のステルシャトーと同じく時間稼ぎの役目を担ったのか、

 私に向けて中途半端な殺気を放つ羽女の元へと舞い上がる。


「待たせた?」

「別に・・・」


 相変わらず口数が少なくて何を考えているのかわからないなぁ。


叢風(むらかぜ)のメルケルスよね?

 私の名前はマリエル、そして一体になっている精霊はニルチッイよ!」

「興味・・・ない・・・」


 あっそ。

 じゃあ、始めようか?


 こちらが構えを取ってもメルケルスは構えを取らない。

 これは勇者の証言も聞いて知っている。

 基本はカウンターばかりで攻撃に関しては消極的だそうだから、

 とりあえず風の護りを突破出来るかが私たちの勝利の鍵になることは必然!


「勝負っ!」



 * * * * *

 次々と姿を現して戦闘に入る仲間達の気配を感じつつ、

 俺は納得のいかない顔でシュティーナを睨み付けていた。


「なんでアスペラルダばっかり狙うんだよ」

「逆に聞くけど、

 貴方たち以外に私たちへの対抗手段を持っているの?

 遊びにすらならない方々を相手にする意味ってあるかしら?」


 ないですね。

 俺達ですらやっと対抗手段を手にしたばかりなのに、

 育て始めた他国ではまともなダメージを与えられるわけが無い。

 教国の枢機卿もアナザー・ワンも強いには強いが、

 決定的なダメージに繋がる高濃度魔力を扱えない為に戦力として期待出来ない。


 獣人の知識が足りていないのではっきりとは言えないが、

 まだ[気]を使って戦闘を行う拳聖(けんせい)の方が期待出来るくらいだ。


「っ!? マジか・・・」


 現状でも頭が痛いのに、

 思い出したくないNo.1のアイツの気配が空を切って近付いてくるのを察する。


「一度受け止めに行っても良いか?」

「はぁ・・・どうぞ。

 こっちでも邪魔だから来ないでと言っておいたのだけれど・・・、

 本当に面倒だわ」


 魔神族も一枚岩ではない様々な性格をしていることは理解していたけど、

 実質司令塔の様な立ち位置に映る苛刻(かこく)のシュティーナですらアレの制御は出来ていないのか・・・。


 俺の背を狙うこともなく、

 ため息を吐きながら上品に手を頬に添えて見送るシュティーナを残し、

 息を思い切り吸い込みながら移動を開始する。


「タルテューフォ!!!俺に着いて来いっ!!!!」

「に~にぃ~!わかったんだよぉ~!」


 受け止めた後の対応は俺しか準備が進んでいない。

 というか、俺ですら準備完了したなど言えないレベルなのに、

 なんでコイツが来ちゃうかなぁ~。


 俺の声は[エコー]を使って届かせたけど、

 魔法の使えないタルテューフォは自前の肺活量でギリギリ返事を返してきた。


「来たかっ!」


 期待の本命っ!


「エゥグーリア!!!

 俺の下まで来て下さいっ!!!!」

『無精が少ない方ですよね?大丈夫です?』


 獣人は魔法が使えない代わりに、

 体内に[気]を巡らせて肉体強度を上げるスキルを産まれながらに持っている。

 本質的には魔力循環をしていると思っているから、

 簡易版[精霊の呼吸(エレメンタルブレス)]だと考えている。


 ともかく循環の特殊技能は持っていても魔力は少ないので、

 その分無精も少なめという事は[無精の鎧]が不安だとノイが言っている訳だが。


「アニマを貸し出そうかと思ったけど」

『嫌がってるですからね。

 やはり兵士達から徴精(ちょうせい)するしかないです』

「勝てる勝てないじゃなくて死ににくくする為に必要だからな。

 先にフィリップ卿に話しておいて良かった」


 精霊は自身のご飯として魔力を頂く代わりに人間が怪我を負わない様無精の鎧として仕事を行う。

 ノイと話している内容は、

 その無精を徴兵ならぬ徴精(ちょうせい)して拳聖(けんせい)に纏わせ、

 彼が骨を折ったり戦闘不能にならないように使い回す為の方法の事だ。

 個人的にバトルジャンキーの印象もあり、

 トラウマにもなっているアイツを野放しには出来ない。


『踏ん張るですよ!』

「これ、完璧に受け止め切れたら嬉しいなぁ」


 短い間に必要な事を決断してしまう。

 同じ間に滅消(めっしょう)のマティアスはすっ飛んで来る姿が視認出来るところまで進んで来ている。


 察知した時はまだまだ距離があったはずなのにそれでも届いた覇気。

 ここまで近付けばその威圧感に押しつぶされそうに感じる己を鼓舞し、

 聖壁の護腕(ディバインラーム)が装着された左手を前に突き出し展開するシールドを強くイメージする。


 大事なのはイメージだ。

 手にしたことのある盾の再現度は高くとも防御力は落ちるかも知れないし、

 イージスの盾やゲームに出てくる最強の盾とかエスカッション(強)とかはイメージ不足でアウトだろう。


 つまり、俺が知っていて尚且つ信頼出来る防御力のある盾。



「《――聖壁(せいへき)》」


 ガアァァァァァァァァァァァンンンンンンンンンンッッ!!!!



