序章
途方もなく続く闇の中を、私はゆっくりと落ちていた。落ちる前はどこに居たのか、そもそも自分は何者なのか、さっきまで確かに分かっていたことが、風にさらわれる砂のように散ってゆく。
―――これで、やっと終わる。
記憶が形を失いつつも、その不思議な安堵感は胸の中にあった。何が終わるのか、自分でも分からないが。
同時に、これで終わるのかと、惜しむ自分もそこに居た。旅人が、長い旅路の果てにようやく安住の地を見つけたものの、まだ見ぬ世界への憧れを捨てきれずにいるような、そんな感覚だった。
旅人ならば、留まるか、先へ進むか、選択肢もあるだろうが、私はそれを持たない。始まりの時から、終わる時も定められていた。私はこのまま、決められた最後に向かって、真っ直ぐに進むはずだった。
その時、出口のないはずのその場所に、白い一筋の光が差した。横から差し込むそれは、まるで呼吸するように、強く輝いている。その光が、私に抜け道を教えてくれたような気がして、思わず手を伸ばすと、白い光もまた、すがるように私の腕に絡みついた。
指の先から、光が自分の身体に入り込んでくるのを感じた。胸へ、胴へ、足へ、光は全身を巡り、何もかもが抜け落ちた私を、内から満たしていく。
身体に、ずん、と重みを感じた瞬間、渦にのまれるようにして、私の意識は遠のいていった。