 直前で滅消(めっしょう)のマティアスは、

 腕を大きく振り上げ勢いを増した殴打で盾と衝突した。


 なんなのこの威力!!マジで(怒)!!!

 全身で巻き込んでいた衝撃も俺の後ろへと駆け抜けていき家々の残骸や土煙が宙を舞う。


 隕石の如き迫力と存在感で登場し、

 俺と勇者のトラウマパンチを受け止めた盾は、

 1枚の聖壁の欠片(モノリス)を大きい1枚としたものだ。


 2名の魔神族を相手に戦い抜いた安心と信頼の元・小盾は、

 受け止める役割こそ完遂しきったが、

 細かなヒビは全体に広がって間もなく破壊されるだろう。


「ふんっ!」


「ファック!」


 マティアスが受け止められた拳に再度力を込めて振り切れば簡単に盾は砕け、

 俺達はその拳圧でぶっ飛ばされながらも悪態を吐く。


「んげっ!」

「生きているな、護衛隊長殿」

「助かりました、エゥグーリア」

「にーにぃ!タルも居るんだよ!」


 土煙の中で態勢を整えるまでもなく誰かに掴まれ姿勢が安定した。

 というか、声を掛けたあとに素直に従って俺の真下で様子を見ていたエゥグーリアだった。

 ついでにタルテューフォも合流していて何故か肩車までされている始末だ。


 ともかく、生きて受け止められた。

 俺の周囲を抜けていった衝撃波で城下町は一部更地になっているけれど。


「手前がアレの相手をしよう」


 俺達は着地後に優しく地面に降ろされた。

 タルテューフォも飛び降りて俺の隣にトテテと駆け寄ってきた。

 コイツは脳天気な様子なのに対し、エゥグーリアの視線はアレから離れない。


「相手をしてもらえるのは助かりますが、

 おそらく時間稼ぎが目的・・・のはずです」


 苛刻(かこく)のシュティーナの話を信じればだが・・・。

 そんな事も考えつつ素早く2人に纏う無精の人数を確認する。


『(やはり少ないです)』

「2人ともそのまま待機で」

「はぁーい」


 拳聖(けんせい)からの返事はないけど動かないから従ってくれるんだろう。

 ササッと小さなゲートを中空に開いて目的の場所へ繋げる。

 これも精霊使いの質が上がったおかげ様で、

 人の移動をメインにした[ゲート]とは違って小さい精霊程度しか通れない代わりに事前設置型ではなく正確にイメージ出来れば繋げる事が出来る魔法だ。

 名前はまだ無い。


「ポルトー、無精を借りるぞ!」

「了解だ、連れて行ってくれ」


 繋げた先はアスペラルダ。

 小さめのポテチ袋の開け口程度のゲートに向けて喋りかけると、

 先に思惑を伝えていたポルトー=サンクスが城に残る兵士を50名ほど生け贄(いけにえ)として集めてくれたので、

 彼らの纏う無精をお借りする。


『お前ら、こっち来い!分かれて2人に纏え!』


 声に魔力を乗せ無精共を無理矢理従わせる。

 素直に兵士達から離れた無精達は、

 小さなゲートから飛び出してそのままエゥグーリアとタルテューフォに纏わり付いていく。


 これでそれぞれが一般成人25人分の無精を纏ったことになる。

 ただ、アニマのように統率を取れる頭が居ないから、

 攻撃を受ける箇所へ集中して護りを固める事は出来ない。


「これで死ににくくはなりましたが、

 出来うる限り攻撃は防御では無く回避を意識して下さい。

 生き残って、滅消(めっしょう)のマティアスの情報を持ち帰れば最高です」

「了解した」

「メインはエゥグーリアにお任せします。

 タルテューフォは隙を突いたりカバーを。

 積極的な攻撃は控えるように」

「了解だよ!」


 ポテチゲートを閉じながら指示も飛ばす。

 まともに衝突するのは今回が初めてで己の手ではない訳だし、

 本人はヤル気でも負担を強いるのなら手は厚くしておかないと・・・。


「何の準備も出来ずに頼って悪いな、タルテューフォ」

「よくわかんないけど何かはしてくれたんでしょ?

 タル、頑張るよ!」


 なでりなでり。

 ニコニコ笑顔で不安を感じていないタルの頭を撫でる。

 聖獣の素の防御力がどの程度かもはっきりわかっちゃいないが、

 脳天気なのか自信があるのかも理解出来るほどの時間がなかった。


 死ぬこと以外はかすり傷。

 死んだら助けられるかもわからん。

 精一杯生き残ってくれよ。


 そして最も負担を掛ける拳聖(けんせい)エゥグーリア。

 こっちは身内枠じゃ無いけど、

 拳聖(けんせい)と呼ばれるだけの実績があるわけだ。



「「ご武運を」」



 自然と拳を合わせ、

 互いの健闘を祈って俺はその戦場を離れた。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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